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イタリアの、田舎風ラーメンに出会う。 *エノガストロノミア&アトリエ n.1*

Enogastronomia [エノガストロノミア]。ここ数年、イタリアで頻繁に耳にする言葉。

エノは、Enologia [エノロジア]。ワイン醸造学を指すけど、この場合は、シンプルに「ワイン」。

Gastronomia [ガストロノミア]は、美食、食道楽、郷土料理の意味。

この二つの言葉を掛け合わせた「エノ+ガストロノミア」。

ワインを飲みながら、食事を楽しみましょう!

なんて魅惑的。人を幸せにする魔法の言葉。

最近では、使われ過ぎていて、ああ、またか。なんて感じることもあるけど、一応反応せずにはいられない。

『フード&デザイン』をテーマに、アトリエや工房を見学しつつ、「ワインを飲みながら、食事も楽しみましょう!」という、あちらも、こちらも、どちらも楽しそうなイベントを発見。

エノガストロノミアを担当するのは、15名のシェフ。工房1箇所につき、シェフひとり。地元の特産品を使い、料理を作るらしい。

なかには、ミシェラン常連のエノテカピンキオリ、イルパラッジョ・フォーシーズンズ・フィレンツェ、リストランテ・ボルゴ・サン・ヤコポのシェフも含まれている。

内容を吟味し、足を踏み入れたことのない、未知の世界を覗けそうな、2箇所を選んでみた。

1箇所は、ヴィッキオという田舎村(失礼)。
もう1箇所は、フィレンツェ中心街のちょっと外れ。

フィレンツェにも、楽しそうな日程が盛り沢山あったのに、なぜ、ヴィッキオ?

un ramen mugellano con brodo di miso ai marroni del Mugello e bottoni di pasta ripiena.

ムジェッロ特産の大栗を使った特製味噌ラーメン、ムジェッロ風。

これは、食べないわけに、いかないでしょう。

まずここで、ちょっとだけ地理を紹介。

ムジェッロは、フィレンツェから約40キロ北上したところにある、山あり谷ありの地方。オレンジ色がフィレンツェ地区。その上にある、青色の地方がムジェッロ(MUGELLO)。

ちなみに、キャンティ、モンタルチーノ、モンテプルチャーノのようなワインの産地は、ベージュ色のキャンティ(CHIANTI)地区から南側。

トスカーナ州にあるのに、ムジェッロ地方は、気候的に葡萄栽培は難しい。牛や羊が草を食み、山には栗の木。特産物は、じゃがいも、スペルト小麦、キノコ、蜂蜜、etcc..

自然のなかに、小さな村が点在し、フィレンツェ人の胃袋を満たす台所、それが、ムジェッロ地方。

キャンティ地方や、斜塔の街ピサと比べると、取り立てて「これだ」というものがないので、知名度は低いけど、自然麗しく、食事も美味しい地方。

工房の様子は、次回に案内するとして、まずは、ラーメン。これが栗味噌!

ちゃんと日本の麹で栗を発酵させています。お味噌独特の塩気のなかに、ほんのりと栗の甘さを感じる。すごーい。

栗を蒸して砕いて、麹と塩を混ぜて、ボール状にしたら、容器に空気が入らないように詰めて、重石を置いて熟成させる。お味噌とまったく同じ手順。

栗は大豆と違って、早く熟成するらしく、4ヶ月でできあがるそう。

お味噌を作ったのは、ムジェッロ出身で、イギリスやドバイなどのレストランでバイトし、地元に戻って、コロナ禍にお店を開店させた、ナオミさん。

名前に惑わさられることなかれ。彼は100%イタリア人。そして男性。

イギリス滞在中に、日本料理店で働いたときに、自分の好きな料理は「これだ!」とピン!ときたらしい。

今度食べに来てね。と、渡されたショップカード。

店名「SARU」 。お猿さんです。ロックダウン中に開店したこともあり、道にはだれひとりいない。この先、どうなるのかわからない。家から一歩も出れずにいた、あのとき。

日本で見た、温泉に入るお猿さんを思い出したそう。みんな仲良く一緒に入り、親が子を撫で、友達同士でふざけあう。そんな温もりのあるコミュニティの場を作りたいと思ったそうです。

今回お披露目のラーメンは、イベント用に特別に作ったもので、彼のお店では、お寿司とか、おにぎりとか、丼モノとか、定番の日本食を作っているそう。絶対に食べに行こう。

こちらがラーメンの具材。なんて華やかな。

ショッキングピンクの丸いもの。ナオミさんが「ni tamago」と説明してくれた、ビーツでピンク色に染めた煮卵。お醤油の代わりに、赤いビーツの汁。なるほどねぇ。

卵の上に乗ってる白いのは、アカシアの花。5月や6月はアカシアの季節。食べると、ほんのり甘い、エディブルフラワー。

福島の実家では、季節になると山に行き、アカシアの花を摘んでは、天ぷらにしたものだ。イタリアでもフリットにするらしい。

手前の黒い物体は、にんにくの燻製。ワインビネガーではなく、米酢を使用。首尾一貫した、すばらしい徹底ぶり。まだ、続きます。

こちらはアヒル肉の燻製。燻製するときに、かつお節も混ぜています。口のなかで、そこはかと香る、かつお節。深みのある旨味は、日本酒とも合いそう。

イベントの主催者のひとり、レオナルド・ロマネッリ氏が挨拶。イタリアの食のガイドブック「エスプレッソ」「ガンベロロッソ」にも関わり、テレビにも出演し、本も数多く出版している、フードジャーナリスト。

閑散としてるのは、みんな試食に夢中だから。

3日間かけて15箇所が同時進行で行われるイベントで、ここに彼がいるということは、ムジェッロ地方の食の促進に熱を傾けているのかもしれない。

ロマネッリ氏の隣にいるのは、クリスティアン・ボルキ氏。ヴィッキオ村でのエノガストロノミア・イベントのメインシェフ。ラーメンは、彼とナオミさんのコラボレーション。

田舎は保守的な人が多いから、普通のラーメンを出しても、食べてくれないだろう。二人のシェフが話し合い、誕生したのがこちら。

ムジェッロ地方は、餃子のように、具を中に詰めたトルテッリというパスタが有名。トルテッリ・ラーメンの具は、3ヶ月ほど熟成させたペコリーノチーズ。

ペコリーノの乳の甘さをともなう塩気と、栗の甘みを持つお味噌のスープと、絶妙な調和。アヒル肉のかつお節燻製が、また合うこと。色味でも、味でも、全体の引き締め役に、黒いニンニクを足しているのが、いいですねぇ。色彩が際立ちます。

ラーメンの固定概念を覆す、ムジェッロ風ラーメンの、まさかの姿と味は衝撃的でした。

トルテッリを作るための、卵、チーズ、味噌に使われた大栗などの食材は、地元生産者のもの。

イベントでは、ムジェッロ地方の食の生産者達が集い、参加者は試食ができるようになっています。ワイン、サラミ、ハム、チーズ、パン、お野菜、蜂蜜、サフラン、オリーブオイル、その他いろいろ。

サフランと栗のジェラート。どちらも地場産。ジェラートに利用するミルクは、ムジェッロに放牧される牛さんのお乳。さっぱり感のある後味で極ウマ。

スーパーに並んでるのではなく、生産者から直接に話しを聞いて食材を知り、地元のシェフが、それらの食材を活かした料理を作り、参加者は、生産者と料理人という、両サイドから、食を楽しめる。

工房では職人から。食材では生産者から。それぞれ話しを聞くことのできる、ローカル再発見の意味合いの濃い、エノガストロノミア・イベント。

工房見学では、ロマネッリ氏の案内に、ヴィッキオ村長まで参加して、とてもアットホームな雰囲気で、楽しかったです。こちらは次回に案内します。

最後まで読んで下さいまして
ありがとうございます。
次回は工房でお会いしましょう!



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