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スピーチ 【青ブラ文学部】

サチ。どこ行っちゃったのよ。
タカシ、アイラって女と結婚するんだよ。
許せる?このままでいいの?
あんたが良くても私は許さない。
私、あんたの代わりに二人を終わらせてやるから…。


・・・

「それでは、友人を代表して、ゆうこさんよりお祝いのスピーチをいただきます」


タカシさん、アイラさん、ご結婚おめでとうございます。
アイラさんとは昨年春、料理教室で出会いました。
私たちはすぐに仲良くなりました。
まるで以前からの友人のように。
アイラさんが花嫁修行の一環で料理を学ばれていることを知った私は、こんなに美人のアイラさんの旦那さんになる人は、一体どんな方だろうと興味があって、「写真を見せて」と頼みました。
写真を見て、とても驚きました。
アイラさんの彼は、私の旧友だったからです。
旧友とは大げさですね。タカシさんは高校の同級生です。
実を言うと、タカシさんは私の親友の憧れの人でした。
そのくらい、タカシさんはおモテになる方だったから、美人のアイラさんとはお似合いのカップルだって、すごく納得しました。
かつてタカシさんに憧れていた私の親友も、きっと納得するんじゃないかって…。

……………………………………………………………アイラちゃん。
私、やっぱりあなたに言っておきたい。
あなたのこと、本当に友達だと思ってるから、隠しておけないよ。
タカシさんに憧れていた親友の名前はサチ。
タカシさんとはいい関係だった。
恋人同士だと言える関係だったんじゃないかな。
それがある日、タカシさんの裏切りを知って、傷ついていなくなった。
姿を消したの。
サチの家族も、生きていること以外はわからないし、言えないって。
酷い話よ…。

アイラちゃんに言おうと思ってたけど、ずっと言えなかった…。
ごめんね。
だけど、まだ間に合うよね?
タカシとは式が終わったら籍を入れるんだよね?
ねえ、アイラちゃん。
タカシはやめた方がいい。
絶対…絶対、あなたが不幸になるから……!



・・・


目、覚めた?
ふふ…
ねぇ、ゆうこちゃん。
なんであんなことしたの?
わざわざ私達のパーティーで言う事だったのかな。
よっぽど、サチって子に同情してるのね…。ゆうこちゃん、好き勝手言って倒れちゃうんだもの、びっくりしたぁ。
優しいんだね。

ゆうこちゃん、私ね、
サチのこと知ってるよ。
サチとタカシが本当に愛し合っていた事も。
運命の二人だもの。
二人は一緒にいなくてはいけないの。
タカシはあの時…
そそのかされたのね。
悪い女。薄汚い女によ。
体でしか男を魅了できないの。
だからすぐに捨てられた。哀れな女。

……そうよね?
哀れな ゆうこちゃん。
ふふ…
サチは全部知ってるよ。知ってたの。
あんたがサチを騙して、裏でタカシを誘っていた事。
知った上で、あんたを咎めず、姿を消した。
サチは生きてる。
私の中で。
そして、生まれ変わったの。
“アイラ”としてね。

タカシはぜーんぶ知ってる。
そして心から私に謝罪して…プロポーズしたの。
私は満足だった。
綺麗に整形して、タカシが私に夢中になっているのがわかった。
だから、わざわざ近づいてきたあんたのこと、何も咎めるつもりはなかったのよ?
タカシに未練タラタラのあんたを、野放しにしていた私達の愛に
ついに気づかなかったのね…

ふふ…
ふふふふ…





[完]


#短編小説
#気づかなかった愛
#青ブラ文学部

山根あきらさんの個人企画に参加させていただきます。
習作のための課題から【#気づかなかった愛】を選んで書いてみました。






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