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掌編小説、随筆

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掌編小説と随筆をまとめています。
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2023年7月の記事一覧

物書きの原稿用紙

 現代の物書きが原稿用紙を使って小説などを書くことは極めて少なくなったと思う。プロットまでは紙に書くが、下書きまたは初稿からはスマホやパソコンを使うという人がほとんどであろう。自身も詩を書く時にはスマホで直感的に書いている。スマホの便利な所といえば、すぐ書ける、書くのに難しい漢字をすぐ表記出来る、間違えたらすぐ消せる等々、便利ずくめである。現代よ、なんて素晴らしいんだ! と思いつつも、高級な原稿用

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辞世の葉書

 八月八日に立秋を迎え、新涼を感じる季節となった、らしい。早朝のかなかなと鳴く蜩の寂しげな声が耳に優しい圧を与える。
 残暑見舞いを送るための葉書を五葉ほど、文机の引き出しから厳かに取り出した。離れた家族に二葉、恩師に一葉、それと書き損じ用の二葉である。また、手紙の書き方や季語が載っている本を三冊ほど本棚から取り出して、机の上に並べた。丁寧な文章を書こうか、それとも粋に句でも詠もうかなどと、本の中

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青い初恋

青い初恋

 初恋は忘れられないものである。
 高卒で清掃員として働き、一人で黙々と作業をしていた時のことである。その日は、初夏の清々しい空気が渡り、綺麗な青空が広がっていたのを記憶している。空き缶の回収をしていると、突然、声を掛けられたのだ。その人が言うには、自分も清掃員としてアルバイトをしているため、もし相談事があれば聞くとのことであった。最初はからかわれているだけだと考え、その人が去った後、会話で中断し

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徒然を連れて 3

 神出鬼没のライターと化した三葉治です。

 今日は、仕事場の向日葵の水やりに行った時に、後脚を片方無くした茶色のバッタに出会いました。私は脚を無くした昆虫を見る度に「お前はいま何を思って生きているのか」と問うことがあります。脚が無くなって悲しいのか、痛いのか、それともなんとも思わず今日のご飯のことを考えているのかと。でも虫は当たり前のように答えません。私の存在を感じて警戒しながらじっとしているだ

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