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#兄妹
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城「第3話 戻らない記憶」
「マキ、何かいい事あったあ?」
店はまだ準備中。派手な同僚とは違い、私はメイクや服を整えるのに倍近い時間がかかる。
鏡に向かい口紅を引く私の顔は、彼女の指摘通り昨日とまったく違っていた。目元に幸せオーラがはっきり出ている。この歳になって初めて彼氏とお付き合いしたような感じだ。
あの後、忍と2回触れるだけのキスをしてから電話番号とLINE、メールアドレスを交換した。
何故か分から
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第5話 忍sideー 事故
俺には、記憶が無い。
自分という存在を確認するものは普通運転免許証と、俺が目を覚ました時に綺麗な顔をぐしゃぐしゃに泣いて病院まで飛んできたガリ勉野郎の雨宮弘樹って野郎だけだ。
どうせなら、目覚めた時に綺麗な女の子に会いたかったけど、そんな夢みたいな事は言っていられない。
そう、俺は一度死んだようなモンだ。
医者の話によると、どうやら俺は家族に勘当されているらしく、この携帯にあった雨
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第8話 絡まない糸
焦げた卵焼きを食べた後にようやくお米が炊き上がる音が聞こえた。
「そう言えば、マキって何の仕事してるんだっけ?」
やはりこの質問が来たかと私は軽く身構えた。決して他意があるわけでは無い。単純に『彼女』から聞いたかも知れないが、今は記憶がないからもう一度聞きたい。そんな所だろう。
「うーん……あまりいい仕事じゃないんだよね。ほら、私って両親亡くなってているからお金貯めるのに必死だったし」
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第9話 弘樹sideー 親友
麻衣ちゃんから連絡が来たのは、最後に店に行ったその2週間後だった。ところが店ではなく、中野にある喫茶店で話がしたいと持ちかけられた。
元々彼女の売上貢献の為にお店に行っていたのだが、何か顧客でも掴んだのだろうか?
それはそれで喜ばしい事なのだが、知らない男が麻衣ちゃんにあれこれするのも気に入らない。これはただのお節介だと思われても仕方ないが、麻衣ちゃんは田畑の大切な妹だ。そして雪の親友でも
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第10話 弘樹sideー 覚悟
麻衣ちゃんはそのまま入院となった。俺は彼女の働くキャバクラの店長さんにどういう体調管理をさせているのかキツく追求した。
予想した通り先方から返ってきた答えはとんでもない物だったが、俺は同行している医者や研修医と違ってそこまであの店に貢献している訳では無い。悔しいけど、結局それ以上何も言えなかった。
あれをブラック企業と訴えるのは簡単なのかも知れないが、あそこで仕事をしている麻衣ちゃんが仕事を
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第13話 忍side ー 困惑
「今回の企画ポシャったんですか?」
『ちょいと上層部で資金のやり取りで問題が出ててね。企画自体は進んでいるんだけど、下請け業者の解雇が正式に決定になったんだ』
最悪だ。今回の仕事は某遊園地の立て直し事業で、3年プランの契約だったはず。しかし大元から具体的な話が俺達下の方に降りて来ないので結局一旦こちら側も撤退、という形になったのだ。
そうなると困るのは上層部ではなく、俺達日雇い労働者だ。上
【創作大賞2024応募作・恋愛小説部門】砂の城 第14話 忍sideー 転職
警備のバイトを増やした事で俺の生活は何とか持ち直した。しかし長年建築関連で世話になっていた勝己さんの訃報を聞いたのはつい昨日の事だ。
死因は心筋梗塞。ヘビースモーカーだった勝己さんは相当肺もやられていたらしい。
心臓の手術もしているが、医者と嫁に止められてもタバコは死ぬまで止められないと言い張っていた。俺も他人事とは言えない。
麻衣にもタバコはやめろと言われていたが、口寂しくてどうしても