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先生と僕

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愉快な先生たちと、ロマンチストな僕のお話。ほのぼの学園コメディ。
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記事一覧

先生と僕(15)「張り込み先生」

先生と僕(15)「張り込み先生」

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圧倒的な正義を振りかざし、逃げ場所さえも奪う太陽を雲が覆う冬。降る雪が太陽で火傷を負った者を癒してくれる。やがてまた、春が訪れる。春の光は真綿のように優しいはずなのに、槍のようだと恐れる者もいる。だから彼らは祈るのだ。どうか雪に変えてくれ。春と共に消え去る雪に。

今日は水曜日だ。購買では水曜日限定のミルクパンが販売される。濃厚なクリームがたっぷり入ったミルクパンが僕は大好きだ。

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先生と僕(14)「ピチピチ先生」

先生と僕(14)「ピチピチ先生」

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樹の枝に小鳥が音符のように並んでいた。僕が窓を開けた瞬間、小鳥たちは飛び立ち、揺れた枝から雪の花弁が舞う。僕の後ろ手に隠し持ったずるさに気付かれたのかもしれない。雪の降った後の世界はあまりにも浄化されているので、隠し事はすぐに見透かされてしまうのだろう。

 休み時間、僕は廊下の窓を開け、中庭を眺めていた。
 雪の降り積もった中庭は、眩しく輝いている。春になれば、美しく咲き誇る桜の樹

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先生と僕(13)「ポジティブ先生」

先生と僕(13)「ポジティブ先生」

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 冬のあたたかいものは特別だ。お風呂、ストーブ、おでん、シチュー、手袋、帽子、マフラー。それらのあたたかいものに触れた瞬間、沸き上がる幸せを集められやしないだろうか。出来るのなら、僕はジャムの空き瓶に集めておきたい。そして、寂しくなったら、蓋を開けて、陽だまりでこんがり焼いたトーストの上にのせるのだ。

 今日の体育は校庭で雪上サッカーである。二組と合同で行い、チームに分かれて試合

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先生と僕(12)「ガッツ先生」

先生と僕(12)「ガッツ先生」

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 陽の光で消えた雪は、月明かりで氷の粒となった。
 今朝の雪道がザラメのような音がしたのはそのせいだろう。
 太陽の眩しさに耐えられず、影で流した涙は、月明かりで氷となるだろうか。誰にも届かなかった声も、ザラメの足音のように、誰かに聞いてもらえるだろうか。
 僕は、雑音に惑わされず、真の声だけ聞ける耳が欲しい。

 五時間目は物理だ。授業開始のチャイムが鳴り、教室へ入って来たのは石

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先生と僕(11)「ハードボイルド先生」

先生と僕(11)「ハードボイルド先生」

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僕は寒くても毎朝窓を開ける。
降り積もった雪に反射した光は、圧倒的な波となって窓から流れ込む。僕は波に飲まれて、漂白されていく。
寒いと窓を閉めっぱなしにしていたら、おそらく窓は凍り付き、開かなくなってしまうだろう。春が訪れるまで、光の差し込まない部屋で膝を抱えるなんてごめんだ。
僕はたとえ冬でも光の中で生きる術を知っている。

 四時間目は地理だ。授業開始のチャイムが鳴ると同時に、

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先生と僕(10)「ぐだぐだ先生」

先生と僕(10)「ぐだぐだ先生」

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音が消える。雪が降る瞬間はいつもそう。雪達にはきっと、世界の喧騒を飲みこむ使命があるのだ。
申し訳なさげに、まつ毛に乗った雪。瞬きをすると頬に落ちる。わずかな冷たさを残しながら、涙のようにたちまち消えてしまう。
僕はこうして、儚さという言葉を知った。

 三時間目は数学だ。授業開始のチャイムが鳴り、教室へ入って来たのは是枝憲一先生である。着崩したスーツ、皺だらけのワイシャツ、ネクタイは

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先生と僕(9)「眼力先生」

先生と僕(9)「眼力先生」

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 教室は小さな世界だ。しかし僕達にとっては、偶然も運命と錯覚するほどの世界でもあった。錯覚は僕達に光や熱を与えるものの、無常に奪いもする。
 小さな世界での正義なんて信じてはならない。だから、僕は太陽にくれてやった。
 月明かりに輝く雪の中でなら、闇夜でも迷わない。真実が雪のように儚いのなら、熱くて眩しすぎる正義は不要だ。

 二時間目は現国だ。授業開始のチャイムが鳴り、教室へ入って

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先生と僕(8)「トランプ先生」

先生と僕(8)「トランプ先生」

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昨日降った雪は校庭の隅に集められていた。すでに泥に汚れている。純白で美しかった雪。地上に降り立った瞬間から汚れていく。光を失い誰にも見向きもされない雪の塊。もし、秘密を持っているのなら、いい隠し場所になるだろう。いずれ春が訪れたら、秘密と共に土に還るだろうから。

 一時間目は英語だ。授業開始のチャイムが鳴り、教室へ入って来たのは、英語教師のジョニー日比谷先生である。堀の深い顔立ちをし

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先生と僕(7)「トレンチ先生」

先生と僕(7)「トレンチ先生」

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今朝、校庭の冬木立に雪が降り積もっていた。枝に雪の花が咲いたように見えた。
午後になると、陽の光のあたたかさで、雪の花が消えていく。初めてあたたかさを知ったというのに、この世界から消えなければならないのである。花よりも儚い雪の花。枝から雪解け水が涙のように滴り落ちていた。

 今日は水曜日だ。購買では水曜日限定のミルクパンが販売される。濃厚なクリームがたっぷり入ったミルクパンが僕は好き

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先生と僕(6)「タイムスリップ先生」

先生と僕(6)「タイムスリップ先生」

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雪が降り積もったグラウンドを見ると、子供の頃を思い出す。
まだ足跡のない雪のグラウンドに、友人とどちらが多く足跡をつけられるか競った。雪は膝まで積もっていたので足を取られ何度も転んだ。雪だらけになって走り回った僕達。あの時は何も怖くなかった。例え迷子になっても、足跡を辿って見つけられたから。

 今日の体育の授業は、雪の積もったグラウンドでサッカーをすることになった。通常のサッカーより

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先生と僕(5)「どすこい先生」

先生と僕(5)「どすこい先生」

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 部屋の窓が凍っていた。公園の池も凍っていた。学校までの雪道も凍っていた。今朝は世界中が凍り付いている。
 僕もぼんやり立ち尽くしていたら、アイスバーみたいに凍り付くだろうか。
 凍った水たまりで、木の葉が冷凍保存されていた。ブーツのつま先で葉を閉じ込めていた氷を割る。少しだけ世界を救った。

 学校へと続く雪道、僕の前方で、男子学生が足を滑らせて転んだ。それと同時に、傍を通過してい

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先生と僕(4)「団長先生」

先生と僕(4)「団長先生」

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雪道に二本のタイヤの跡がある。街に注がれた夕陽がタイヤの跡に流れ込み、小さな二本の川が生まれた。僕はブーツの底を夕陽の流れる川に浸す。重かった足取りが少しだけ軽くなったような気がした。
 どうして、あの時、もう少し手を伸ばせなかったのだろう。
 ずっと、ずっと待ち続けていた。ようやく出会えたというのに、伸ばした手は空しく宙を切った。どうして、いつも僕は手に入れることが出来ないんだ。

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先生と僕(3)「ナイーブ先生」

先生と僕(3)「ナイーブ先生」

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鼠色の分厚い雲が街を覆い、光を遮っていた。木々たちは葉を失い、冷たい風に震えながらも、骸骨のような枝を天に伸ばしていた。色を失った冬の世界では、光だけが希望だった。たとえわずかな光だったとしても、木々は追い求めた。やがて春が訪れ花を咲かせられると知っているから。

 次の授業は世界史だ。先生が急病でしばらくお休みすることになり、今日は代理の先生が来ることになっている。
だが、授業開始の

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先生と僕(2)「サイエンス先生」

先生と僕(2)「サイエンス先生」

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 雪は純白であるがゆえに、様々な色に染まりやすい。朝陽や夕陽、月明かり、喜びや悲しみ、苦しみでさえ、雪の色を変える。そして、光を放つ。僕らが闇夜でも迷わぬよう、躓かぬように足元を照らしてくれる。凍てつく冬が終われば雪解け水となり、草花を芽吹かせ、僕たちに春を与えてくれる。

 次の授業は科学だ。先生が急病でしばらくお休みすることになり、今日は代理の先生が来ることになっている。
 教室

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