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#小説
1日目 ひよこちゃん
「同じクラスにね、ひよこちゃんっていう名前の女の子がいるの。ほんとだよ。ひよこちゃんってすっごくかわいい名前だね。」
小学校の入学式から帰ってきたばかりの娘が目をきらきらさせてそう言った。
ぷくぷくのほっぺたと切り揃えられすぎた短いまっすぐな前髪で、くりかえし「ほんとだよ。」と娘は言う。
「そう。めずらしい名前の子がいるのね。」
私は半ばめんどうに思いながら、そうこたえる。
後日渡された
5日目 雪の日
雪の日がすきだった。
買ってもらった朱色の長靴の靴底には、ウサギの顔の形をした凹凸が付いていて、雪の上を歩くと一足ごとに、ペタッ、ペタッと今来た道にウサギの顔が並ぶので、私は何度も何度も後ろを振り返った。
ずっと遠くまで続くウサギの顔を振り返りながら、どこまでもどこまでも歩いていける気がしていた。
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この物語はヤヤナギさんが企画されている #100日間連続投稿マラソン に
6日目 ねずみの判子
母は自分のことをあまり話さない人だった。
もらいもののお菓子の缶の中に、ぴっちりと12個、干支の判子が詰められていた。
年の暮れが近づくと、母はその缶から来年の干支の判子を取り出して年賀状におし、何か短い文を書き添えてポストに出しに行っていた。
12年経つと、母はまたその缶からまったく同じ干支の判子を取り出して、几帳面におしていた。
「同じでいいの?」
と心配になった私が聞くと、
8日目 もらいやすい手
「他人から施しを受けやすい手ってあるのかな。ほら、私、大仏様みたいな手をしてるでしょ?」
ふいに彼女がぽつりと言って、僕の方に手のひらをかざしてきた。
「えっ、ほどこし?何の話?」
ついこの間もね、職場の事務室の管理人さんがね、と彼女の話は続いた。
もう帰ろうとしていたところに管理人さんがやってきてニッキ飴をくれたのだと言う。彼女はニッキ飴が嫌いだ。
「実は苦手なんです、ニッキ飴。ごめん
9日目 手を合わせる
現代文の先生が、帰り道、いつもお地蔵さんのところで手を合わせている、と教えてくれた。
授業中、皆に向かって話してくれたんだったか、それとも別の時間に私ひとりが聞いたんだったか忘れてしまった。私はいつも先生とは違う道を通って、友達と連れだって帰っていた。
たまたまひとりで帰ることになった放課後、私はお地蔵さんのところに行ってみることにした。
すこしどきどきしながら、いつも先生が通っている道を進
12日目 さんかくの石
彼は私を別の何かに変えようとしない。
一年に一度の大切なコンサートの日、会場に向かう道すがら、道路脇の枯れた花の実を見つけて私が摘みたいと言い出しても、止めない。
時間が迫る中、「車に置きに戻ればいいから、摘んできな。」と言ってくれる。
一緒に釣りに行った時、こっそり川原で拾った石を彼から借りたカバンのポケットにしまったまま、忘れてしまった。
何年も経って、カバンから石が出てきた時、彼は黙
13日目 わすれもの
朝から娘が泣いている。帽子がないから学校に行けない、と泣きじゃくっている。
帽子は家のどこを探しても見つからなかった。昨日の学童に置いてきたらしい。
3つ上のお兄ちゃんが、帽子なくても大丈夫、怒られないから、と娘をなだめ、玄関先までひっぱり出してくれている。
娘の泣き声が響きわたる。
お兄ちゃんにひっぱられるようにして家の前からほんの少し歩いたあたりで、「いやだ。帽子がないと怒られる。学校
14日目 ボールペン
思い出してみると、めんどうな彼女だった。
喜怒哀楽があまり顔に出ない人で、風変わりなものを好むので、僕はいつもプレゼント選びに苦心し、渡す頃には記念日を大幅に過ぎてしまっていた。
それでもそんな彼女の、ここにいるのに、まるでここにいない、いつもどこか遠くを見ているような目と横顔が好きで、僕は彼女の写真をたくさん撮った。写真は苦手、と最初にぽつりと言ったきり、彼女が僕の撮った写真を欲しがることは
15日目 さよならのとき
日めくりをめくったら「ベーコンとイチゴジャムの日」と書いてあった。
そんな一日が終わりそうな頃に、まるで予言が駆け込み乗車で終電に乗ってきたように、あの日のあの人から、もう僕は今日にいます、と、甘くてしょっぱい知らせが届く。
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この物語はヤヤナギさんが企画されている #100日間連続投稿マラソン に参加しています。
毎日ひとつずつ、少しずつずれながらどこか重なっているよう