海辺の散歩者

■ ある占い師の感覚と思考■ 港町に暮らすある占い師の日々を、書き綴っています。時々ち…

海辺の散歩者

■ ある占い師の感覚と思考■ 港町に暮らすある占い師の日々を、書き綴っています。時々ちょっと不思議なことも起きますが、普通といえば普通の生活です。急拡大する占い業界にも、ふれていますよ。

記事一覧

占術師口上 -乱世に思う-

我、占術師にして流離人(さすらいびと)。 官学に学ぶも野に下り、名を借り名を潜めて世を渡る。幾多の世事俗事に関わる事を生業としつつ、占術師になりてのちは出世蓄財…

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シュルレアリストたちの骨牌 続・トランプの来歴

マルセイユという響きには、どことなく懐かしさがある。 ここを訪れたのは2度、滞在期間にすれば1か月足らずだけれど、地中海に面したこのフランス第2の都市に不思議な…

海辺の散歩者
2週間前
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タロットの起源である、トランプの来歴

「タロットで、見てほしい」 という依頼を、ごくたまにうけることがある。 占い手法を指定しているわけだ。一般的にはクライアントにとって、手法よりも結果が気になるとこ…

海辺の散歩者
2週間前
138

センチメンタルな旅、古本屋の午後

「そういえばここに、小さな本屋があったな」 と思う。 何度も文庫本を買ったことがあるし、雑誌の立ち読みもした。私鉄沿線の大学町の街角だ。本屋の横にはクリーニング店…

海辺の散歩者
3週間前
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ヒメジョオンの花で思いだす、京都の美人占い師

5月が深まるころ、ヒメジョオンの白い花が斜面を埋めつくす。地面から1メートルほどの高さまで真直ぐに茎を伸ばし、いくかの小さな花をつけている。それらが風でゆらゆら…

海辺の散歩者
1か月前
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四月が残酷なのは、芽吹きの苦悩なのか

冷たく晴れて、風の強い日だった。 午後、運河になった狭い海に、ノコギリの歯のような白い波が立っている。 僕は自転車に乗って、運河沿いの公園を走っていた。青葉になり…

海辺の散歩者
1か月前
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自己紹介 noteデビュー

はじめまして。 海辺の散歩者、と申します。よろしくお願いします。 気どった名前にしてしまって気恥ずかしいですけれど、これは数万年前にアフリカ南西部に暮らしていた人…

海辺の散歩者
1か月前
184

僕は占い師になる前に、猫と出会った

孤独な都市生活者にとって、猫は素晴らしい友人である。 それはたぶん、猫が侵しがたい孤独を抱えているからだろう。だから寂しがって近寄ってきたとしても、気づけばふっ…

海辺の散歩者
1か月前
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占術師口上 -乱世に思う-

占術師口上 -乱世に思う-

我、占術師にして流離人(さすらいびと)。
官学に学ぶも野に下り、名を借り名を潜めて世を渡る。幾多の世事俗事に関わる事を生業としつつ、占術師になりてのちは出世蓄財金策など外事の相談から、結婚出産跡継という内事の悩み、さらには夫婦親子嫁姑の諍いに至るまでを扱うこと多数。

なかでも色恋艶事濡事はとりわけ多くの女人にとって身を焦がし身を捩るほどの最大事なり。已むに已まれぬ事態となりて、行く場所を失い心の

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シュルレアリストたちの骨牌 続・トランプの来歴

シュルレアリストたちの骨牌 続・トランプの来歴

マルセイユという響きには、どことなく懐かしさがある。
ここを訪れたのは2度、滞在期間にすれば1か月足らずだけれど、地中海に面したこのフランス第2の都市に不思議な親しみを覚えている。ここには大都市の喧騒はなく、多くのヨットが停泊する旧港付近はむしろ人情深い下町の感じと、港町らしい荒くれた気配が相まってぞわぞわした。

ずいぶん前になるが、ある夏の日、このマルセイユの路上で、彫金などの飾りや手編みの手

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タロットの起源である、トランプの来歴

タロットの起源である、トランプの来歴

「タロットで、見てほしい」
という依頼を、ごくたまにうけることがある。
占い手法を指定しているわけだ。一般的にはクライアントにとって、手法よりも結果が気になるところだろうが、タロットへの思いが強い人もいるのだろう。たしかにこのカードがもつ妖しさは独特のものがある。

ただし、歴史は意外にあたらしく15世紀ごろ、キングゲーム用のカードとして開発されたといわれている。ルネサンス期が始まろうとする時代で

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センチメンタルな旅、古本屋の午後

センチメンタルな旅、古本屋の午後

「そういえばここに、小さな本屋があったな」
と思う。
何度も文庫本を買ったことがあるし、雑誌の立ち読みもした。私鉄沿線の大学町の街角だ。本屋の横にはクリーニング店もあったが、それももうない。町が寂れたわけではなく、移り変わっているということだろう。僕も雑誌の立ち読みはしなくなった。

思えば、新刊書店が数をへらすまえに、古本屋が姿を消していった。
ところが最近、都市部ではこだわりの古本屋をあちこち

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ヒメジョオンの花で思いだす、京都の美人占い師

ヒメジョオンの花で思いだす、京都の美人占い師

5月が深まるころ、ヒメジョオンの白い花が斜面を埋めつくす。地面から1メートルほどの高さまで真直ぐに茎を伸ばし、いくかの小さな花をつけている。それらが風でゆらゆら揺れていた。
僕はときどきマンションの裏のベランダにでて、ほんのわずかな時間、頬杖を突いて、この群生を眺めている。繁殖力の強い野草だ。花のあとに実を結ぶと枯れてしまうのだけれど、1株がつくりだす種は膨大な数にのぼる。毎年、この花が斜面をおお

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四月が残酷なのは、芽吹きの苦悩なのか

四月が残酷なのは、芽吹きの苦悩なのか

冷たく晴れて、風の強い日だった。
午後、運河になった狭い海に、ノコギリの歯のような白い波が立っている。
僕は自転車に乗って、運河沿いの公園を走っていた。青葉になりはじめた桜の並木がゆらゆら揺れて、木漏れ日がまぶしかったのを覚えている。なんだか気持ちがざわつくのを感じていた。いまから2か月ほどまえのことだ。

   四月は残酷きわまる月

そう書いたイギリスの詩人がいる。その詩の一節ががふと頭に浮か

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自己紹介  noteデビュー

自己紹介 noteデビュー

はじめまして。
海辺の散歩者、と申します。よろしくお願いします。
気どった名前にしてしまって気恥ずかしいですけれど、これは数万年前にアフリカ南西部に暮らしていた人類の愛称です。その人骨が海辺で発見されたのですね。現地のアフリカーンス語では strandloper。英訳すれば beach walker です。なんとも詩情溢れる名前じゃありませんか。これを拝借したわけです。
彼らはいまの人類、つまりホ

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僕は占い師になる前に、猫と出会った

僕は占い師になる前に、猫と出会った

孤独な都市生活者にとって、猫は素晴らしい友人である。

それはたぶん、猫が侵しがたい孤独を抱えているからだろう。だから寂しがって近寄ってきたとしても、気づけばふっと目の前からいなくなってしまう。群れではなく単独の狩猟者がもつ静寂に、むやみに立ち入ってはならない。

猫はボーダーの領域にいる存在だ

僕が単身の都市生活者だったころ、一匹の猫を拾ってきたことがあった。夏の夜で、雨の降ったあとだった。夜

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