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ヒア・カムズ・ザ・サン

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完結 【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#1〜29最終話 グレープフルーツムーンの続編なのでよろしければそちらから先にお読みください。
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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#1

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#1

 ロックバー『ドアーズ』

 最寄り駅から徒歩で約5分、その先にはオフィス街もあって、若者よりは会社帰りのロック好きおじさんが集まる、マスター曰く場末のロックバー。店内では洋楽、邦楽、ジャンル、年代問わず、いつでもレコードをかけていて、週末には不定期で弾き語りのライブもしている。
 私がここでアルバイトをするようになってそろそろ2年半だ。
 今日は金曜日なので早い時間から混んでいて今は少し客足が落

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#2

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#2

 その後も何度か阿部さんに連れられて彼はこの店を訪れた。時にはバンドのメンバーも全員一緒に。ライブ後の打ち上げの2次会に利用してもらうこともあった。
 そのうちに、すっかりこの場の空気に慣れた彼は一人でもふらっと飲みに来るようになった。

「理香子さん、ビールおかわり」

 彼はいつもカウンターに座って私か樋口くんかマスター、時には仲良くなった常連さんと話をする。若いのに古い洋楽に詳しくて、50を

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#3

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#3

「おまえさ、まさか本気じゃないだろうな…」

 店を出てすぐ、少し後ろを歩いていた湊がオレにそう言った。

「…何の事?」

 何となく、湊が言いたい事は理解していたがあえて気付いていないフリをする。

「…さっきの、あの店の女の人、…好きなの?」

 やっぱ、そうくるよな。

「理香子さん?あるわけないじゃん、あの人結婚してるのおまえも知ってるだろ」
「…相手がいるってわかってても、おまえは止ま

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#4

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#4

 アルバイトへ行く支度を済ませ、自宅を出る前に下腹部に違和感を感じたのでトイレへ行く。

 …あー、今月も来ちゃったかぁ…。 

 溜め息をつきながらトイレから出ると夫と目が合った。

「どうしたの?」
「あー、うん、…また、駄目だった」
「そっか、まぁ焦らず行こう。もう出られる?」
「…うん」

 バイト先のあの店まで行きは一人で電車に乗って行く事が多いが、今日は出る時間が同じくらいだったので夫

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#5

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#5

 彼のバンドのライブはまだ少し先だった。その間も彼は何度かふらっと現れてはビールを2,3杯飲んで、少しだけ話をして帰って行く。私はライブに行くとも行かないともまだ返事は出来ずにいたけど、彼の方から何か言ってくる事も特に無かったのでそのままにしておいた。

 そんなある日の事、新人バンドのインディーズデビューを前に仕事に忙殺されている阿部さんが久しぶりに一人で訪れた。ちなみに彼らのインディーズデビュ

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#6

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#6

 午前7時過ぎ、駅へ向かう人の流れに逆らって雨上がりの濡れた道を一人歩く。

 まだ寝ているかな、と気を使い静かに昨夜この部屋を出て行く時に渡された合鍵で通いなれた部屋のドアを開け中へ入ると、ここの家主だけが起きていて、他のみんなはそれぞれ床に転がって寝ていた。 

「おかえり」
「…ただいま。ずっと起きてたの?」
「まさか。おまえが出てってしばらくしてオレは寝たよ。で、さっき起きたとこ。こいつら

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#7

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#7

 リナと知り合ったのは大学に入学したその日。
 高校時代の友達の進路はみんなバラバラで、同じ大学に入学した仲良しの子はいなかったため、私は少し緊張気味だった。周囲の様子を窺っていると同じように所在なさ気にしている女の子が目にとまり、背格好も雰囲気も何となく自分に近いものを感じ取って声をかけるならまずあの子だなと思い、私からアプローチをかけてその日からリナと一緒にいるようになった。
 学部もサークル

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#8

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#8

 まさかと思いながらも完全に否定する事も出来なくて、彼が来たらそれとなく聞いてみようと思っていたけれど、阿部さんが訪れた日からライブ当日までの間彼が店に来る事は無かった。
 彼の連絡先も知らないので私はライブに行く行かないの返事すらも出来ていなかった。

 そして、ライブ当日…。

 その日ロックバー『ドアーズ』でも弾き語りのライブが行われていた。樋口くんは今日は友人の結婚式に出席するため休みで、

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#9

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#9

 ライブが終わってしばらく経っても、彼は店に来なかった。忙しいのか、避けられているのかどちらかわからないが、以前なら1ヶ月来なくても特に気になりはしなかったが、今となっては今日も来なかったと毎日のように落胆してしまっている。と同時に抱えてしまった問題の答え合わせを先延ばしに出来ている状況に、少しほっとしてしまう自分もいた。確かめたところで何になるんだろう、自分がスッキリしたいだけで、もし私の予想が

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#10

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#10

「おかえり」 

 夜の10時を過ぎて、やっと帰って来た。

「……ただいま」

 声を掛けた相手はオレを見る事なく返事をしてくる。

「何してたの?」
「……別に何も…」
「何処に行ってたの?オレの事ほったらかして…」
「………何処だっていいだろ、毎回気持ち悪い出迎え方すんな」

 耐えきれなくなった湊が吐き捨てる様に言うと手に持っていたバッグをオレに投げつけてきた。

「危ねぇだろ」
「うるせ

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#11

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#11

「…お邪魔します」

 オレがちゃんと見えているのか?顔色一つ変える事なく当たり前のように理香子さんが湊の部屋の中に入って来る。いや、そもそもなんで湊が理香子さんと一緒にいるんだ?

「すごいビックリしてるみたいなんだけど、私が来る事言ってなかったの?」
「…なんか、もうどう説明したらいいかわかんなくなって、すみません」
「まぁ私は、良いけど…」

 何そのやりとり、まだ昨日の酒が抜けきっていない

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#12

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#12

「リカ、オレと付き合う気になった?」

 …まただ。
 次の授業の教室へ向かう道中、後方からかけられた声の相手はもう振り返らなくてもわかる。

「付き合いませんって、何度言ったらわかってくれるんですか…」

 面倒だが適度に相手をしないと何処までも着いて来るので振り返ってはっきり言う。一緒に教室に向かっていたリナの足も止めさせてしまった。

「今からどっか遊びに行こう、オレの家でもいいけど」
「何

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#13

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#13

 そして翌日の夕方。
 一人暮らしのリナのアパートにお泊まりの荷物を置いてから一緒に『Goldmine』というライブハウスに向かった。
 浅野さんや、浅野さんと仲の良いサークルの一部の人とは以前サッカー部の人にしつこくされていた時に親しくなったけど、サークル全体のこういったイベント事に参加するのは実は初めてで、私は少し緊張していた。そんな私の様子を察してくれているのかリナは自らライブハウスの場所を

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【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#14

【小説】ヒア・カムズ・ザ・サン#14

 その後も、浅野さんは相変わらずだった。大学内で見かける度に声を掛けられる。

「リカ、デートしよー」
「しません」
「じゃサークル入って」
「入りません」

 リナと2人、学食でランチをしている間もお構いなしに絡んでくる。正面に座っているリナはまた私と浅野さんのやりとりを楽しそうに眺めていた。

「だいたい浅野さん彼女いるんでしょ、何で私に絡むんですか…」
「……別れたら付き合ってくれんの?」

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