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物語

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#小説

1日目 ひよこちゃん

1日目 ひよこちゃん

「同じクラスにね、ひよこちゃんっていう名前の女の子がいるの。ほんとだよ。ひよこちゃんってすっごくかわいい名前だね。」

小学校の入学式から帰ってきたばかりの娘が目をきらきらさせてそう言った。

ぷくぷくのほっぺたと切り揃えられすぎた短いまっすぐな前髪で、くりかえし「ほんとだよ。」と娘は言う。

「そう。めずらしい名前の子がいるのね。」

私は半ばめんどうに思いながら、そうこたえる。

後日渡された

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2日目 少年 Y

2日目 少年 Y

父はアルバムをめくりながら、子供の頃に無くした帽子の話をした。

祖母が父のために手作りした帽子。額のところに、大きく「 Y 」と父のイニシャルが入っている。

「なくして帰った時、ずいぶんおふくろが残念がってね。普段はきっぷのいいさっぱりした人なのに、帽子のことだけは思い出す度に言われてね。子供心に自分は取り返しのつかないことをしてしまったんだと思ったよ。」

私はその話を聞きながら、もうすぐ無

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4日目 家族写真

4日目 家族写真

美術部の部室で、後輩の女の子が下絵を描くために持ってきたという写真を見て私は驚いた。

どこか遠くを見つめているその子の横顔。姉妹でじゃれあう姿。一瞬の表情。そこに積み上げられているのはどれも、まるでお洒落な写真雑誌からそのまま切り抜いてきたような家族写真だった。

お父さんに撮ってもらったやつ、とその子は言った。

そんなセンスのいい家族写真を撮るお父さんがこの世にいるんだ。がく然として、私は自

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5日目 雪の日

5日目 雪の日

雪の日がすきだった。

買ってもらった朱色の長靴の靴底には、ウサギの顔の形をした凹凸が付いていて、雪の上を歩くと一足ごとに、ペタッ、ペタッと今来た道にウサギの顔が並ぶので、私は何度も何度も後ろを振り返った。

ずっと遠くまで続くウサギの顔を振り返りながら、どこまでもどこまでも歩いていける気がしていた。

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この物語はヤヤナギさんが企画されている #100日間連続投稿マラソン

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6日目 ねずみの判子

6日目 ねずみの判子

母は自分のことをあまり話さない人だった。

もらいもののお菓子の缶の中に、ぴっちりと12個、干支の判子が詰められていた。

年の暮れが近づくと、母はその缶から来年の干支の判子を取り出して年賀状におし、何か短い文を書き添えてポストに出しに行っていた。

12年経つと、母はまたその缶からまったく同じ干支の判子を取り出して、几帳面におしていた。

「同じでいいの?」

と心配になった私が聞くと、

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7日目 口約束

7日目 口約束

子供に向かって、大人相手にするような社交辞令の口約束をしてはいけないのだと、私はその時初めてさとった。

保育士として勤めていた園が、雪でお休みになった日のこと。私は職員室で事務仕事をしていた。しんしんと冷え込んできて、ストーブの上のやかんがシュウシュウ、と音を立てている以外はがらんと静まりかえった室内。

突然、がらがらっと職員室の扉が開いて、全身からぽたぽたと水を滴らせた女の子が入ってきた。

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8日目 もらいやすい手

8日目 もらいやすい手

「他人から施しを受けやすい手ってあるのかな。ほら、私、大仏様みたいな手をしてるでしょ?」

ふいに彼女がぽつりと言って、僕の方に手のひらをかざしてきた。

「えっ、ほどこし?何の話?」

ついこの間もね、職場の事務室の管理人さんがね、と彼女の話は続いた。

もう帰ろうとしていたところに管理人さんがやってきてニッキ飴をくれたのだと言う。彼女はニッキ飴が嫌いだ。

「実は苦手なんです、ニッキ飴。ごめん

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9日目 手を合わせる

9日目 手を合わせる

現代文の先生が、帰り道、いつもお地蔵さんのところで手を合わせている、と教えてくれた。

授業中、皆に向かって話してくれたんだったか、それとも別の時間に私ひとりが聞いたんだったか忘れてしまった。私はいつも先生とは違う道を通って、友達と連れだって帰っていた。

たまたまひとりで帰ることになった放課後、私はお地蔵さんのところに行ってみることにした。

すこしどきどきしながら、いつも先生が通っている道を進

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10日目 瞼の雪

10日目 瞼の雪

祖父が亡くなった時、祖母は幼い女の子のように、おろおろ泣いて棺に追いすがった。

認知症が進んでいた祖母の振るまいは、心の中に残った祖父への恋心からくるものか、それとも人目を気にする人だったから、そのような自分として見られたい、という欲からくるものかは、分からなかった。

それでもほかのものが削ぎ落とされた強い思いは、なんとなく見る人を穏やかな気持ちにさせた。

お通夜の会場へと棺を送り出す時、近

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11日目 黄色い本

11日目 黄色い本

「裁縫仕事は好きなんだけどね、もう目が悪くなってきちゃったから。」

と、繰り返し言うようになってからも、母は本を読むことだけはやめる様子がなかった。

家には、天井まで作り付けの本棚のある部屋が2つあった。そこには本がびっしりと詰まっていて、それはすべて父の本だった。

家にいる時、家事をする以外ほとんど本を読んでいる母は一冊も本を買わなかった。毎週せっせと図書館に通い、重そうなカバンを提げて帰

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12日目 さんかくの石

12日目 さんかくの石

彼は私を別の何かに変えようとしない。

一年に一度の大切なコンサートの日、会場に向かう道すがら、道路脇の枯れた花の実を見つけて私が摘みたいと言い出しても、止めない。

時間が迫る中、「車に置きに戻ればいいから、摘んできな。」と言ってくれる。

一緒に釣りに行った時、こっそり川原で拾った石を彼から借りたカバンのポケットにしまったまま、忘れてしまった。

何年も経って、カバンから石が出てきた時、彼は黙

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13日目 わすれもの

13日目 わすれもの

朝から娘が泣いている。帽子がないから学校に行けない、と泣きじゃくっている。

帽子は家のどこを探しても見つからなかった。昨日の学童に置いてきたらしい。

3つ上のお兄ちゃんが、帽子なくても大丈夫、怒られないから、と娘をなだめ、玄関先までひっぱり出してくれている。

娘の泣き声が響きわたる。

お兄ちゃんにひっぱられるようにして家の前からほんの少し歩いたあたりで、「いやだ。帽子がないと怒られる。学校

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14日目 ボールペン

14日目 ボールペン

思い出してみると、めんどうな彼女だった。

喜怒哀楽があまり顔に出ない人で、風変わりなものを好むので、僕はいつもプレゼント選びに苦心し、渡す頃には記念日を大幅に過ぎてしまっていた。

それでもそんな彼女の、ここにいるのに、まるでここにいない、いつもどこか遠くを見ているような目と横顔が好きで、僕は彼女の写真をたくさん撮った。写真は苦手、と最初にぽつりと言ったきり、彼女が僕の撮った写真を欲しがることは

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15日目 さよならのとき

15日目 さよならのとき

日めくりをめくったら「ベーコンとイチゴジャムの日」と書いてあった。

そんな一日が終わりそうな頃に、まるで予言が駆け込み乗車で終電に乗ってきたように、あの日のあの人から、もう僕は今日にいます、と、甘くてしょっぱい知らせが届く。

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この物語はヤヤナギさんが企画されている #100日間連続投稿マラソン に参加しています。

毎日ひとつずつ、少しずつずれながらどこか重なっているよう

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