9日目 手を合わせる
現代文の先生が、帰り道、いつもお地蔵さんのところで手を合わせている、と教えてくれた。
授業中、皆に向かって話してくれたんだったか、それとも別の時間に私ひとりが聞いたんだったか忘れてしまった。私はいつも先生とは違う道を通って、友達と連れだって帰っていた。
たまたまひとりで帰ることになった放課後、私はお地蔵さんのところに行ってみることにした。
すこしどきどきしながら、いつも先生が通っている道を進む。前に教えてもらった石榴の木があるお家を通りすぎたら、もうすぐお地蔵さんが見えてくるはず。
お地蔵さんは踏み切りをこえたところに、ぽつりとあった。静かな色の切り花が供えられている。
私は誰も来ないのを確認してそこにしゃがみ込み、先生みたいに手を合わせようとした。
どうしても、合わせられない。
手を合わせはじめながら、しゃがんでみたら?何度か立ち上がって謎の挑戦をするも、やっぱり合わせられない。おかしな中腰のまま、しばらくお地蔵さんの前でもぞもぞとねばった。
私は先生への憧れから、ここに来た。
先生と同じ格好をしてみたかっただけ。
毎日ここを通って、お地蔵さんを見続けた先生と同じ気持ちにはなれなかった。
急に一段と日が暮れてきたような気がして、私はまた辺りをじろじろと見まわして、逃げるように足早にそこを離れた。
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この物語はヤヤナギさんが企画されている #100日間連続投稿マラソン に参加しています。
毎日ひとつずつ、少しずつずれながらどこか重なっているような物語を綴っていこうと思います。
企画の詳しい内容は、ヤヤナギさんのnoteのこちらの記事 に掲載されています。
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