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ショートショート「追想」
ショートショート「追想」
古い家を取り壊す際、何やら模様の書かれた紙を子供達が発見した。
「これ、なんだ?」
「『文字』ってものらしい。大昔の意思疎通プロトコルだ」
大脳神経に通信端末を埋め込んでいる最近の子供達には直接、検索情報が音声付の映像として脳に伝わってくる。実は今の会話も子供達は一言も発していない。脳内の端末同士の無線通信で瞬時に意思が相手に伝わるのだ。
「これ、どんな情報が記録され
ショートショート「病」
ショートショート「病」
ドラクー伯爵は齢300年の吸血鬼である。彼はヨーロッパの小国、
ドランシルバニアの領地からめったに出る事はなかった。
ところがある日、ドラクー伯爵は考えた。
『地球上にはおろかな人間共があふれている!当然、偉大な吸血鬼
である俺様がやつらを指導してやらなければならない。なのにいつ
までもせまいヨーロッパで活動しているのもいかがなものか? こ
こはひとつ、自分自ら支配地拡
ショートショート「再会」
男はその日、牢から出た。
男は長い間、牢に入っていた。
男の属していた組織の、不祥事の責任をとったのだ。
別に男一人が悪いわけではない。男が責任者だったわけでもない。
だが、無実、なのでもない。
誰かが罰を受けなくてはならなかったのだ。
牢から出た彼を迎える者は、だれもいない。
男一人に罪をかぶせ、多くの人が救われたが
誰も感謝などしなかった。
むしろ、男の存在を汚いもののように
ショートショート「王」
日曜日。
目覚めると彼は王だった。
ゆっくりと城の庭を散策する。
月曜日。
目覚めると彼は衛士だった。
一日中、油断なく城門を見張る。
火曜日。
目覚めると彼は掃除夫だった。
広い城内、とても一人で掃除できるものではない。
今週は東の回廊を中心に清掃する事とした。
水曜日。
目覚めると彼は料理人だった。
一週間分のパンを焼く。肉や野菜も少し調理する。
その夜、彼は夢を見た。
彼がまだ幼い
ショートショート「僕とかぞく」
僕は長男なので「太郎」という名だ。
お父さんとお母さんといっしょにくらしている。
僕が三歳になったころ妹ができた。
妹は「さくら」、春に生まれたからだ。
赤ん坊のころはよく泣く子で、僕もよくおもりをしたものだ。
お昼寝の時は僕が横で一緒に寝てやると、安心したのか不思議と寝つきがよかった。
よく赤ん坊はミルクの臭いがする、というが何かほんわりしたやさしい臭いがしたことをおぼえている。
もう一匹、