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テトラの親子 ~中編~

昼過ぎに浜名湖中央署に電話を入れ担当者から説明を受けた。

簡単に言うと、親父の知人が詐欺行為をした。それに加担、即ち共犯の疑いで連行したとのことだった。親父の意思でやったのか、それとも上手く利用されただけなのかは分からない。

ただ息子として言わせて貰うと、うちの親父はすぐ人を信用すると言うか、人が良いと言うか、警戒心が無さ過ぎと言うか。

何はともあれ、一度親父に面会したい。そう担当者に伝えると「今は取り調べ中だから弁護士以外は接見禁止で会えません。でも日常品の差し入れは出来ます。もしくは現金を渡せば留置所内でも日常品は買い揃えれますよ。」と説明馴れした口調で教えてくれた。

続けて、差し入れの受付時間と細かい注意事項を聞いて電話を切り、翌日、高速道路に乗り浜名湖中央署へと向かった。

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取り敢えず一万円だけ渡せば留置所内で買い揃えれると思ったが、親父は体格がいいので寝るとき着る、半袖、半ズボンのジャージだけは買っていこうと警察署付近のホームセンターで買っていった。

警察署に入り、階段で二階に上がる。受付で書類を書き、待合室で順番を待った。待合室の長椅子には緊張とも感慨(かんがい)ともとれる深い表情で若い女性が座っていた。

この人も差し入れで来ているのだろうか。それとも面会なんだろうか。相手は親、兄弟、彼氏、旦那、友達…どんな関係なんだろうか。この待合室に一緒に座っているだけなのに不思議と親近感が湧いてしまう。

数十分程で呼ばれ、机しかない殺風景な部屋に通され、現金が入った封筒を警官に渡すと中身を確認後、受理された。

次にジャージを出すと警官が隅から隅まで穴が空いてないかチェックする。「規則で穴が空いていると駄目なんだよね。そこから破り、ロープ状にして自殺する奴もいるから。」警官は機械的な口調で教えてくれた。

ズボンの腹回りに通されている紐を指差し「これだけ抜いてくれたらOKです。」と指示され、紐を引き抜くと警官はジャージを受け取り、気だるそうに書類にペンを走らせてからジャージを受理してくれた。

その後、担当刑事と会うことができ、少し話をして、その日は帰った。接見禁止で会えないのは分かっていたが、週に一度は警察署に足を運び差し入れを持っていった。

刑事曰く、潔白だと分かれば長くても二・三週間で帰れると言っていたが、結局、親父が帰ってきたのは夏の暑さも和らぎ風が肌寒く感じる頃だった。

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釈放前日、担当刑事から連絡を貰ったので迎えに行くことを伝え電話を切った。

そのとき胸の中にあったのは安堵としか呼べない温もりと、感傷的にならず笑って迎えてやれるかと言う心配だった。


釈放当日、嫌みを感じるほどの快晴。

警察署の正面玄関で俺と再会した親父は白髪混じりの無精髭を生やし、疲れた顔で照れ笑いを浮かべていた。

「いろいろ心配かけたな。」笑みを浮かべれば浮かべるほど一瞬覗かせる顔が、ひどく疲れた表情を際立たせていた。そんな親父にどんな言葉をかければいいか分からず「お疲れさん」と無愛想に返事をするのが精一杯だった。

「飯でも食っていくか?金はあるからよ。」俺に気を遣わすまいと先回りしたかのように親父は少しおどけるように言った。『その金は俺が差し入れした金やろが!!』なんて言えず、また無愛想に返事をしてアクセルを踏み込んだ。

「こんなときに言うのも変だけど、俺の運転で親父とドライブするの初めてだな。」口から滑り落ちるように自然に出た言葉だった。

「そう…だっけ?」そう答える親父の顔は照れてるようにも、答えに困っているようにも見えた。

家に着くまでの二時間半、これが唯一交わした会話だったけど、何かを我慢するかのように親父の唇が震えていたのが印象的だった。


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