はじめに

はじめに


僕は13歳の時、20歳の自分に向けて手紙を書いた。その手紙は何者かによって掘り起こされてしまったタイムカプセルを埋め直すために改めて書いたものだった。そしてその手紙の中に、「生きていますか?」「もし生きているのであれば、よく頑張りましたね」と書いたのだった。
 僕は北海道のある地方で生まれた。両親にも愛され、割と裕福な生活をさせてもらい、勉強もそれなりにでき、そして友達もそこそこにいた。にもかかわらず、中学生になったばかりの頃、20歳の自分が生きているのかどうか心配をしていた。

「僕」と書いているが、生まれたときは「女の子」だった。今は男性として生活をしている。僕は中学生になる頃には、身体的な性と心の性が一致していないことに気づいていたし、そんな自分が大人になれるのかとても不安だった。だからこそ、直接的に「生きているのか?」と問いたのだろう。だけど今、僕は30歳になった。13歳の頃の「20歳の自分が生きているのか」という心配をよそに、そこからプラス10年も生きている。そう僕は自分で手紙に書いたとおり「よく頑張った」のだ。

時代は、平成から令和に変わり、性の多様性が謳われ出している。同性婚も世界各地で広まり、日本でもそれを求めて訴訟が行われている。僕が子どもの時には考えられないような変化だ。

それでもまだ多くの中学生・高校生、大学生が自分の性について悩んでいる。僕が、今こうして本を書こうと思ったのは、自分のように性に悩む人(特に子ども達)に、「大丈夫」と伝えたくて、同じ悩みを抱えながらもちゃんと大人になれた僕だからこそできることがあると思ったからだ。

女の子として生まれて、男性として生きている僕が、どんな風に自分のことに気づき、どんなことに苦労し、どんな風に成長していったのか、一人の成長記録に過ぎないけれど、今、この本を手にしているあなたに何かのきっかけや気づきを与えられることができたらそんな嬉しいことはない。

性に悩めるあなた、もしくはそんな誰かを想うあなた、「大丈夫」。僕の人生は今のところ振り返ってみれば僕が思った以上に悪くなかったし、むしろ気に入っている部分もある。だからこそあなたの、あなたが想う人の人生も、決して悪くないし、きっと気に入るものになるはず。もちろん平坦な道のりじゃないかもしれないけれど、それでも「大丈夫」。心配しないで。

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