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掌編小説、随筆

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掌編小説と随筆をまとめています。
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2022年2月の記事一覧

読者をふるい落とす小説を書く

自分の好きを集めて書いていたら、読者は置いてけぼりになるだろう。それを私は実行する。

媚びない。読める人が読めばいい。特に私が書いている小説のように、専門用語を使うものは、必ず人を選ぶ。

私は書きたい。あわよくば同人誌にしたい。そして遺書の代わりにしたい。ただそれだけの想いでで書いている。

自分の小説に自信がない言い訳をしているわけでは無い。ただ、書いているだけで、自然と読者をふるい落とすよ

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三葉治の自己紹介

 新緑が輝きを増し、梅の実が大きく膨らむ頃、「三葉治」は誕生した。

 とある文豪の名を冠するその人物は、散歩中に梅の木を見つけて、そうして想像の任せるままに、ある文章を書き始めた。それが初の掌編小説『青梅』である。

 当時、死にたがりだった自身の想いと、毒物でもある青梅を題材にして小説を書き上げた。その出来栄えは、初心者であるが故の稚拙な文章であったが、自分でも文章を書けるという新発見、文章を

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『青梅』

『青梅』

 僕は死んだんだ。
 梅雨の時期。久しぶりに晴れた日の夕暮れ時だった。散歩中に梅の木を見つけた。よく見ると、生き生きとした新緑の中に、沢山の青い実が成っていた。僕はその中から程良い実を三四個採り、ポケットに詰めて、家路についた。

「ただいま」
 僕は床に座り込み、持ち帰った実を一つポケットから取り出して、じっと見た。時折、てのひらの内で転がして、その大きさと重さをしっかりと確かめた。
「毒か……

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『愛を綴る』

『愛を綴る』

 拝啓

 小春日和に喜びを感じ、また紅葉が鮮やかさを増す霜秋の侯。お風邪など召されていませんか。
 この手紙で君への愛を綴りたいと思うのですが、その愛は青い海の底よりも更に深く夏の日差しよりも更に熱いものと心得ていますので、この便箋がそんな愛を綴る筆に耐えられるかどうかが不安で、気持ちを抑えて書いています。しかし、どうしても、紙面以上の気持ちが溢れ、筆を動かす手は止まらず、別紙にて妄想たくましく

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『古今患者の残穢』

 二○二一年十一月十七日。精神病院に入院した。退院目標は、手元不如意のために、一週間、長くても二週間に設定した。
 私は個室で過ごすことになった。
 ベッドと机、クローゼット、洗面台が備え付けられており、風呂とトイレは共同となっている。個室の窓から見える外の景色といえば、向かいの患者達の窓群と、職員と来客のための駐車場、それから少し離れた所に体育館のような建物があり、そのずっと奥に薄く靄のかかった

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