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【どうする家康】史実とか史実じゃないとかもうどうでもいい。今作の家康と家臣団の結末をただ追いたい。第23~25回レビュー

NHK大河ドラマ『どうする家康』(以下、『どう康』)第23~25回のレビューです。

前回の感想はこちら↓

(※以下、ネタバレ注意)(※本記事のセリフの引用箇所は一部ノベライズに準拠しており、ドラマのセリフとは異なる場合がございます)


●正直一番来てほしくなかった…家康の人生で、ある意味最も辛い事件に幕

3週間ぶりですみません……第1回からずーっと続けてきた『どう康』レビューを、第23回では遂にお休みし、それどころか翌週の24回にも何も書けず、とうとう個人的には「一番来てほしくなかった」、むしろ「一番見たくなかった」と言ってすらいい第25回……瀬名、そして信康との別れが描かれてしまいました。

マジでね、三方ヶ原もしんどかったし、それでも個人的には何とかレビュー書けたもんで「初めて自分で自分を褒めたいと思います」みたいな達成感すらあったんですけど。

ちょっと、言い訳させてください。第23回を見たとき、その展開に正直「あ、嫌だな」と思っちゃったわけですよ。なんだか、これまで描かれてきた物語が180°変わるような展開に思えてしまったんです。ひょっとしたら通説通り、瀬名が悪女に変わってしまうのかと不安に駆られて。

それ自体は別に、悪いことではありません。去年の『鎌倉殿の13人』だって、伊豆の無欲な若者だった小四郎こと北条義時が、第26回で頼朝が死んで以降はだんだんブラックな「執権」へと姿を変えていきました。

もっと過去の作品で言えば『軍師官兵衛』なんかもそう。誠実に仕えていた秀吉が死んだ後は、急に天下取りに燃え始める官兵衛の姿が描かれ、その展開が衝撃的で面白いと当時は話題になりました。

そして瀬名も、武田との内通がガッツリ描かれたわけですけれど……それもキッカケは信康のPTSD。幼い時には虫も殺せなかったという信康が、武田の兵相手に容赦のない姿を見せつつも、どうやら本意ではなかったようで、悪夢にうなされるようになりました。

そして恐ろしいことに、鷹狩りの際にすれ違った罪もない僧を斬り殺すという所業まで。「登場人物が、気が狂って無関係な相手を斬り殺す」という描写は、それこそ一昨年の『青天を衝け』でも描かれましたし、そうなってしまったキャラクターはもう救い出せないのが「大河のおヤクソク」ではありました。

そして『どう康』の瀬名も結局、狂ってしまった息子を救おうとして、愛していた殿さえ裏切ってしまうのだな……その結果、処刑されてしまうのだな、なんて思ったのですよ。

●過去の大河で見たことのない、大きな夢を語りだす瀬名。リアリティが削がれたとしてもキャラクターにまったくブレなし

それが、どうした。第24回では「東国に、慈愛の心でつながった大きな国を作りましょう」だなんて。まあ大それた夢を語り始めました。

僕も正直驚きましたし、「アリなのか……?」という不安も抱きました。少なくともネットはまた「史実至上主義勢」が黙っちゃいないだろうと思いましたし、案の定、今もまだ炎上みたいな状態になってますけど。ただ言うてね、「史実、史実!」と言う人ほど、なんの歴史の研究もしていない「過去のフィクション丸齧りで、情報がアップデートできない残念な人たち」だと思ってるんでシカトぶっこいていいと思うんですよ。

それに、僕のnoteでも何度も言ってますけど、これは「大河ドラマ」というフィクションですから。去年の『鎌倉殿の13人』だって、「源頼朝の最初の妻だった八重が、そのあと小四郎・義時と再婚したなんて史実としてはありえねえ」と散々言われてました。伝承では、八重姫は、頼朝と政子が再婚したことのショックから入水自殺したということでしたからね。

しかも当時の歴史的資料で語られてるのは「義時は姫の前(比奈)にゾッコンだった」という話ですが、それもドラマでは「最初の妻(八重)にこそゾッコン」という感じで、だいぶ歴史的資料をアレンジした物語を描いていました。でもそれが、ドラマのラストで義時と八重との子・泰時について語る流れにつながっていくのかと思うと、めちゃめちゃ鳥肌立つくらい感動した覚えがあるのですが。

(ついでに言うとその泰時だって、資料によれば三浦の妻と離縁したとのことですけど、ドラマでは最後まで仲睦まじい夫婦として描かれてました)

だから『どう康』という物語の中で見た時に、この歴史の“新解釈”といいますか、大幅なアレンジは、衝撃ではありますけど、ドラマの展開として否定されるべきものではないな、と。確かに「史実を基にした物語」としてはリアリティが削がれる部分はありますが、少なくともドラマの中での瀬名というキャラクターにはまったくブレのない描き方をしているなとは感じました。

だってこれまでの瀬名ちゃん、もう主人公じゃないかと思えるほどに成長著しかったじゃないですか。それに母が遺した言葉、殿がお手つきしたお万から言われた言葉、岡崎クーデターで大岡弥四郎が言った言葉、戦の無い平和な世を願うあらゆる人々の言葉を胸に刻み込みながら成長していったんです。そんな女性が、戦国時代においてあんな大それた夢を描いてもいいじゃないですか。

いつの世だって、これまでの固定観念を覆すようなエポックメーキングな発想を抱く人が出てきて、それがやがて時代そのものを変えていくんです。それが瀬名でもいいじゃないですか。だって彼女は徳川家康の正妻で、やがては彼女の夫である家康こそが戦のない世を作るという未来につながっていくわけですから。

そしてそんな瀬名の謀(はかりごと)に、久松永家、今川氏真や糸まで仲間に加わってくるのも、まあこの乱世からほぼリタイアしたような人たちですからいいんじゃないですかね。於大なんかは戦国バーサーカーぷりっからだいぶキャラ変しちゃった?みたいな印象ありますけど、夫の永家も「家康に仕えるのを辞める」宣言しちゃいました。そして愛する息子の松平源三郎勝俊も武田の人質から帰ってきたあとは足を悪くしてしまいましたし、それらのショックから、やや「バーサーカー」キャラとしての勢いが落ちたとすれば理解できます。

●ぜんぶ勝頼のせい?「家康は人でなし」のセリフに「どの口がァ!」とツッコミ

問題は武田勝頼ですよ。武田としても、千代が言うようにまだまだ意気軒昂なところはありました。領地の広さとしては、一時期はむしろ信玄の代のときよりも広かったとさえ語られます。しかし設楽原の戦いが全てを変えてしまいました。織田に圧倒的な力の差をつけられて大敗してしまった。

その織田と対等的な力を付けるには、瀬名の誘いに乗っかるのも一つには戦略だったんですよね。この間、徳川と武田が戦うフリをして空砲を撃ち合っていたというのも、リアリティとしてはだいぶ落ちる展開かと思われました。しかしこれも資料から紐解いていくと、実際に徳川も武田もあまり戦わずに引いているという事実も浮かび上がってくるというのが、「よくできたシナリオ」という印象を受けました。

ただ、やはり父・信玄に憧れ、当時の戦国武将的な価値観に支配されていた勝頼には、この徳川とのコソコソした同盟関係を続けるわけにはいきませんでした。「やはりわしは、おなごのままごとのごとき謀には、乗れん」なんて、発言をしていましたね。でも当時の価値観としてはそれが正しいのよ。ネットでは「ぜんぶ勝頼のせい」なんて、ワードも流行りましたけど、一方で「このトンデモなストーリー展開の中で、勝頼だけが唯一マトモだった」みたいな評価をされている方もいらっしゃいました。

勝頼を悪と見るか、この時代の人間としては常識人だったと見るか。「どっちとも取れる」ような描き方をしたのは、むしろ古沢さんの脚本の優れたところだとは思います。そして武田と瀬名の内通が世に広まった結果、徳川が織田との縁を切るどころか、瀬名と信康にすべての罪を背負わせて処刑する道を選んで「人でなしじゃな、家康は」と勝頼が口にするわけですけれども。これについても「どの口が言うか!」という意見が出るのも理解できるし、「むしろ自分に向けて言ったのでは?」という感想が出るのも、どっちもわかりすぎて辛い。

そもそも勝頼としては、瀬名や信康がどんな気持ちで自らの命を絶ったのかなんて知りません。だけど、穴山信君や千代は、実際に瀬名とも会って、その人となりも間近で見てきたハズ。だからこそ、家康を「人でなし」呼ばわりする勝頼にはもうついていけず離反していく流れもここでできたのだと思います。

ただ、信君より先に千代が出ていったのはちょっとビックリでしたけどね……しかも僕が先月買った『どうする家康 後編(NHK大河ドラマ・ガイド)』情報によれば、「その後も徳川家とは不思議な縁で結ばれ、関係が続いていく」とあるので、活躍が楽しみなところではあります。

●結局、内通がバレても何も命じなかった織田信長。この結末を一番望まなかったのは、信長では?

そしてこの3話分の展開で、一番意外な動きをしていたのは織田信長でした。そもそも信長は、第23回で五徳からの書状を受け取った段階で、すでに瀬名が怪しい動きをしていることは知っていたんですよね。しかしそのことは誰にも打ち明けず、書状を燃やし、なぜか水野信元を責めました。叔父上、完全にとばっちりで殺されたんですよね……。

では、なぜ信長が、この最初の段階で瀬名を責めなかったのか。そしていよいよ瀬名の謀が世に知れ渡った際にも「お前の家中で起きたことじゃ」と言い、家康に何も指図しなかったのか。

これに関しては俳優の檜尾健太さんのレビューが僕の中で一番しっくりきてるんですけど、「瀬名の才覚に何かしらの期待をかけていた」というところがあるのではと僕も感じます。

勘違いされがちなんですけど、別に信長くん、自分の私欲のために天下統一を果たそうとしているわけではないのですよ。すでに海の向こうへと目を向けつつ、日ノ本(日本)という国がこれからも内乱を続けていくわけにはいかないということを第13回「家康、都へゆく」でも語っていました。

ひょっとしたら信長くんだって、戦いたくて戦っているわけじゃなかったのかもしれません。もしも戦わずに日ノ本が一つになる術があるのだとしたら、それに賭けてみたいという気持ちもあったハズ。

「じゃあ、瀬名の謀が世に知れ渡った時点でも、家康に圧はかけずに、瀬名や信康を生かすように導けばよかったじゃないか」と思う視聴者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、23回の「信長だけが瀬名の謀に気づいていた」時点と、25回の「もはや世の中全体に瀬名の謀が知れ渡ってしまった」時点では、まったく状況が違います。

これから天下を統べようとしている者として、信長にも「示し」というものがある。結局、水野信元だって、武田との内通を責めて処刑したわけですからね。水野は殺されて、瀬名や信康は殺されないだなんて、信長がOKでも世間が許すはずがありません。「信長様は、やはり家康殿に甘いのではないか?」「家康ばかりを贔屓にする信長様にはもう付いていけん!」という新たな離反者が出てもおかしくないわけです。

だからそう考えると、23回で瀬名を責めなかったのも、25回で家康にすべての判断を委ねたのも、ドラマの展開としてもすべてつじつまが合っている。ひょっとしたら、家康が瀬名と信康を処刑するフリをしてどこかに逃れさせようとすることだって見越していたかもしれませんし、それに気づいたところで世間さえ欺ければ信長もそれを咎めるようなこともしなかったかもしれません。

だけど、瀬名と信康は結局、自ら死を選んでしまった。やはり替え玉作戦も信長にバレるだろうと見越していたからでしょうか。それよりも、瀬名の大きな謀がバレた時点で、死を覚悟していたというのがドラマの捉え方としては正しい気がします。

Youtuberのミスター武士道さんなんかは、「自分が死ぬことで、家康を覚醒させよう」なんて考えが瀬名にあったのではないかと分析されていました。「諌死(かんし)」という言葉なんかもあるそうですけれども。

確かにこの時点の家康、信長に対してもずっと不誠実ですし、瀬名と信康の謀に乗ったはいいですけど、もしそれがバレたらどうなるかがあまりに考えなし過ぎたのではという気もしてきます。でも、それだってキャラクターとしてブレてはいない。これまでも「どうする、どうする」の連続でしたし、行き当たりばったりなのは今に始まったことではありません。

それに従う家臣団だって、そりゃあ数正はいつだって冷静沈着で、左衛門尉はいつだって周りを広く見渡せる目を持って頼れる存在です。けれども、やはりそんな彼らも三方ヶ原で地獄を見てきたのは一緒。そして設楽原で信長の恐ろしさを見てきたのも一緒。第24回、瀬名の謀が語られた際にすぐ反論していたのも彼らでしたが、結局、「殿と奥方が決められたことであれば、それに従うまで」ということだったのだと思います。

「ブレーン不在」なんて言われても、これが数正と左衛門尉の限界だったと思うのですよ。本当にこの状況を平和的に解決する策があったとするなら、それこそ本多正信に頼るのが良かったのでしょうが、ドラマでは彼も依然、不在のままです。いろいろなボタンの掛け違いはあるとは言え、もう起こるべくして起きた悲劇の描き方だと僕は感じたわけなんですけれども。

●だからこそ、家康と家臣団の未来が追いたくなる。これから先は、すべてにおいて涙なしには見れないハズ

でも、だからこそ、この先の展開が楽しみで仕方がないんですよ。第25回、これは後にも先にも、家康と徳川家臣団にとっての「大きなしくじり」としてずっと尾を引いていきそうな気がします。それこそ、終盤の関ケ原やラストの大阪の陣まで。

今夜の放送は「ぶらり富士遊覧」なんてまたギャグ回か⁉とか驚いちゃいましたけど、もはや「家康、都へ行く」ほどただただ笑える回ではなくなっていると思うのですよ。

愛する妻や子の死を乗り越えて、家康がこれからどう変わっていくのか。そしてこの先には、怖れを抱いていた信長も死ぬことになるわけですから。まだまだ感情をかき回されるような展開が続くでしょうし、ここまで見ておいてこの先を見ないなんてもったいないと思うんですけどね。

今夜、いよいよ第三章。先週の瀬名ロスを引きずっている皆様も、ぜひ共に楽しもうではありませんか。

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