見出し画像

4日目 家族写真

美術部の部室で、後輩の女の子が下絵を描くために持ってきたという写真を見て私は驚いた。

どこか遠くを見つめているその子の横顔。姉妹でじゃれあう姿。一瞬の表情。そこに積み上げられているのはどれも、まるでお洒落な写真雑誌からそのまま切り抜いてきたような家族写真だった。

お父さんに撮ってもらったやつ、とその子は言った。

そんなセンスのいい家族写真を撮るお父さんがこの世にいるんだ。がく然として、私は自分の家のアルバムを思い浮かべる。

カメラ好きな父親が撮った家族写真は、どれも観光地の名所看板の前に横一列に家族を並ばせたものばかり。どのページをめくっても、ずっと同じ構図。それぞれに、早く次の場所に移動したいと言わんばかりの疲れてめんどくさそうな表情をした家族の顔が並んでいる。

写真のセンスって遺伝するのかしら。

大人になってからふとした時に、「親父は写真が好きでね、」と言って祖父が撮影した父の子供の頃の写真を見せてもらうことがあった。

その時、私はもう一度がく然とした。

アルバムに並んでいたのは、小津安二郎の映画から飛び出してきたような家族写真だったからだ。

「でも僕は正直、親父の写真好きは嫌いだったな。」と父は続けた。

「姉さんと二人、ここにこういう風にしていろ、とか色々言われるの。親父はあたたかい家庭の風景に憧れてたんだろうけど、そのイメージに付き合わされる子供の方は、ねえ。」

何か湯気の立ち上るものがのっているテーブルを挟んで向き合う姉弟。

写真のセンスは反転しながら遺伝するのかもしれない。

.
.
.
.
.

この物語はヤヤナギさんが企画されている #100日間連続投稿マラソン に参加しています。

毎日ひとつずつ、少しずつずれながらどこか重なっているような物語を綴っていこうと思います。

企画の詳しい内容は、ヤヤナギさんのnoteのこちらの記事 に掲載されています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?