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むさしの写真帖

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「写真っていうのはねぇ。いい被写体が来たっ、て思ってからカメラ向けたらもう遅いんですよ。その場の空気に自分が溶け込めば、二、三秒前に来るのがわかるんですよ。その二、三秒のあいだに…
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2024年1月の記事一覧

ごばんちょ

ごばんちょ

水上勉 の「五番町夕霧楼」は、水上がよく知る「センナカ」辺りの遊廓を舞台に、実際にあった金閣寺放火事件をテーマに1962年に発表された小説である。
読んだのは随分昔の事だったと思うが、三島由紀夫の「金閣寺」を読んだのと粗同時期であったので、その関連性からも強く印象にあった。

「遊郭」と言うキーワードにノスタルジーを感じるのは、もしかしたら水上の美しい文章のせいかも知れない。
ぼくもかつて、ほんの

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濹東綺譚

濹東綺譚

「墨東綺譚」を再読した。
この「墨」という字は本来「さんずい」が付く「濹」という文字であるが、全ての環境で再現される文字ではないかも知れないので「墨」とさせていただく。

ご存知の方も多いと思われるので本の詳細は省く。
舞台は昭和初期の東京、向島近辺であり、隅田川の東側である。
現在の東向島駅から「玉の井いろは通り」、そして浅草方面に向かうと「鳩の街商店街」という場所がある。
地名としての「玉の井

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東京アンナ

東京アンナ

ライトの虹を 踏みながら
銀座の夜を ひらく薔薇
ああ誰か呼ぶ 舞姫の
その名はアンナ 東京アンナ
噂のアンナ

柔な肌を 黒髪に
隠せど甘き 流し瞳よ
ああ誰ゆえに 情熱の
その名はアンナ 東京アンナ
妖しきアンナ

重ねる酒の 激しさは
堪えた恋の しわざやら
ああ誰が知ろ くずれ咲く
その名はアンナ 東京アンナ
吐息のアンナ

ア・ピアチェーレ

ア・ピアチェーレ

カメラの操作についてわからないことは人に聞けばいいけれど、写真の良し悪しや映える写真の撮り方なんかは他人の言うことに聞く耳なんか持つ必要はない。
撮りたいものを撮りたいように撮るだけ。
正解などない。

自由律写真

自由律写真

場所もカメラもなんでもよろし。
タイトルも見てくれた人が自由に思ったことを載せたらよろし。
もっともっと自由に。

読み物としての料理本

読み物としての料理本

ぼくが料理をするのは自炊ではなく炊事であるから、毎日のように台所に立つが、こと自分ひとりの分を作るとなると途端にやる気がなくなる。
自炊というものは自分のためにするのであって、家族のためにするというのは炊事であるから家事の一環なのである。
もちろんぼくによる解釈ということなのだけど。

まぁそれはある意味もっともな話しで、ぼくの場合、料理は自炊から始めている。でもラーメンとか食わせておけば腹の虫は

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あなたならどうする

あなたならどうする

“「空って何で青いの」と子供に問われた時に、短波長の光ほど大気中の分子に散乱されやすい、と回答すると、「じゃあ何で空は青より波長の短い紫にならないのか」という二の矢が当然予想されるわけで、それに対して俺はこれまで紫領域で急減する太陽光のスペクトルを見せれば済む話だと思っていたのだが 実際には散乱された空の光の明るさのピークは紫の波長領域にあるらしい。つまり空は本当に紫色なんだけど、俺らの目の感度が

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恋人〜Leica M5

恋人〜Leica M5

ライカというと大体持ち物自慢みたいな話になるから避けているのだけど(写真の云々をぶっ飛ばすくらい機材ラブが分かるならいいんだけどね)、M3から始まってM2、M4-P、M6、IIIf、M8、M8.2、M9と使ってみて、ひときわ記憶に残るカメラはM5なのである。

載せたレンズはズマロン35mmかズマリット50mmだった。いずれもLマウントの古いやつだ。
ボディは初め銀だったが、露出計が故障してから黒

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フェルメールの焼きそば63

フェルメールの焼きそば63

どうせまた夜には「今日こんなものを食った」と投稿するのだけど。

昼飯に焼きそばを作って食うときに、テーブルにカーテンの隙間から日が差した。
一条の光芒を作り、その光芒はぼくに以前見たフェルメールを想起させるのである。
フェルメールはご存知のように「光と陰」あるいは精緻な描写やフェルメール・ブルーと言われるような色彩で、つとに著名なバロック期の画家である。
代表作というと「真珠の耳飾りの少女」など

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愛しい人へ

愛しい人へ

昨日は浜田省吾のライブに行った。
前回行ったのは、もう七年にもなろうかという頃だから、ずいぶん久しい。

デビューから八十年代の初めの頃のものを中心にセットリストが組まれていたので、ぼくには馴染みのある曲ばかりで嬉しかった。
ライブではあまりやってなかったように思う曲もいくつかあって、とりわけこの曲が始まった時には不覚にも目が潤んだ。

高校も終わり頃、ぼくも受験勉強なるものをせねばならない渦中に

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ロミオとジュリエット

ロミオとジュリエット

もう時効だろうから白状するが、もう30年以上昔、大学生の頃にお付き合いさせてもらっていたガールフレンドと真夜中にこっそり家を抜け出して、度々デートをしていた。
彼女は典型的な箱入り娘で、そうそう頻繁に会うことが叶わなかったので、苦肉の策として、そういうことになっていたのだ。

ぼくは男だから夜中に家を抜け出したところで母親に文句を言われる程度だろうが、彼女はそういうわけにもいかないから、かなりスリ

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銀色の道

銀色の道

明日から明後日にかけては平野部でも雪になるかも知れないと天気予報では言っていた。

子どもの頃、正月の思い出のひとつに「寒稽古」があった。
剣道を習っていたのだが毎年正月には早朝に稽古があり、稽古の後で振舞われるお汁粉を目当てに出かけたものだ。

道場は家から見て西にあって、稽古に行く際には吹き付ける伊吹おろしに向かって行くことになる。
自転車で胴衣の上からジャンパーを羽織るだけ。
風が強いと息す

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She drove her car

She drove her car

まだ高校生の頃。
知り合いの女性が免許を取ってクルマを買った。
どういう経緯だったか忘れてしまったが、ドライブに連れて行ってもらったことがあった。

ウチの父は免許を持っていなかったので、どこへ行くにも電車かバスだったから、クルマで移動するのは、それだけで心ときめくものだった。
ただ気がかりだったのは、ぼくは車酔いをする体質だったこと。

「海に行こうよ」

彼女はそう言うとぼくに地図を持たせ南へ

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