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短篇小説

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記事一覧

【短篇】とある刑事の懺悔記録〜騒音問題編〜

【短篇】とある刑事の懺悔記録〜騒音問題編〜

 頭が痛い。

 頭が痛い。
 頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い頭が痛い頭が痛いあたまが痛い頭がいたい。頭が痛いあたまが痛い頭がいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまが

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【短篇】小さな綻び、大きな結果

【短篇】小さな綻び、大きな結果

 ほんの小さな綻びが、後に〈大きな結果〉を齎らすことは重々承知していた。それも経験則で。
〈大きな結果〉とは時に、この上ない物──正に極上と言える場合もあり、時には絶望の底に叩き付けられる場合もあった。
 要はTPOというか、時と場合によるというか、山あり谷ありというか、禍福倚伏というか。
 兎に角そういうことである。

 今回の〈大きな結果〉は、まあまあ上々だった。
 カノジョに鞄でブン殴られそ

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【短篇】とあるブロガーの不幸事件(仮)

【短篇】とあるブロガーの不幸事件(仮)

 薬寺幸太郎は生まれながらにして不運体質だった。
 出産時に母親が死亡、父親も後追い自殺をしたので意地悪な親戚に育てられる羽目になったとか、そもそも血縁者が全員他界して天涯孤独の身だとか、そういうタイプの不運ではない。幸太郎の不運は「ツイてないね、ドンマイ!」と肩を叩かれ、励まされるレベルのものだ。
 因みに記念すべき最初の不運は、臍の緒が首に巻きついたまま産道を通過したことである。

 まるで息

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【短篇】甘くとろける、十の××

【短篇】甘くとろける、十の××

 九日前、一人の男性が行方不明になった。男性のことはよく知らない。報道によると、奥さんと娘さんがいる人だったらしい。家庭にも仕事にも問題は無く、失踪した理由が全くの不明とされていた。
 その翌日、四人の男女が無理心中をした。SNSで寄り集まった人達だった。そのまた翌日には二人が『決闘罪』を犯して相打ちで死に、後日一人が強盗に殺害されて、一人は強盗を自白する遺書を残して首を吊った。

 初めて入った

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【短篇】或る夏の夜の夢

【短篇】或る夏の夜の夢

 リビングの脇にある二段構えの棚。その上段から女の霊が出現するというので、母が「捕獲する」と言い出した。
 正直に言って、何を仰っているのか分からなかった。単純に「幽霊を『捕獲する』」というパワーワードが「??」だったし、そもそも幽霊は捕獲出来る類の物なのか理解しきれていなかった。そんな、近所の捨て猫とかカミツキガメをテイヤッ! と捕らえるノリで女の霊をテイヤッ! と出来るものなのかしらん?

 

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【短篇】共鳴する金魚

【短篇】共鳴する金魚

 青空を背景にして、ぱたぱたと降り注ぐ雨粒の滝を、真っ赤な金魚が横切って行く。金魚は虹色の橋の下を潜り抜け、橙色を帯びた西の空へ向かってふわふわと泳ぐ。
 その可愛らしい光景を認識しているのは、どうやら僕だけらしい。この事実を知ったのはつい一時間と三分前だ。「見てよ母さま、あそこに金魚がいるよう」と指差しても、「またアンタはそんな嘘をついて」と取り合ってくれない。傍に居た近所に住む田中の爺さまにも

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【短篇】雨女、恋心を知る

【短篇】雨女、恋心を知る

 陽光が一筋も差し込みそうに無い、どこまでも広がる黒い雲。しとしとと真っ直ぐに落ちる雨粒。眼下に広がる交差点には傘の花が咲き乱れ、ある人は足早に、ある人達はゆったりと流れていく。
 手元のスマートフォンに視線を落とす。LINEの新着メッセージを知らせる通知が一件、表示されていた。
 画面に指先を滑らせて、メッセージを表示させる。そこには両手を合わせて涙を流す珍妙なパンダのスタンプと共に、一言。

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【短篇】椿と花を吐く話

【短篇】椿と花を吐く話

 吐いたらアルコールと胃液に溶けたローストビーフに混じって椿が出てきた。花咲病は創作物なので、自分が酔って椿を食べた事を察する。
 衝動的に喉を掻き毟って死にたくなった。
 が、その前に大男が倒れているのを目の端に捉えてしまった。男の生死は兎も角、その人を放置して逝くのは良い事なのだろうか。寝たら最期なので目覚めの悪さは気にしなくて良いけれど、何となく微妙だ。気になって成仏出来なかったら如何してく

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【短篇】無実の証明

【短篇】無実の証明

 過失運転致死傷、救護義務違反などの罪で、一人の女が捕まった。彼女は逮捕前も、逮捕時も、公判が始まってからも一貫して『無罪』を訴えた。
 何故なら、彼女は人を殺した自覚が皆無だったからである。

 実際、彼女は人を殺してはいない。
 人を殺したのは、彼女の車に打つかった国産ハイブリット車だ。
 
 あの運命の日、彼女は軽自動車を運転していて、ただ右折しようとしただけだ。見通しの良い直線道路。こちら

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