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ことばにするのが苦手だけど、ことばにしないと忘れてしまう。

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ことばにするのが苦手だけど、ことばにしないと忘れてしまう。

最近の記事

自分の中心

 河合隼雄の「宗教と科学の接点」岩波現代文庫を読んでいる。そこで、統合失調症の心理療法家であるジョン・ウィアー・ペリーと、トランスパーソナル学会での講演後に、その治療について尋ねてみたところ、ペリーが一番大切だと言ったのは次のような態度だった。  どれほど妄想や幻覚に悩まされ、あるいは、荒れ狂っている患者さんに対しても、それをこちらが静めようとか治そうとかするのではなく、「こちらが自らの中心をはずすことなく、ずっと傍にいる」と、だんだん収まってくる  大切なのは患者さんの

    • 野球ボールと「ものづくり」

       先日メジャーリーグが投手の粘着物使用を取り締まる方針を示し、それに対してダルビッシュが苦言を呈していた。手に滑り止めをつけて投げるなんてルール違反と言われても仕方ないと思ったのだが、なんでもあちらの野球ボールは日本のものと比べ滑りやすいため、投手は松ヤニや日焼け止めクリームを指につけて引っかかりやすくしているという実情があるという。  この野球ボールを柳 宗理はその著書「柳 宗理 エッセイ」のなかで、アノニマス・デザインのひとつとして紹介している。  野球のボール。投げ

      • クリーム

         一人称単数の中で私が1番印象に残った作品は「クリーム」だ。いや、正直に言えば、1冊読み終えたときにクリームが他の作品よりも印象的だったというよりは、クリームの中に出てくる「中心がいくつもあって外周を持たない円」という表現が印象的だった。読みながら、ああこれは心の中、深層心理に関する表現だろうなと感じた。そしてもっとクリームの意味するところを感じ取りたいと思い、何回か読み直してみた結果、自分なりに解釈を深めてみたことを書いていきたい。  この小説は、主人公のぼくが浪人生だっ

        • 華氏451度

           本がなくなった世界。本を読むことも所持することも禁止されている世界。そんな世界が描かれているのがレイ・ブラッドベリ著「華氏451度」だ。この世界では消防士ではなく昇火士が活躍し、あらゆる本を焼き尽くす。華氏451度は紙の燃焼点だ。  読んでいるうちに、なんともいえない気持ちになった。なぜなら、そこに書かれているのは学生時代の私のことではないか。本なんて読んでなかった。買うのはファッション雑誌。テレビで見るのはトレンディドラマ。今この時を楽しく過ごしたい、おしゃれに過ごした

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          手と足を思い出せ

           子育ても一段落つき時間ができたので、最近興味がわいている心理学を通信制で学んでみようかと色々調べていたことがあった。大学時代はろくに勉強なんかせず、なんとか試験を潜り抜けてきただけの私なのに、この年になってもう一度、名ばかりではあるが大学生に戻って、まだなんとか頭と目が大丈夫なうちに学びなおしたいと本気で考えていたのだ。  心理学を学びたいと思ったきっかけは、今の自分の仕事が大きく関わっている。この仕事を20年以上続けてきてわかったことは、科学だけではなく臨床知としてのあ

          手と足を思い出せ

          楽園とか幸福とか

           今朝の日曜美術館は「“楽園”を求めて~モネとマティス 知られざる横顔~」だった。モネはあの有名な睡蓮のある庭をセーヌ川沿いの街、ジヴェルニーに作りあげ、自分の楽園を作った。マティスは南仏ニースに、自分好みのテキスタイルや装飾品に囲まれた部屋を作りあげた。モネは(1840年11月14日 - 1926年12月5日)、マティス(1869年12月31日 - 1954年11月3日)、ともに19世紀から20世紀にかけて活躍した画家だ。  番組ではボードレールの詩から「人生とは病院のよ

          楽園とか幸福とか

          コロナ時代の読書

           3月ごろから家で過ごすことが多くなった。もちろん新型コロナウイルスのためだ。さて、この時間を何に使おうかと考えたとき、本でも読もうかなとなり、例年よりは読書時間が伸びている。  あなたが、もっとも多く読書したのは、いつ頃だったと思いますか?  それは軍隊時代でした  それは刑務所時代でした  それは病院時代でした  それは学生時代でした 寺山修司「幸福論」角川文庫  このままいくと、わたしは「それはコロナ時代でした」と答えることになりそうだ。  つまり、読書は「人生を

          コロナ時代の読書

          今夜、すべてのバーで

           お酒についてのエッセーを読んでいると、今まで知らなかったお酒の名前、原料と作り方、そこにまつわる文化などを知ることができとても面白い。そして今度バーに行ったらこれを飲もうと思えるようなお酒の名前を一つ知ると、なんだか大人になったような気分にもなもれる。  中島らも「今夜、すべてのバーで」講談社文庫は、タイトルから想像されるような楽しいお酒のウンチク話ではなく、朝から晩までお酒を飲んでいないと生きていけなくなってしまったいわゆるアル中(アルコール依存症)の主人公が、どうにも

          今夜、すべてのバーで

          ボウモア

           Facebookを眺めていたら、知人が生牡蠣にボウモアをかけて食べている写真が流れてきた。ボウモアは私にとって特別なお酒。理由は尊敬する人がそのお酒を好んで飲んでたというだけのことなんだけど、少しでもその人の立つ位置に近づきたくて、そこから見える景色を私も見てみたいと思ってる。そんな人が好むボウモアをワインバーの棚の上に置に見つけ、香りを少しだけ嗅がせてもらったことがあるが、薬草のような匂いがした。正直、あまり飲みたいとは思えない感じ。でも生牡蠣に合わせてみるなんていう食べ

          ボウモア

          文学は実学

           どこかで紹介されているなどして気になった本は、その場ですぐAmazonで検索して買い物かごに入れておくようにしている。こうすれば、後からじっくり考えて買うかどうかを決めることができるからだ。そして本屋さんでそのリストを参考に探してみて、なければAmazonでポチることもある。  そんなリストの中にここ最近投入されていたのが、荒川洋治「忘れられる過去」みすず書房だ。どうやら古本屋さんからしか購入できない状況にあるようだけれど、運よく1冊だけ残っていた。だから急がないと売り切

          文学は実学

          「臨床とことば」を読み解く 番外編「自分も冷コーでかまへん?」

           暑くなってきた。喫茶店のモーニングにつけるコーヒーもホットではなくアイスにしたくなるけど、行きつけのお店ではホットコーヒーならもう一杯無料サービスがつくので、なんとかギリギリまでホットコーヒー派を貫くつもり。でも、なんでアイスコーヒーにはお代わりサービスがないんだろう。  学生時代を過ごした大阪では、いわゆる関西弁という文化に驚くことが多かった。マクドナルドは「マクド」、自転車は「チャリンコ」、そしてアイスコーヒーは「冷コー」だ。 大阪なんて、一人称が二人称に、二人称が

          「臨床とことば」を読み解く 番外編「自分も冷コーでかまへん?」

          「臨床とことば」を読み解く~「見る」以外の感覚を

           子どもの頃、父(医師)が酒を飲むとよく「医者は科学者なんだ!俺は高尚な人間なんだ!」とクダを巻いていた。こんな時は、あまり楽しいお酒ではなかったようだ。  これを聞いても私には、医者イコール科学者というイメージが湧かなかった。同じ白衣をきていたとしても、子どもにとって科学者とは何か実験している人であって、聴診器をつけてポンポンと身体を触る程度のことしかしない父のような医者は到底科学者とみなすことはできなかった。今改めて考えてみると、これが医者でなく医学ならイコール科学と言え

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          ノートルダム大聖堂とマリア信仰

           13世紀から14世紀をゴシック時代という。もっとも、いつからいつまでというのは正確には決まっておらず、だいたいこの頃という感じだ。ゴシックとはもともとは建築様式を表す言葉だ。代表的なゴシック建築として、美しいバラ窓で有名なパリのノートルダム大聖堂がある。学生時代に友人らと貧乏旅行でクリスマスのパリに訪れたとき、その日の夜にミサが行われると知りわざわざその時間帯に出向いた記憶がある。大聖堂の中にはなんとも言えない厳かな空気が流れ、言葉も分からない仏教徒の私ではあるが、神に祈り

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          コンステレーション

           7月7日の七夕は、彦星と織姫が天の川を渡り1年に1回会える日だ。彦星はわし座のアルタイル。織姫はこと座。  コンステレーションとは星座のこと。そして、河合隼雄の京都大学退官記念講義の演題名でもある。もともとコンステレーションは、ユングが感情によって色づけられた心の中にある一つのかたまりのことを表すために使ったことばだった。更には、もっと心の深いところにある元型と呼ばれるものがあらわれてくることを「元型がコンステレートしている」と表現するようになったという。  ところが、

          コンステレーション

          「臨床とことば」を読み解く~言葉を掴んでしまう~

           相手の何かを変えてやるぞ、と身構えて話を聞くことがある。例えば自分が指導する立場になった時がそうだ。ゲームばかりで勉強しない子供との話合いとか、タバコをやめようとしない父親と健康について話合いとかを想像してみる。すると自分の心の中には「真面目に勉強してほしい」「タバコをやめてほしい」という希望があって、それが会話のゴールとして予め設定されてることに気づく。だから、相手から「この前のテストが出来なかった」とか「タバコは体に悪いってわかってるのだけど」なんてことばが飛び出してく

          「臨床とことば」を読み解く~言葉を掴んでしまう~

          「臨床とことば」を読み解く~臨床哲学事始め~

           河合隼雄と鷲田清一の対談集。  この本はある意味私の人生を大きく変えるきっかけとなった本なのだが、そこのところを語り始めると熱くなりすぎるし長くもなるので、ここではあえて個人的な思いには触れずに、ただただじっくりと読み解いてみたいと思う。  さて、初回は「臨床哲学事始め」。  哲学者の鷲田清一は、1990年代の前半から臨床哲学を唱え活動している。 鷲田:臨床という概念・・・。そういう名称がよいのかどうか、ものすごく迷ったんです。でも、考えたら、哲学の父祖というわれている

          「臨床とことば」を読み解く~臨床哲学事始め~