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LBOモデル|ATP (Ability-to-Pay)分析

今回はLBOモデル関連で、Short-form LBOモデルを作る時間もないし、スキル的にもやや不安がある・・という人向けに簡単なLBOのイメージをつかむためにAbility-to-Pay Analysisについて計算例と共に簡潔に記載していく

LBO model: Short-formとLong-form

LBOモデルには、一般的なタイプのShort-formと、繰越欠損金(NOL)等の諸条件を織り込んだ複雑なタイプのLong-form LBOがある。

Short-form LBOでは財務3表を繋げないケースもあるといわれることもあるが、そこまでシンプルなものだと本記事で記載するAbility-to-Pay Analysisに近いものになる。
PEファンドの試験ではいきなりLong formを作成させるケースは少ないと思われ、一般的なShort-form LBOが多いだろう。Short-form LBOモデルでは、①モデルのインプット項目の入力、②Sources and Uses, ③Pro-forma FS、④財務3表(Tax Schedule等含む)、⑤リターン分析が含まれるのが一般的である

Long-formはここでは説明を割愛するが、基本的にはShort-form LBO modelに案件固有の論点を盛り込んだ複雑なものという理解で問題ないであろう。

Ability-to-Pay Analysis (ATP)とは

これは言葉を直訳して分かる通り、LBOにより会社を買収する場合、どのくらい払えるか (Ability-to-Pay)、すなわちエントリー時やエグジット時のEBITDA、ネットデット、目標リターンや投資期間等をモデル上でいじった際に必要なエクイティ出資額はどれくらいか分析するものである。

上記のShort/Long-form LBOモデルでは、財務3表をプロジェクションに従いまわす必要があるが、そのようなことを行わず本当に初期的な段階で簡易的な分析を行う際に役立つ。とくにPEファンドの面接で簡単なリターン分析やケースを出された場合に、実際にエクセルで数字をいじることで数値感をつかむという点で優れていると思われる

想定される質問の例

ある会社を買収し5年間の投資期間の最終年度のEBITDAが150、エグジットマルチプルは10xを想定している。ネットデットがエントリー時・エグジット時はゼロとする。要求IRRが20%の場合、ファンドの出資額はどの程度か。

想定される質問の例②

ある会社を買収し、エントリー時のEBITDA100、エントリー時マルチプルは10xであった。エントリー時のネットデットはゼロ、リファイナンスもゼロである場合、purchase of equityはいくらか。その際にLBOローン:スポンサー出資額を50:50にした場合、レバレッジのマルチプルはいくつか(手数料は無視)。
投資期間5年でIRR25%を目指す場合にLBOローンを全て返済したと仮定して、EBITDAは成長しなかった場合、エグジットマルチプルは何倍でないといけないか?

上記の質問は財務3表を回さずとも、ATPが頭に入っていれば回答できる。模範解答は後述するので、以下にATPの概要を示していく。

Sources and Usesの作成

まずはLBOモデルを作成する際の基礎になる、Sources and Usesの設計を行う。こちらはシンプルに下記のようなイメージで問題ない。

Sources and Uses の例示

英語で書いており恐縮であるが、今回のATPで使用するのは株式の取得額(Purchase of equity)、Transaction fee(案件実行に伴う手数料)、Senior loan(シニアローン)、Subordinated debt(劣後債)、Sponsor equity (ファンド出資額)である。既存の借入金のリファイナンスは今回なし、リボルバーローンもエントリー時点はゼロ、ブリッジローン(Cash on hand, cash bridge) も今回はゼロと仮定する。

ATPの前提条件の整理

次に、ATPの主要前提条件を整理する(下記参照)

主要な前提条件

基本的には、上記の変数を調整した際に、スポンサー(すなわち買収側のPEファンド)がどの程度エクイティを出資する必要があるのかを分析するので上記で問題ない。(今回は財務3表を回さず簡易的に行うため)

ATPの計算例

本事例では、エントリー時とエグジット時のネットデットはゼロ、EBITDAも成長なしとしている。エグジット時点から逆算して分析するのでスタートポイントは下記のようになる。

Exit時のEV to Equity value bridge

エグジット時のEBITDAにエグジット時のマルチプル(上記Illustrative Exit Multiple)を乗じてEVを計算、エグジット時のネットデットを引いてEquity valueを計算する。次に投資時の出資額を推定計算する

出資額推定

上記で計算したEquity value(エグジット時)を要求リターン(IRR)をベースにMOIC(Money on Invested Capital)を計算、当該数値を基礎に出資額を計算する。具体的な計算方法は、投資期間をtとすると
MOIC = (1+IRR)^t
エントリー時の出資額 = エグジット時のEquity value / MOIC
となる。この後に、エントリー時のEVまで推定計算するテーブルは下記のようになる。

エントリー時EVの計算

上記の前提条件で記載されているように、LBO調達時のデット総額500、および諸費用(Expenses)が反映され株式の取得額が計算され、当該数値からネットデット(エントリー時)を控除してエントリー時のEVが計算されることがわかる。

計算結果

エグジット時のマルチプルをケース別に分けた場合の全体像は下記の通りである。

ケース別分析

なお、参考に上記前提のもとでエントリー時出資額の感応度分析を行うと下記のようになる(5年でIRR20%を狙う場合)

感応度分析(出資額)
感応度分析(エントリーマルチプル)

上記はエントリー時に5xでLBOローンを引くことができ、エグジット時にデットを完済できている前提である点に留意されたい

想定質問に対する回答①

エグジット時のEVは、150*10 = 1,500でありネットデットがゼロであるからエグジット時のEquity valueは1,500。5年でIRR20%の時のMOICは2.5xであるからエントリー時の出資額は1,500/2.5 = 600となる

想定質問に対する回答②

株式の取得額(Purchase of equity)=100*10 = 1,000
LBOローンとスポンサー出資額の比率は1:1なので、LBOローンは1,000*0.5=500 となり、レバレッジは500/100 = 5x

5年後にIRR25%を目指す場合には、MOICは3xである必要があるので、エグジット時のEquity valueは500*3 = 1,500である。この時のネットデットをゼロと仮定している場合にはEVも同額になるのでエグジットマルチプルは1,500/100 = 15x
というように計算される。(つまりこのような案件ではリターンの源泉はMultiple expansionのみになってしまう)

Summary

以上のように、簡易的なLBOモデルの雰囲気を理解することができるのでお勧めである。テキストで文章をいくら読んでもイメージしがたい(特に日本語で書かれた書籍にはLBOモデルに関してちゃんと書かれたものは皆無といってもいい)ので、まずは手を動かしてみて、雰囲気がわかれば財務3表をつなげたShort-form LBOに進むことが良いであろう。

今回の簡易モデルは下記にあるので、興味がある方はDLして自分でいろいろとシナリオを試してみると良いであろう

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