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エッセンシャルに行こう

 哲学者のウィリアム・ジェイムズは、「自由意志の最初の一歩は、自由意志を信じることだ」と述べた。エッセンシャル思考の最初の一歩は、「選ぶ」ことを選ぶことだ。

 エッセンシャル思考とは、「より良く、しかしより少なく」を追求する生き方である。

 今回は『エッセンシャル思考』の紹介をしたいと思う。まとめてしまうと、上記の生き方を行うには、

「より多くの選択肢を考え」

「覚悟を持って最終的に選択した対象以外のものを捨てること」

が、必要になる。多くの障害、時間の制約が付きまとう現代社会において、エッセンシャルに生きることはあなたが抱えている夢や目標、仕事において、多くの利点をもたらすだろう。

1 より多くの選択肢を考えるとは?

 エッセンシャル思考の人はそうでない人に比べて人より多くの選択肢を検討している。忙しいときには、頭を使うより先に手を動かすしかないだろうと考えがちだ。しかし、何かを実行するときに一番大切なのは、その前段階の「準備」なのだ。

 「80対20の法則(パレードの法則)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。19世紀末に経済学者のヴィルフレド・パレードが提唱した法則で、成果の80%は20%の努力に起因するという説だ。
 

 どれだけ一生懸命何かを行っていたところで、あなたがやろうと思っていたことすべてをこなすのは難しい。「忙しい」という状態で行っているものの中に、不要なもの、改善の余地があるものは必ずある。あなたがやらなければならないもののすべてが重要というわけではないし、そのすべてを平等に扱わなければならないというわけではない。エッセンシャル思考の人は、逆に「大部分のものは不要」であるという視点から、「決定的に重要なだけを選択する」ように心がけている。努力に振り分ける労力は20%で良いのだ。

 では、何が不要な物事なのか。それをどのように判断したら良いのか。


 まずは、大局的に物事を見通し、情報の本質を端的に掴む訓練を始めよう。
 ありがちなのは、必要な情報を集めているうちに、本当にしなければならないことを見失ってしまうことだ。
 
 ・それは本当にやらないといけないことなのか

 ・自分が本当に求めていることなのか

 ・本質的な問題解決の助けとなるのか

 それを厳しい基準で判断した上で、情報収集を始めよう。本当に大切なのはそれらのことで、そこが明確にできれば案外大局的に物事を見通すことも容易になる。問題そのものを見失わないこと。それらを解決する選択肢が頭に浮かんだら、具体的な道筋を描くための情報を集める。

 例えば職場の上司からオーダーが入る。そのオーダーが本質的に必要だと判断できれば、まずは真っ先に頭に浮かんだ解決策を試す前に、より多くの選択肢を考える。予算や人員、能力……atc。準備期間は、自分が想定しているより1.5倍は見込んだ方が良い。計画錯誤という言葉があり、人には作業にかかる時間を短く見積もりすぎる傾向があるからだ。十分に生み出した選択肢の中から、たった一つを選ぶ。問題の本質を見失っていないだろうか……? オーケー、後はたった20%の努力の世界だ。

2 覚悟を持って最終的に選択した対象以外のものを捨てること


 と、簡単に書き連ねてしまったが、現実はそう上手くいくだろうか。上司からのオーダーにそもそもノーなんて言えないよ、とかね。

 この世のトラブルの半分は、イエスを言うのを焦りすぎ、ノーを言うのを渋りすぎることからくる。

ジョシュ・ビリングス

 ノーを告げるのは、必ずしもあなたの評価を下げる行為ではない。むしろ、曖昧なイエスはただの有り難迷惑だ(とくに仕事であればなおさら)。判断はそれぞれの関係性と切り離して考えること。イエスと答えておきながら、その仕事が遂行できなかったり、そのせいでほかの重要な仕事ができなくなったら、組織としてその方が問題だ。断り方はいろいろあるだろうが、なるべくその理由を説明しつつ、きっぱりとした「ノー」だけは相手に分かってもらう必要がある。

 何かをやるというのは、何かをやらないということなのだ。私たちの日常はトレード・オフなしには存在しない。限られた時間の中で、何か一つのことをやりながら別の何かまで手を回すことはできない(北海道観光と沖縄観光は同時にできない)。私たちは日常レベルでも常に何かを選択し、何かを諦めている。その質を高め、何かを諦めるときには覚悟を持って「やらない」と決意すること。それだけで、あなたが行うその「何か」の質はぐっと上がっていくことだろう。

 次に、目標を完全に明確にするための考え方を紹介する。

 ビジョンというのは、一般的だが具体性がないものだ。例えば、人の役に立ちたいなど。価値観はそのビジョンに対する夢に対する意識、経験からくる思いといっていい。四半期目標は○月○日までに履歴書を書くなど。具体的で地道な「やらなくてはいけないこと」だ。

 私たちが大切にしなければいけないのはこの「本質目標」である。ワクワクして、かつ具体的であるもの。例えば「医者になりたい」と設定したらどうだろう。本質目標を逃げずに設定してしまえば、やらなければならないことが明確になる。勉強、試験までの日程、希望の診療科……。「本質目標」を意識すれば、その後の行動はがらりと変わり、軸がぶれることはなくなるだろう。そこに向き合い、どれだけ自分と対話を重ねられるか……その準備をどれだけ真摯に行えるかがあなたの人生の大きな分かれ道になるだろう。

 最後にちょっと恐ろしい実験を紹介して終わる。心理学者のマーティン・セリグマンとスティーブン・マイヤーによる「学習性無力感」の実験だ。

 セリグマンとマイヤーは、犬を3つのグループに分けた。最初のグループの犬たちは、逃げられないようにつながれた状態で電気ショックを与えられた。ただし、あるパネルを踏むと電気ショックが止まるようになっていた。
 2つのグループの犬たちにも同じように電気ショックが与えられたが、パネルを踏んでも電気ショックを止めることはできないようになっていた。3つめのグループの犬たちはつながれていただけで、電気ショックは与えられなかった。
 さて、肝心なのはそのあとだ。セリグマンとマイヤーは、3つのグループの犬たちをある小部屋に連れてきた。小部屋は低い障壁で2つに仕切られ、一方の床だけ電気ショックが発生するようになっていた。低い障壁を飛び越せば、電気ショックから逃れられる。
 もともと電気ショックを与えられなかったグループと、電気ショックを止めるパネルがあったグループの犬たちは、すぐに壁を飛び越えて部屋の反対側に逃げることを覚えた。ところが、電気ショックを止める方法がなかったグループの犬たちは、壁を飛び越えようとしなかった。電気ショックから逃れる方法を、探そうともしなかったのだ。
 なぜか? なすすべもなく電気ショックを受けていた犬たちは、そこから逃れるという選択肢があることを忘れていた。それまでの経験によって、どうしようもない無力感を身につけてしまったのだ。

   私たちは何度でも、「自由意思」を信じ続けなければならない。


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