小説のメタモルフォーゼ~媒体と文体~
日経電子版の記事【文字数半減 スマホが変えるウェブ小説 チャット形式も 多メディア展開に威力】は、スマホという媒体での読書行動が、小説の文体そのものに影響を及ぼしている状況をリポートしたものです。
単行本・雑誌・新聞・パソコン・スマホ……その媒体の持つ特性、あるいは制約が読書行動、読書という体験価値に微妙な差異を生じさせ、それが文体の変化=『文体の媒体への最適化』へと繋がることは、ある意味必然の事ではないでしょうか?
例えばスマホでの読書の場合――
▶スマホでの読書体験と文体
(1)『文字数の減少化』・・・小さな画面・隙間時間での読書への最適化。
(2)『文の短縮化』・・・視線移動からのストレスフリー。
(3)『物語サイクルの時短化』・・・一話ごとに山・谷を設定し、読者を
引き付ける。何話にもまたがる山・谷は敬遠される。
媒体が読書行動に影響し、その読書行動に最適化した文体が、多数の読者を引き付け、感動をもたらす現象そのものは必然であり、そのような小説の変容、メタモルフォーゼ自体は、決して小説の質が落ちた訳でも、ましてや小説が小説でないものになってしまった訳でもない事は、過去の媒体の変遷を見ても明らかではないでしょうか?――小説は、その内容によって最適の媒体を選び、最適の文体で自由に表現すれば良いのであって、書籍・雑誌などの紙媒体がなくなってしまう訳ではないのです。小説の質が、その小説の形式によって評価されるべきものでない事は間違いありません。
小説によって最適な文体があり、その文体に最適な媒体がある限り、個々の媒体は決して消滅するのではなく、多様性が拡がっていくのだと考えた方が自然です。
記事では、そのような小説が本来持っている変化する力強さ、メタモルフォーゼのポテンシャルについて、さらに、少なくとも3つの指摘がなされています――
▶小説の持つメタモルフォーゼのポテンシャル
(1)『テキストのポテンシャル』・・・小説はテキストであり、変化する
柔軟性に満ちている。
(2)『コ・クリエーションのポテンシャル』・・・特にWeb小説では、読者
の寄せる感想と作者の創造力との共鳴が起きて、アジャイル
に小説が共創される。
(3)『作家誕生のポテンシャル』・・・読者からの投げ銭、小説の画面に
広告を掲載、等々様々なサポート体制によって、作家誕生の
機会、チャンスが拡大していく。
人の心を言葉で描く小説というアートには、無限の可能性を備えたメタモルフォーゼのポテンシャルが秘められており、これからも形式の殻を打ち破った力強い作品が生み出されるであろうことは間違いないし、大いに期待が膨らみます。
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