てへりんこ

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最近の記事

奴が死んだ

 pm5:25靖国通りは市ヶ谷あたり。桜の開花とその男が私をぶん殴るその時と、どちらが先か。桜は今にも咲き乱れそうだ。あと一人、この東京のどこか、どこかの女が男の脚に縋りながら、「実家と縁を切るから許して」と泣き喚きさえすればこの桜は咲き乱れることだろう。桜の養分は女の涙だ。それがあってこそ、桜は美しく男と共に散っていくのだろう。外濠公園遊歩道沿いに停車した白いグロリアの中から、助手席に身を乗り出して私は桜を見上げるのです。桜の蕾は夜露をたたえ、死なば諸共たとえ苦海に散りしそ

    • 2024/03/28

       ほんの少し前までは毎晩キッチンで明日が怖くて気絶するまで酒を飲んでいた。子宮は捻れたまま上壁にくっついてしまったらしい。それは過去に食いまくったドラッグと、聴力と平衡感覚と引き換えに得たゴアトランスの音の中での絶頂、その上昇や下降、そしてうねりの音の中受胎告知を受け今に至る。または、私に「髪を伸ばせ」「下を向いてろ」「車のナンバーを控えとけ」としか言わない数々の通り過ぎていった男たちの影響によるものであるらしい。姿見に全身を映すことなく真冬にも関わらず着古したスウェットに大

      • 2023/02/12

         真夜中の湾岸。今夜はセックスもマリファナも無し。湾岸の合流でその速度を保ったまま張ってきたミニバンの後ろにぴったりくっ付く黒のSUV。それを運転するのがヒカル。彼の両親が宇多田ヒカルからとったその名前。その助手席にいるのが私。最初の彼氏の名前がヒカル。後部座席の女が最近までデートをしていた男の名前がヒカル。あ、タクミかも。知らねえ。その隣の男の好きな女が池袋ウエストゲートパークのヒカル。車内には宇多田ヒカルのtraveling。あのイントロを聴いて思い出す夜遊びがもう大人の

        • 2023/02/06

          一歳四ヶ月になる娘は私の右膝に出来たかさぶたを見ると指を指しながら露骨に嫌がる。後退りをしてテーブルの下に隠れてしまう。あんなに嫌な顔をしながら嫌がる姿はどの教科書よりも正しきものだと思う。じゃあ私もあの時、あの真夜中、外は土砂降りだった。そんな中自分の股に両手を当てながら娘が私のかさぶたにするような顔をして、"中には出さないで"とでも言えば良かったのか。なんて苦笑いしたりしてね、母娘だからよく似てるんじゃないかな、なんてまた、そんな事を言ってみたり。その右膝のかさぶたは私

          年末のご挨拶

           てへりんこ、昨晩は忘年会。離婚届出した日の夜中、実家の庭に生えてる林檎の木によじ登って泣いたこととか絶対忘られないけどね。あの娘が初めて覚えた言葉が"やだ"なこととか、職場の非常口から保育園のお散歩カートに乗せられた娘の後ろ姿が見えることとか、諸々支払いの引き落としの音が聞こえる度にあの娘と一緒に浸かった湯船から二度と上がれない気もしたよね、そうゆうの、それらの全て、年を越しても絶対に忘れられるわけじゃないけどね。今日明日だけを娘に見せてあげたいわけじゃない。遠いようで近い

          年末のご挨拶

          2023/10/22

           元夫ととの思い出の中で最も大切なものとしているのは意外にも終わりの方の頃のことだ。最後のベトナム。フーコック島での最終日。これから離婚をするであろう二人はHONDAのPCX125にニケツをして島を縦断した。走れば走るほどに振動がその男を好きになった理由を溢れ出させる。走れば走るほどに砂埃がその先を、未来を見えなくさせた。これから離婚をするであろう二人はティエンソンディン山に登る。ぶら下がって揺れる翡翠色の蛇は頭から私の肩から腰にかけて流れていく。その二人にはもう話すことはな

          2023/10/17

           今日、金木犀の香りをはっきりと感じました。同じく金木犀の香りを嗅いでいたであろう一昨年の今頃はどこでもビールを飲み、テーブルに爪でピアノを弾いては店員を呼んでいた。去年の今日はちょうど娘を産んだ日。産院の病室の窓の先の橙の夕方の縦長の四角からそれは香ってきたのだった。金木犀のそれは風に乗っては強くなったり弱くなったりを繰り返しながらどうやら私達をひどく感傷的にさせるらしく、くだらない感傷は私たちをやけに横柄にさせる。一昨日の夕方、庭の桜の木にあろうことかどこからか鳥が集い、

          2023/09/21

          このひと月は保育園探しに職探し。それと元夫との離婚協議。何から手をつけていいか分からず、吐いたはずの息に窒息してしまいそうだった。役所の子ども施設課で泣いて騒いで呼ばれた警備員。"大卒だからって偉そうによ" なんとなく一度は言ってみたかった台詞を言ってみた。こんなんだからこの女は離婚するんだと思われたに違いない。挙句の果てには、"そこのゴミ箱蹴って差し上げましょうか" この女はこの後どうやってどのように家路に着く事が出来るのであろうか。そう思われても仕方がない。役所を出たあと

          2023/09/19

             マンションの共有スペースに出された段ボール詰めにされた私の荷物には、あなたらしさがよく出ていたと思う。段ボールを開ける度にほんの少しだったあなたとの生活を見せられているようだった。私しか飲まなかった珈琲まで入れてくれなくたっていいのに。交換日記やアルバムの写真も捨ててくれてよかったのに。二人で始めたこの結婚を、先に一人で終わらせたのはお前だと言われているような気がした。私以上に幸せな女はいないと心から思っていた日々が確かにあった。荷物を積んだ2トントラックは首都高を走る

          てへりんこのベトナム旅行記

             ベトナムはハノイ。月の四分の一を過ごしたベトナムの最後の夜。インターコンチのベランダ。前方右斜めの部屋の白人の女は昨夜遅くに裸で夜風に当たりながらドラゴンフルーツの種をプールに飛ばしていた。その部屋から見た前方左斜めの部屋の日本人の女、そう私は、このベトナムで旦那に離婚を切り出した。チャンティエンプラザの前で泣いて騒いではもう日本に帰ると。くだらない都会のホテルの一室に泊まるありきたりな喧騒。男女。ベランダで久しぶりに紙煙草の煙をくゆらす。雷が鳴っていた。その稲妻は目下

          てへりんこのベトナム旅行記

          2023/06/07

           娘の隣で畳む洗濯物は畳んだそばから娘に散らされる。それでもあの娘の近くで畳みたい。彼女と同じ目線で床に転がると、ソファの下が4車線の昼間のトンネルの様に見える。本棚は果てしなくそびえ立つ、全く自分に関係のないものに思える。顔をくっつけると、私の顔の中に彼女の小さなお顔がすっぽりと収まる。そして彼女は泣いて私は抱く。私に抱かれたあの娘は私の肩越しに世界を観察する。安心したように、そして少し勇敢に、壁や鏡に手を伸ばし、伸ばした距離の先、手が触れる。棘でも刺さったのか。すぐに手を

          2023/05/10

           てへりんこの娘は今月で7ヶ月。この7ヶ月の間続いていた緩やかな孤独となんとなくの閉塞感は気候も相まってほんの少しだけ遠いところへ。たまに目が合うけど、目を合わせてる時間があったら娘に食べさせるバナナ潰してる。寝かしつけをしながら歩いたこの部屋も今となっては端から端までにかかる歩数が分かる。何処にどの家具が収まるかが測らずとも分かるってもん。YO ていうか、まじ一日を占める膨大な数の緊張と緩和。前から流れてくる障害物を捌いていく。画面右上のライフとHPと制限時間には最新のご注

          告ぐ

           告ぐ。皆々様各位。他人の幸せを心から喜べるということはそりゃ大層誉められたものではけれど、他人の幸せを喜べるという振る舞いに固執してしまう竹取の翁ありけり。惚気、昇進、栄転、子宝ザクザク、受賞。他人の幸せは自分の幸せだと思えることは、自分が現在満ち足りてるからという印象を与え、世間を欺ける。そんな振りができる。賢ければ賢いほど、その振る舞いの中にあえて数滴の闇を垂らす、これまた振りをすることによって、満ちている、溢れている、あり余っている振りができる。まともな人として生き長

          2022/04/11

           タイル張りの冷たい床に素足のまま椅子に座って爪先立ち。夕方と夜のちょうど真ん中の頃。流行る海外ドラマよろしく今にも大量のライフルが並べられそうな同じくタイル張りのキッチンには、バターが雑に開けられ、虫が止まり、水だし紅茶は汗をかいてはタイルにお漏らしを溜めて膨らんだ水溜りを作る。その形は魂の様だ。羊飼いの魂の形はきっとあの形をしていて、潰れた楕円は羊飼いのお気に入りの皿の様。毎日決まった時間に卵を食べては緑の上を歩き、星に降られて白い煙を心の琴線に星屑が引っ掛かって音を鳴ら

          2023/03/13

           人に話せば話すほど解像度が下がって全く違う話になるような類の事が積もれば積もるほど、本当に人は孤独になっていってしまうのでは。塵も積もれば山となるでしょ。そして鬼女なる大和撫子。なんなら、てか逆に、解像度が下がることの無い話とは。大変だ大変だ。大変だったら大変だ。予想外のセックス!パンティに貼っつけたままのパンティライナー。何時外し、何処隠す。とか、そうゆうもの。みなにとっての共通認識、共通言語がそこに存在し得るような話題。それらは身内ん中ですればするほどに、自論は強固に、

          2023/01/21

           男と手を繋いで男に手を引かれたままそのまま一緒に走るみたいな、そんな田舎臭い思い出などてへりんこにはひとつも無いね。どこからか音楽が流れてきて、裸足で芝生の上を、脱げたミュールを右手の小指に引っ掛けアスファルトの上を、安いお酒、たくさん、浴びるように飲む約束だったこの先の予定が、気付いたら一緒に熱いシャワー、浴びてたね。うちら。みたいな、そんな思い出はひとつも無いね。淡い花びら、肩に積もる。無いね。そんなこと、起きない。淡い花びらなんぞ見たことない。好きな花、無い。無論肩に