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印度林檎之介 ショートショート

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印度林檎之介作 珠玉のショートショート集
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記事一覧

ショートショート「相撲」

ショートショート「相撲」

深夜、家に帰りダイジェストニュースを見る。

「いじめ問題で揺れる○○中学で、校長とPTAによる話合いが行わ
れました。」

画面に土俵が映り、二人の男が現われる。枯れ木のような体に白い
まわしをつけた初老の男。校長だ。緊張で顔は真っ青。全身ぷるぷる
している。それに対し、体重200Kgはありそうな巨漢。PTA会長だ。
「見合って~、八卦よい!!」
豪快なPTA会長の上

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ショートショート「追想」

ショートショート「追想」

 古い家を取り壊す際、何やら模様の書かれた紙を子供達が発見した。
「これ、なんだ?」
「『文字』ってものらしい。大昔の意思疎通プロトコルだ」
大脳神経に通信端末を埋め込んでいる最近の子供達には直接、検索情報が音声付の映像として脳に伝わってくる。実は今の会話も子供達は一言も発していない。脳内の端末同士の無線通信で瞬時に意思が相手に伝わるのだ。
「これ、どんな情報が記録され

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ショートショート『勇気』

卒業式が終わった一人の帰り道。

彼女についに告白できなかった……、

意識したくなくても後悔が大きくなっていく。

向かいから学生服姿のカップルが歩いてくる。

卒業証書のケースを持っているが、僕とは別の高校のようだ。

うつむいたまますれ違うと、男の子のほうが声をかけてきた。

「これ、あげるよ」

そしてポケットから赤い、小さな星のようなものを取り出した。

「え……!」

ふいをつかれたせ

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ショートショート「箱の中」

世界中の鶏が全滅した。
それでも、焼き鳥屋は営業している。
豚肉を焼くいわゆる『焼きトン』だが、『トリ皮』だけはメニューにある。
俺は焼き鳥屋のオヤジに聞いてみた。
「これ、何の皮?」
「ブタの皮を加工してつくるのさ……。作り方見てみるかい?」
オヤジは携帯で動画サイト『mytube』を見せてくれた。

『生きたブタの毛が刈られて、コンベアーの上に固定されて流れていく。
コンベアーの上にあるのは箱

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ショートショート「病」

ショートショート「病」

ドラクー伯爵は齢300年の吸血鬼である。彼はヨーロッパの小国、
ドランシルバニアの領地からめったに出る事はなかった。
ところがある日、ドラクー伯爵は考えた。
『地球上にはおろかな人間共があふれている!当然、偉大な吸血鬼
である俺様がやつらを指導してやらなければならない。なのにいつ
までもせまいヨーロッパで活動しているのもいかがなものか? こ
こはひとつ、自分自ら支配地拡

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ショートショート「color」

ショートショート「color」

ある日、牛乳を飲むと私は真っ白になってしまった。

肌の色は白、髪はプラチナブロンド、瞳の色も銀のまじったような白だ。
こんなことになるなんて、牛乳を飲みなれていないせいだろうか?
もともと牛乳ぎらいのやせっぽちの私は、牛乳を飲んだのは幼稚園以来だ。
だけど、こんな話、聞いた事がない。

医者に行ってみると考えられないことではないという。
牛乳の製造元にいってみなさい、とすすめられた。

私は郊外

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ショートショート「再会」

男はその日、牢から出た。

男は長い間、牢に入っていた。

男の属していた組織の、不祥事の責任をとったのだ。

別に男一人が悪いわけではない。男が責任者だったわけでもない。

だが、無実、なのでもない。

誰かが罰を受けなくてはならなかったのだ。

牢から出た彼を迎える者は、だれもいない。

男一人に罪をかぶせ、多くの人が救われたが

誰も感謝などしなかった。

むしろ、男の存在を汚いもののように

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ショートショート「ダイアル」

最終電車に乗ると、ほとんど人がいなかった。

だだっ広く空いた席の端に中年の男性が一人、いびきをかきながらぐっすり眠りこけている。

男性の横を通り過ぎようとした時、私は妙な事に気がついた。

男の頭はてっぺんだけ禿げているいわゆるザビエル禿なのだが、なぜか頭頂部にダイアルがついているのだ。

……見ると、円周にそって矢印(←、→)がついている。

なんだ、これは?と思うと同時に、困った事にどうし

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無題

散歩をしているとサルに呼び止められた。
「お願いします! 助けてください」
なんでも彼らのリーダーである桃太郎が病に倒れ、困っているそうだ。
そこで俺は桃太郎を村に連れていき、医者に見せるとなかなかに症状は重くしばらくは動けないようだ。
使命をはたせず落ち込む彼らを見て、男気溢れる俺は桃太郎のかわりにリーダーをひきつぎ、鬼ヶ島を目指すことになった。

数年が立ち、厳しい旅の途中でサル、犬、キジいず

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ショートショート「王」

ショートショート「王」

日曜日。
目覚めると彼は王だった。
ゆっくりと城の庭を散策する。

月曜日。
目覚めると彼は衛士だった。
一日中、油断なく城門を見張る。

火曜日。
目覚めると彼は掃除夫だった。
広い城内、とても一人で掃除できるものではない。
今週は東の回廊を中心に清掃する事とした。

水曜日。
目覚めると彼は料理人だった。
一週間分のパンを焼く。肉や野菜も少し調理する。

その夜、彼は夢を見た。

彼がまだ幼い

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ショートショート「引越し」

困った事になった。
新しく買った新居に今日中に引っ越さなければならないのだが、頼んでいた引越し業者が、昨日突然倒産してしまったのだ。
業者をあてにしていたので、引越し準備ももう昼だというのにほとんど進んでいない。
しかも引越しを延ばすわけにはいかない。
明日、この家に次の住居者(中古の我が家を買った家族)が引っ越してきてしまう。不動産会社との契約上、早急に家を明け渡さなければならないのだ。

私は

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ショートショート「ペガサス」

失恋してムシャクシャしたので、気晴らしに山登りをした。
山頂についた。いい眺めである。
ここで普通なら「ヤッホー」などとサワヤカに叫ぶところだが、そんな気が起きるはずもなく、
「バカヤロー」と叫びながら、空に向かって大きめの石を投げた。
すると、下のほうから『ぷぎゃっ!!』みたいな何か叫び声?のような音が聞こえた。
何事かと思うのも束の間、羽の生えた真っ白い馬がゆっくりと視界の下の方から昇ってきた

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ショートショート「僕とかぞく」

僕は長男なので「太郎」という名だ。
お父さんとお母さんといっしょにくらしている。

僕が三歳になったころ妹ができた。
妹は「さくら」、春に生まれたからだ。
赤ん坊のころはよく泣く子で、僕もよくおもりをしたものだ。
お昼寝の時は僕が横で一緒に寝てやると、安心したのか不思議と寝つきがよかった。
よく赤ん坊はミルクの臭いがする、というが何かほんわりしたやさしい臭いがしたことをおぼえている。

もう一匹、

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ショートショート「季節の妖精」

三月近いというのに、大雪、氷点下。
せっかく都会から田舎へ移住してきたのにこれはきつい。
今年は春が遅いようだな、などと思いながら庭いじりをしていると、スコップの先に変な感触が。

掘り出してみると、赤ん坊くらいの大きさの人形のようだ。
頭に花だのつくしだのをかたどった、妙な冠をしている……と思ったとたん目を開けてしゃべりだした。
「こんにちは、ボクは『春の妖精』さ! ちょっと寝坊しちゃった。起こ

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