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雪柳 あうこ
2020年5月31日 03:27
「夏のひまわりは、ほんまにきれいなんやで。植えとる畑からは、遠くに海も見えてな……」おばあちゃんはゆっくりと、今日も同じ話をします。 ぼくが数えているのが間違ってなければ、この話は今日で九五六回目です。もうすぐ千回になります。ぼくは、ものを覚えるのは得意だけれど、大きい数は苦手です。だから、千回を過ぎたらもう、数えられないと思います。おばあちゃんが話すのは、老人ホームに入る前に住んでいた、
2020年4月10日 12:34
春が、揺れる。大きな窓の下、一つきりのランプをのせた机で仕事に向かう私に、語りかけるように。何もかもを思い出さないように没頭していたいのに、春は私にそれを許さない。握りしめた万年筆が原稿用紙を削る音に、窓がかたかた震える音が絡まる。ガラスの向こうのまだ冷える夜、庭の端にどっしり根付く桜は満開。窓を隔ててはらはら雪のように散りゆく花びらが、原稿用紙に儚い影を落とす。指先が震える。桜が散るのと