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【短篇】とある刑事の懺悔記録〜騒音問題編〜

 頭が痛い。

 頭が痛い。
 頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い。頭が痛い頭が痛い頭が痛いあたまが痛い頭がいたい。頭が痛いあたまが痛い頭がいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまがいたいあたまが──

 * * *

 東京都T市の某集合住宅の三階で、三つの遺体が発見されたのは、平日の昼前の事だった。
 遺体は六十歳過ぎの男女と、その孫と思われる女児だった。
 どの遺体も中々に酷い損壊具合だった。
 女児には拷問の跡があった。小さな足には爪と肉の間に、待ち針が数本刺さっていた。手の爪と肉の間も同様だった。膝と肘の関節は潰され、全身に鬱血痕があった。
 男性の遺体は、まずペニスが切り取られていた。そして女児の遺体と同じ様に、関節が潰れていた。指も潰され、鼻と歯が粉々に砕かれていた。薬を盛られた形跡は無かったが、後頭部を強く殴打された形跡があった。恐らく、その殴打で全身が麻痺状態になったと見られる。
 女性の後頭部にも殴打痕があったので、同じ様に麻痺状態に陥ったのだろう。爪と肉の間に待ち針を刺され、更に指の関節を釘で縫い付けられていた。肘膝関節は砕かれていた。瞼は閉じない様に瞬間接着剤で固定され、口角が切り裂かれていた。膣と肛門に挿入痕があった。DNAは検出されなかったが、合意の上の挿入では無いのは明らかだった。

 三つの遺体の死因は、揃って窒息死だった。
 死亡推定時刻からして、亡くなったのは女児、男性、女性の順番とされた。

 捜査は難航を極めた。
 犯人に繋がる慰留品も、証拠も無かったのだ。
 最初に疑われたのは、第一発見者である女児の母親だった。
 女児の母親と、彼女の実母である亡くなった女性は、近所でも不仲で有名な親子だった。不仲にも関わらず娘を預けた理由は、保育園の入園に落ちたからであり、シングルマザーでもあったからだった。
 しかし、女児の母親にはアリバイがあった。死亡推定時刻である時間帯に、交際相手とホテルに宿泊していたのが証明されたのである。
 亡くなった男女は特別評判の良い夫婦では無かった。が、殺す値打ちも無いというのが周辺の本音だった。

 しかし、一月後に犯人が出頭する。

 犯人は、夫婦の真下に暮らす若い女性だった。
 女性は全ての犯行を認めた。
 動機は単純だった。

「五月蠅かったんです。朝から晩まで……早朝から夜中までドスドス、ドスドス、ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスドスずーっと、ずーーーーっと、頭の天辺でドスドスされるんですよ。分かります? この苦しみ。もう、ずぅっと頭が痛くて痛くて、痛過ぎて気持ち悪くなるんです。死にたくなるんです。けれど、だから『静かにして下さい』って苦情を言っても『子供を育ててるんだから仕方がないでしょ』って開き直られるし、管理人や不動産屋に訴えても『それくらい赦してあげなさいよ』って言われて、まるで五月蝿くて頭が痛いと訴える私の方が一番の悪者みたいに言われて、もう耐えられなかったんです。
 だから、黙らせようとしたんです。でも、子供のお腹を刺したり頭を殴ったりしてすぐ死なせるのは可哀想だと思ったから、ゆっくり、もう歩けないようにしてあげたんです。で、死顔もちゃんとお婆ちゃんお爺ちゃんに見させてあげたんです」

 女性は朗らかな顔で、優しい微笑みさえ浮かべながら、優しく落ち着いた調子で供述してくれた。
 
 私は彼女の供述を聴きながら、ほんのちょっぴり同情した。
 こんな感情を抱くのは刑事失格なのだけれど、私の実家も長年、生活音が原因のご近所問題に悩まされていた家なので。殺してしまいたくなる“気持ち”は、重々理解出来てしまうのだった。

(了)

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