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第138回:誰かといることで得られる「幸せ」を感じる物語(みお:彼女は食べて除霊する)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、みおさんのライト文芸作品『彼女は食べて除霊する』(ことのは文庫)です。

私はひとりでいることを好む場面が多いです。でも食事など誰かといることで、初めて「楽しい」という気持ちが生まれる場面も日常の中では多いと思います。今作では「食」を通した「コミュニケーション」を描いたシーンが多くあります。寂しさを感じている時に読むとより心に刺さる作品だと思います。(魅力的な料理もいっぱい出てきます!)

あらすじ

日本を代表する古都の外れにある小さな町——波岸町。
独特な方法を使って除霊する小百合は、ある寂しさを抱えながらその町で相棒犬・ケンタとともに彷徨う魂を導いていた。
そんな小百合の元へ同業の除霊師からある依頼がもたらされる。
簡単そうに見えたその除霊は、あることをきっかけに大きな事件へと発展するが――!?
心がすっと軽くなる!おいしさと切なさに溢れるネオ・オカルトロマン!

帯より

感想

「幽霊を体に憑依させる?相手の食べたいものを食べて除霊する?‥‥‥そんな除霊方法、聞いたこともない!」

p35

似たような目的のお話はこれまでにもいくつか読んだことがありますが、今作は上記のセリフのような形で除霊を行うというストーリーなので、まず設定で個性がよく出ていた作品だと思いました。

過去と現在、あるいは生と死が混じっているような雰囲気が漂う波岸町で除霊師として活躍する主人公の小百合。幽霊たちの思い出の料理を通して除霊を行う彼女の活躍からは、誰かと一緒にご飯を食べることの楽しさを存分に感じることができました。

前半は心温まる物語が展開される今作ですが、後半は雰囲気が一気に変わり、小百合の大切な人を巡る物語と彼女が過去を乗り越えて成長していく様子が描かれます。後半、予想以上にシリアスです。

小百合には誠一郎さんという除霊師の師匠であり、家族のような存在でもある大好きな人がいます。だけど彼は数か月前に行方不明になったままで、小百合は今でも彼と再会できることを願っています。

物語の中盤にて誠一郎さんの信じがたい事実が明かされます。それは除霊に失敗し、命を落としていたことでした。
誠一郎さんが行方不明になった背景を知った小百合は、一気にすべてを失ってしまったような絶望に襲われます。

この時の小百合は、きっと今までの人生の中で1番辛い場所にいたと思います。でも何か行動を起こして、現実を受け入れないと前に進むことはできない。希望を取り戻したいと願った小百合は、誠一郎さんが除霊できなかったバスの幽霊に立ち向かうことを決意します。

かつて助けた幽霊たちの思いと、誠一郎さんの言葉で絶望に立ち向かう小百合の姿に私はとても感動しました。彼女はひとりじゃない。視えなくても味方となってくれる存在がそばにいる。
何気ない日常の中でも、生きているのが辛いと感じた時も、寄り添ってくれる誰かがいてくれるととても嬉しい!そんな幸せを感じられる物語でした。私も人との縁はとても大切にしていきたいです。

誠一郎さんの死は、もうすぐ成人する小百合にとって必要な「試練」であったと私は思いました。バスの幽霊を救えたこと、「幽霊」としてだけど誠一郎さんに再会できたこと。これらは「除霊師」としても、「大人の女性」としても彼女を強く成長させた出来事だったのではないのでしょうか。

今作は1冊で物語は完結していましたが、個人的にはもう少し心温まる「食」と「思い出」の物語が読んでみたいと思いました。今作での成長を経て、小百合が今後どのような人物として描かれていくのか見てみたいです。
また小百合のパートナーであるケンタのキャラクターも好きだったので、彼をもう少し掘り下げたエピソードとかも面白そうですね。

私は波岸町という懐かしさが残ったこの町の雰囲気が気に入りました。
いつか読み返して、温かみのある町の雰囲気と優しい登場人物たちに再び会いに行きたいです。

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