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高校時代に好きだった物語と再会した(沖田円:『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』)

今回の本は、沖田えんさんの『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』という作品です。

この作品は高校生の時に文庫版をお年玉で買い、何度も読んでは感動した私にとってとても大切な物語です。少し前に単行本で新装版が出たとのことだったので、久々に物語の登場人物たちに会いたくなり、先日購入して読んでみました。

思い出の作品というのもあり、今回の読書感想文はいつもより少し長めです。今の自分が読んだ感想だけでなく、高校生の頃に作品に持っていた印象の話とか青春小説・泣ける本への私なりの思いも詰めたので、ぜひ最後まで読んでみてください。

あらすじ

両親の不仲に悩む高1女子のセイは、自分の居場所がどこにもないように感じていて、何よりそんな自分が嫌だった。ある日、セイは学校の帰り道に訪れた公園で、カメラを構えた少年ハナに写真を撮られる。優しく不思議な雰囲気のハナにどこか惹かれ、以来セイは毎日のように会いに行くが、実は彼の記憶が一日しかもたないことを知って――。たった一日の記憶の中で、“今”をめいっぱい生きるハナと関わるうちに、セイの世界は変わっていく。「ここにいていいんだよ。セイちゃん」優しさに満ち溢れた感動の物語!

出版社サイトより

感想

本を開けばあの時の感動が蘇る

読み始めてすぐに高校生の私が頭に思い浮かべていたセイとハナの声が聞こえてきて、なんだか昔の友達に再会した気持ちになりました。

さらさらと読める文章、セイとハナの温かなやりとり、印象的なシーンの数々…約5年ぶりに読んだ今作は、何度も見ている好きな映画がテレビで放送されている感覚に近かったです。

今作は高校生だった私に、身近な人との「思い出」や「記憶」というものがどれくらい尊いのかを教えてくれました。ハナは記憶に関わる病を抱えていて、物語の終盤では彼の生死を左右する事態にまで発展します。

こういった恋愛小説の相手の子は最終的には死んでしまうというイメージが昔はあったのですが、今作では「死」以上に残酷に感じた恋の結末が描かれ、驚愕したことを今でも覚えています。タイトルの意味にもつながるラストシーンは、読むたびに涙しました。

今回もラストのセイとハナの「出会い」のシーンにやっぱり感動しましたが、それよりも物語の佳境で記憶が悪化するハナに、セイが自分との思い出を忘れないよう「好きな子の名前は倉沢セイと彼に伝えるシーンがあるのですが、物語のカギともなっていくこの言葉を目にした時点でもう泣けてきました。

この涙には、その後に待ち受ける最高に美しいシーンへの期待と2人が辿る恋の結末への切なさだけでなく、作品全体に対する懐かしさとか数年ぶりに物語に再会できたことへの嬉しさも含まれていたように感じます。高校生の頃の私には味わえない感情に興奮しました。

今の私だからこその気付き

以前はセイとハナの恋愛にばかり注目して読んでいたけど、今作は同時にセイが日々の苦しみを乗り越えていく物語でもありました。

物語の前半では、記憶が1日しかもたないハナをセイが羨ましがる場面が何度かあります。状況は彼女とは異なりますが、私も日々の嫌なことを忘れてしまいたいと思うことがよくあります。高校時代に比べると毎日も辛いことの方が増えてきた私としては、セイの気持ちは非常に共感できました。

一方でハナは、身近な人間関係を大事にしていたり、カメラで日常の美しい瞬間を撮ったりと、記憶がもたなくなったからこそ、目の前にあるすべてのものへの「ありがたみ」を深く感じるようになりました。そしてハナの優しい心は、次第にセイが苦手としていた両親と向き合う勇気をくれました。

喧嘩ばかりの両親から逃げるのではなく、自分の素直な言葉で向き合う。セイの正直な言葉は、家族との絆を取り戻すことに成功しました。ハナに出会えてなければ、セイは清々しい日常を取り戻せてなかったと思います。

逃げることも充分な選択肢だと思うけど、まずは言葉で向き合わなければ相手の本心はわからないことがよく伝わるセイと家族のシーンでした。

今作で知った「本を読んで泣く」こと

私はこれまでたくさんの青春小説を読んできました。出会いや恋を通じて、毎日を生きていくために大切なことを教えてくれるこのジャンルが私は今でも好きで読んでいます。

『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』は私にとって、青春小説というジャンルが大好きになったきっかけの1冊です。高校生の頃にジャケ買いし、感動した経験がなければ、きっとここまで青春小説が好きではなかったと思います。

また今作を読むまで私は「本を読んで泣く」というのは、作中で描かれる別れが寂しくて読み手は涙するものだと思っていました。当時は楽しい気持ちになりたくて読書をしていたところがあったので、「泣ける」というキャッチコピーには正直「くだらない」と感じていたところもありました。

しかし読書での涙は、作中で描かれる別れが寂しいからじゃなくて、作品にこもった温かさや登場人物たちの優しさが生んでいると今作を読んで知りました。

本にもミステリーとかファンタジーとか様々なジャンルがありますが、私が1番好きなのは今作のような「温かい気持ちになれる感動」が味わえる物語なのだと思います。

私はこれからも「温かい気持ちになれる感動」を味わうためにたくさんの本を読んでいきます。そして時々今作を読み返して、セイとハナの美しい「思い出」に触れては、切ない恋の結末にまた涙したいです。

本を開けば、いつまでもハナの「セイちゃん」という主人公を呼ぶ優しい声が聞こえてきます。


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