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#07 涙の明太子スパゲッティ

わたしの母は、子供のわたしにも容赦無く
大人の味付けで料理を出す人だった。
例えば、スパイシーなカレーのルゥ。例えばワインで煮込んだハンバーグ。書くときりがないが他にもたくさん。
なにせわたしは「子供用」という味付けに縁のない子供時代だった。

先日InstagramのTLをぼんやり眺めていると、
わたしの思う「丁寧で上質な暮らし代表」みたいな女性実業家の方が
お店で出てくるようなそれはもう完璧なパスタを作られていた。
もはや自炊の域を超え、食材から器までとにかくどこもかしこも
「家のごはん」には見えない。
毎食抜かりない感じなのかしら、すごー。・・・なんて見ていたら
「子供ちゃんには別に△△が入っていないパスタソースで」と
ご丁寧に別の鍋の写真が。・・・・・まじか。
そこでわたしはふと思い出したのだ。

まてよ、わたし子供の頃から大人と全部一緒だったわ。と。

もちろん離乳食とかその付近は子供用だったと思う
(記憶にないけどそうだと信じている)
ただ、最も幼い頃の記憶だと5歳のとき。
神戸に引っ越す前のお家で出てきた明太子スパゲッティの思い出は強烈だ。

たらこじゃない。明太子だ。

恐らくたらこを経験する前に明太子を投下されたように思うのだが。
赤い小さな粒々と、その上に大量の大葉がかぶさっていた。
明らかにわたしの知っている、お肉と甘い玉ねぎの
ミートソーススパゲッティではなかった。
一口食べてうぇぇとなり、ミートソースがいいと母に伝えると
「もう食べなくて良い」と言われ、何も出てこなかった。
弟を妊娠中だった母は怒っていた。

不味かったのではなく、びっくりしたのだと思う。
心細くていつものミートソースと会いたかった。
なのに母は怒るし、わたしは心細いしお腹も空いているし泣く。
そして母はさらに怒る。
「我が儘言わないで食べなさい。お姉ちゃんになるんでしょう?」
これは我が儘なのか。うまく説明できなくて悲しかった。
わたしの記憶では人生で初めて、泣きながら自分の部屋に閉じこもった。
長女が育てる長女への厳しさよ・・・。
御歳5歳。すでに人生の厳しさを味わっている小さなわたし。

その出来事が余程尾を引いていたのか
神戸に引っ越してからも同級生親子とスーパーマーケットで会った時
先方のカゴの中にカレーの王子様とかお姫様が入っているのを見逃さない子供になってしまった。
めちゃくちゃ羨ましかった。
わたしも欲しいと何度も言ったがなぜだか母は絶対に買ってくれなかった。それならと祖父母の家に泊まる時、ここぞとばかりにおねだりし、
わたしはようやくカレーの王子様バージンを捨てた。

「これはわたしだけのカレー」

味は全く覚えていないが、とんでもなく満足した。
でも、それだけだった。
きっと、「わたし専用」が欲しかったのだ。あなただけの、特別。
ちょうどその頃弟が生まれ、わたしは自分の存在が世界から急に薄くなったように感じていた。
それも手伝っての事だろう。
わたしはわたしだけ特別だと言われたかったし
自分でもそう思いたかった。
お姉ちゃんなら食べれると言われた明太子スパゲッティ、
弟以外わたしもみんなと同じスパイシーなカレー。
承認欲求満たされます、みたいなお菓子でも売っていればよかったのに。

でもお陰で食べたいものを自分で作れるような子供になったし、
お酒に合う料理とはなんぞやを早々に理解して大人と食事を楽しめる学生時代だった。
そういえばカレーの王子様って今もあるのかな・・・
今度スーパーで見てみよう。

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