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エスプリの効いた百合

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自分が自分でいたいから、彼女たちはもう一度つながる。『ギークス!』『あたしは可愛くなんてない。』の続きでありながら、新しい世界である百合小説シリーズ。 (『エスの旋律』) かつて…
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『エスプリの効いた百合』、あとがきの代わりに

『エスプリの効いた百合』、あとがきの代わりに

 実はまぁ、今月に新章といいますか、新たなカップリングの話を出そうと思ってたのだけどなかなか難しいもんだなぁと思って、百合小説に関してはちょっと充電期間いただこうと思います。
 「天野セナと大地サナの話を深く描く」目的が自分の中で達成されてから、じゃあ次は何を目指そうかというのが見えてこないのでしょう。

 というわけで、あとがきの代わりにして特別編の第三弾。
 特別編にして続編であり過去の話です

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特別編2・どうせ死ぬのに(今のゆみみお版)

特別編2・どうせ死ぬのに(今のゆみみお版)

 今回はこちらの話を今の弓琉と未央の設定に直してみるとこうなる、という作りになってます。

どうせ死ぬのに 飄々(ひょうひょう)としているという言い方があるらしいが、彼女はまさにそうだ。
 どうして、ウチとキスしようなんてことを言うんだろう。

 弓琉(ゆみる)さん……本名はちゃんと別にあるのだが、彼女はよく分からない。
 あの当時は女子校にいる女子高生で、ひとつ上の先輩で、ふたつ年上の十八歳だっ

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特別編・ひずんでいるから踏まれたい(3)

特別編・ひずんでいるから踏まれたい(3)

「何って、やっぱり……うみちゃんだと思って」

 青く光る海の、その感情を揺らしてみたかった。
 だから、幼かったぼくは彼の唇を受け入れた。
 男同士だからとか、恋人じゃないからとか、そんな風に後から言ってみたことはあったけど。
 うみちゃんは、男と女じゃなきゃダメなのかとか、そこまでの関係にならなきゃキスもできないのかと問うた。
 「みひろ凪」になるずっと前の、それでも、あの頃から長いまつ毛が綺

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特別編・ひずんでいるから踏まれたい(2)

特別編・ひずんでいるから踏まれたい(2)

 凪さんは素知らぬ顔で、サイドのテーブルに置かれたピザにがっつく。
 乱れた髪もほとんど直さず、ガニ股でベッドに座って。
 最後の一口を飲み込んだ彼が……彼もまた、次郎さんのいる世界の住人だとしたらひどく軽蔑するだろう。
「あの女性、誰なんでしょう」
 両手を拘束され、目元まで布で隠された、いかにもドMですみたいなぼくを見て、彼女はどう思ってたのか。
 ぼくはお尻に指が挿れられた瞬間の、あの違和感

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特別編・ひずんでいるから踏まれたい(1)

特別編・ひずんでいるから踏まれたい(1)

 ぼくとセナさんは、ピンと張られた綱の上に立たされ、互いに剣を向けているみたいな関係である。

 彼氏と彼女の関係をやめても。
「ヒロちゃーん!」
「えっ、セナさん」
「君は最近ご機嫌みたいだねぇ」
「いやぁそれほどでも」
 そういうもんだ、と人に説明すると驚かれるのだけど。
「なんだぁ、本性丸出しにして、藍里ちゃんを失望させちゃうかと思ったのに」
「なっ……そんなねぇ」
 おキヨ邸に向かう途中、

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処女失格(5) 君との日々

処女失格(5) 君との日々

 お姉ちゃん。
 私……本当は、ただお姉ちゃんが好きなだけだよ。
 恋だった、はずだったんだよ。
 お姉ちゃんにしかなれないお姉ちゃんのこと。

 あの言葉に迷いがあるその理由は、私にはとうとう分からなかった。
 きっとこれからも分からないままだろう。
 だって私には、ああいう類の気持ちを受け入れる力はないのだ。
 明里の……私のもうひとりの母のように、「藍里ちゃんは何もなくて運が良かったのね」と

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処女失格(4) 処女失格

処女失格(4) 処女失格

 このご時世だろうと何だろうと関係なしに、街なかの小さなスーパーは人で溢れている。
 岡元からもらったパステルカラーの布マスクを着けてても、少々不安になってくる状態だ。
「これは……この組み合わせというのは、もしかしておキヨさんにバレてたりしないかなぁ」
「どうなんだか。でも静かだよなぁ、それどころじゃないからかなぁ」
 特売品の焼肉セットを手に取りながら、彼はかすかに憂いを秘めた顔をした。
 次

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処女失格(3) つぼみのアリア

処女失格(3) つぼみのアリア

 僕はここで待ってるから、その唇を奪いに来て。
 巽清隆お得意の、深い水底のようなEDMサウンドとともに歌詞が紡がれている『つぼみのアリア』。
 初めての恋のはずなのに、夢で何度も会っていた運命の人。
 紅の薔薇がほころんでゆくみたいなその感情に戸惑いながらも、僕は孤独の中で歌うのだという。

 ……そんなもの、理解できるはずないじゃないか。
 私が分かる愛おしさとは、傍らで手を握って添い寝してく

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処女失格(2) いばらの彼女

処女失格(2) いばらの彼女

 名ばかりアイドルの朝は遅い。
 寝ぼけ眼をこすって台所に入ると、ひとり、おにぎりを握っている人物がいた。
「おはよう、お姉ちゃん」
 えらく平然とした、いつもの落ち着きのある妹だ。
 すっぴんにメガネという出で立ちではあるが、ちゃんと小綺麗に着替えている。
 一日中パジャマという日も珍しくない私とは大違い。
「今日は塩昆布とねぇ、梅おかかにしてみたんだぁ」
「そっか。どうも」
「それとねぇ、通販

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【百合好きがやってみた #目合い祭 】君としたいの

【百合好きがやってみた #目合い祭 】君としたいの

※2024年4月追記:元々の企画は成人向け設定のワンクッションのために有料化しておりました。
が、noteで正式に成人向けのゾーニングがなされることとなったのと、あさのがnote内で収益をいただくことを終了させたので、全編無料公開となりました。
作品自体は今でも大切なものなので残しておきます。
よろしくお願いします。

 こんにちは、朝乃です。

 元々は、この企画のために考えていた百合モノではあ

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処女失格(1) 君が男ならいいのに

処女失格(1) 君が男ならいいのに

 今年の冬将軍は、人に甘かった。
 街はやれバレンタインだ何だと浮かれているのだけれど、私の子供の頃に比べれば随分と優しいイベントになったような気もする。
 何故なら、チョコレートをあげる相手は必ずしも恋仲の関係じゃなくても構わなくなったから。
 いっそ義理チョコまでやめてしまえ、という動きまで出ているのだから驚くばかりである。
 でも私は……同性から貰う安いチョコを、バレンタインデーの後からチビ

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エスの旋律(6) ここにいるから

エスの旋律(6) ここにいるから

 窓から見えるのは、桜の若葉。
 花が散ってしまったからという理由で残念がられている、青い若葉。
 彼女はその、桜の若葉みたいな人だった。
 だけど自分は真実を知っている。
 その青さだっていつかは衰え、今以上に誰にも愛されない結末を迎えるからこそ、眩しいのだと。
 そんな風に感じていたかった。
 自分だけの特別なものにしたかった。
 最愛の彼女を。

 そんな風につづられていた天野椎菜の想いを、

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エスの旋律(5) エスの旋律

エスの旋律(5) エスの旋律

 私はきっと、ほのかに暗い道の中を歩いている人間なのだろうと思う出来事があった。
 父の友人、そして、私の友人でもある男性の、告別式に出た時だ。
 確かあの頃の自分はまだ垢抜けない、制服姿だっただったはずだ。
 参列者の多くが年上のお兄さんとかおじさんで、とても浮いていたかもしれない。

 その、亡くなった彼は年齢の割に顔が幼かった。
 しかも女っぽくて、私はそれを「お姉ちゃん」とからかって遊んで

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エスの旋律(4) 麗しき悪魔

エスの旋律(4) 麗しき悪魔

 ROSY ARIA(ロージー・アリア)というバンドは、狂っているのが普通だ。
 ドラァグクイーンでお金持ちで、愛人もいるおキヨさん。
 妻子持ちだけど何故かニューハーフである次郎さん。
「次郎って呼ばないでください黒曜ですから」
 あ、これは黒曜さんを本名で呼ぶ定番のギャグね。
 そして、ヤバそうに見えてまとも、と言われ、でもゲイだと時々勘違いされるぼくが寄せ集まった結果なのだ。
 何故か二丁目

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