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コンステレーション

 7月7日の七夕は、彦星と織姫が天の川を渡り1年に1回会える日だ。彦星はわし座のアルタイル。織姫はこと座。

 コンステレーションとは星座のこと。そして、河合隼雄の京都大学退官記念講義の演題名でもある。もともとコンステレーションは、ユングが感情によって色づけられた心の中にある一つのかたまりのことを表すために使ったことばだった。更には、もっと心の深いところにある元型と呼ばれるものがあらわれてくることを「元型がコンステレートしている」と表現するようになったという。

 ところが、心理療法家のマイヤーは「自己実現の過程をコンステレートする」のだという。

マイヤー先生という人は何もしないんです。私も初め、分析を受けに行ってびっくりしたんですけれども、たとえば夢なんかを持っていくと、いろんなことを言ってくれるかと思うんですが、何も言わなくて、ただ聞いているだけなんですね。時々ぱーっとたばこを吸ったり、外の景色を見たり、ぼーっとしているんです。けれども、マイヤーさんに会っていると、自分の心の底から深いものが動き出すわけですね。非常に深いものが動いて、今まで考えもしなかったようなことが、あるいは夢にも見なかったようなことが浮かび上がってくる。それを話し出すと、マイヤーさんがうんうんとついてきてくれるわけですね。ついてきてくれるなら行きましょうということになるわけですが、マイヤーさんは私が行くのをずっと見てくれている。
河合隼雄「こころの最終講義」新潮文庫

 自分の心の底から深いものが動き出す。すると、今まで自分自身も気づいていなかったものが見えてくる。それは、あたかも天空の無数の星が、星座という意味をなす形として浮かび上がってくるのと同じなのだ。マイヤーは、何をするでもなくその場にただいるだけのように見えるが、実はそうではなく、星座の形を浮かび上がらせている。コンステレートしている。
 でも、本当にそんなことができるのだろうか。できるとしたら、マイヤーはまるで魔法使いみたいだと私は思った。
 河合隼雄も次のように述べている。

 来られた方の心の中の底のほうに、何かコンステレートするようなことができるだろうかと考えまして、私の得た結論は、文字どおり私が何かをコンステレートするなんていうことはできない。できないけれども、自己実現の過程が起こりやすい状況にするということはできるのではないかと思うのです。
河合隼雄「こころの最終講義」新潮文庫

 この、自己実現の過程が起こりやすい状況というのが、『「臨床とことば」を読み解く~言葉を掴んでしまう~』に書いた、言葉を掴まずに聞くこと、ふわーっと聞くこと、相手が出してくれた世界から出ていかないことなのだろう。これは修練によって身に着けることができるものだというのなら、その努力を積み重ねていくしかないと思った。


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