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読書まとめ『ブルシット・ジョブ』→労使の相互依存をやわらげよう

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』デヴィッド・グレーバー
『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』酒井 隆史


一言でいうと

労使の相互依存をやわらげよう


概要

しょうもない仕事が多すぎる、と日々思っていたところで本書を見つけ、読んでみました。

原著の翻訳版『ブルシット・ジョブ』を読むも、大ボリューム(ページの余白少なすぎない?)かつマルクスとかフロムとかの含蓄が深すぎて消化不良でした。訳者がソフトに解説した新書『ブルシット・ジョブの謎』があったので、合わせて読んでようやく半分くらい理解できたかな、という感じです。新書版で概要をつかんでから原著の翻訳版を読む方が、理解はスムーズだと思われます。


本書のテーマである「ブルシット・ジョブ」は、下記のように定義されています。

ブルシット・ジョブとは、被雇用者本人でさえ、その存在を正当化しがたいほど、完璧に無意味で、不必要で、有害でもある有償の雇用の形態である。とはいえ、その雇用条件の一環として、本人は、そうではないと取り繕わなければならないように感じている。

一例として、高級マンションのドアマンが挙げられています。ボタンを押してドアを開けることは住民自身でも特に労なくできるので、ドアマンの存在は完璧に無意味です。でもドアマン本人がそんな顔をして仕事をするわけにはいかないので、真剣に仕事に取り組んでいるよう取り繕っている、そんな状況です。


本書を読むにあたって私が考えていたことは、「効率化できる仕事が、なぜ効率化されずに放置されているのか」ということです。今の自分の仕事のひとつが効率化支援であり、今後さらにその色合いが強くなっていく予定なので。

本書を読んで、上記の疑問を解消するために思いついたキーワードが「労使の相互依存」です。労働者は企業に、企業は労働者に依存しすぎている、相互に自立して依存関係をやわらげていく必要があると考えました。以下、3点で解説します。


① 効率化は労働者の仕事を奪う

政府は国民に、企業は従業員に、雇用を創出して割り振る必要があります。非効率・無意味な仕事でも、雇用を創出している点では有用です。生産性を重視する資本主義社会でもそういった非効率・無意味な仕事が淘汰されない理由は、雇用を維持するためです。本書の表現を借りると、「水漏れしているパイプを扱うことでカネを得ているわけだ。で、パイプを修理する?」というわけです。

私はここに企業と従業員の相互依存関係を見出しました。

企業は従業員が多いほど企業規模をアピールでき、管理職は部下(ブルシットな取り巻きも含む)の多さで自分を権威づけることができます。仕事に人をアサインするのがベストですが、アサインする仕事がなければでっちあげるしかありません。

一方で従業員は、企業から与えられる仕事がたとえブルシット・ジョブであっても、とりあえず報酬は得られます。その仕事・企業を見限って他の仕事が見つかるかは明らかではなく、行動自体にもエネルギーがいります。


② 労働が苦痛でなければ自尊心が失われる

労働者がブルシット・ジョブとわかっていながらそれを続ける心理的要因のひとつに、キリスト教的な労働観が挙げられています。キリスト教の世界観において、仕事は罰であり、自ら進んで行う苦行と位置付けられています。ゆえに、仕事が苦痛であればあるほど、それに従事することで自尊心が生まれ、人間を完成させるものとして捉えられます。そんなのは不幸依存だとニーチェ先生に切られそう。

効率化して作り出した空白の時間をどうするか、そこまで考えておく必要があると感じました。何もしないのは怠惰だと捉えられて自尊心を損ねる危険があります。「テクノロジーの進歩により、20世紀末には週15時間労働になる」とケインズが予言したことは有名ですが、放っておくとブルシット・ジョブが作り出されてスキマを埋めてくるでしょう。
※『ブルシット・ジョブの謎』では、人間はずっと仕事に囚われてきたから、週15時間くらい仕事をさせないとノイローゼになるだろう、と解釈されていたのが印象的です。


③ 労働者を安価に支配できる閉鎖的環境

仕事が機械化されないのは、それを低コストでやる労働者がいるから、と『ブルシット・ジョブの謎』で説かれています。人件費の高騰が叫ばれて久しいですが、効率的なシステムを開発/導入するよりは人を雇って尻ぬぐいをさせる方がはるかに簡単で安価です。このジレンマをローコード・ノーコード等を駆使してぶち破るのが、今後の私の仕事人としての課題です。

特に日本において顕著といわれるのが、人材の流動性の低さです。転職に対する心理的ハードルの高さと言ってもいいのかもしれません。流動性が低いので、企業側からすると、労働者との上下関係・支配関係を作りやすい状況です。ハラスメントにおびえて縮こまるよりは、労働者は「辞めてやる」・企業は「辞めちまえ」が簡単に言い合えるようにならないと、労働者が低賃金で使い倒される世界は変わらないのではと考えました。


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いつも図書館で本を借りているので、たまには本屋で新刊を買ってインプット・アウトプットします。