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先生と僕(11)「ハードボイルド先生」

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僕は寒くても毎朝窓を開ける。
降り積もった雪に反射した光は、圧倒的な波となって窓から流れ込む。僕は波に飲まれて、漂白されていく。
寒いと窓を閉めっぱなしにしていたら、おそらく窓は凍り付き、開かなくなってしまうだろう。春が訪れるまで、光の差し込まない部屋で膝を抱えるなんてごめんだ。
僕はたとえ冬でも光の中で生きる術を知っている。

 四時間目は地理だ。授業開始のチャイムが鳴ると同時に、教室のドアを蹴り破って入って来たのは、難波丈一郎先生である。大きなサングラスと太いもみあげと濃い髭が、彼のチャームポイント。いつも白いバスローブを羽織っている。
 先生は前転を三回ほどしながら、教壇の影に身を隠した。
「ここまで俺を追い詰めるとは、大した度胸じゃねーか」
 教壇の影から、先生の野太い声がする。
「しかし、俺も教師のはしくれ、生徒を巻き込むわけにはいかねぇってもんよ」
 何かを決断したかのように、先生は姿を隠していた教壇から立ち上がった。そして、窓に向かって突進をする。
「うおおおおお」
 窓ガラスを破った先生は外へ飛び出した。宙を舞う先生。はためくバスローブ。雪のように白いバスローブに陽の光が反射し辺りを照らした。
驚いた僕達は、教室の窓を開けて外の様子を伺う。教室が二階で、雪が降り積もったことが幸いしたのだろう。先生は雪上にきれいに着地をしており、すくりと立ち上がった。どうやらケガもないようだ。
「巻き込んでしまって、すまねぇな。あばよ!」
 先生はそう言い残して、全速力で駆けて行った。

「さっむ、窓閉めようぜ」
 純也君が教室の窓を閉めて回った。しかし、先生が破ってしまった窓からは、冷たい風が吹きこんだままである。
 僕は応急処置として段ボールをガムテープで張り付けることにする。一人で作業をしていると、純也君が手伝ってくれた。
 僕が段ボールを押さえ、純也君がガムテープで張り付け、寒い風はなんとか遮ることが出来た。
「手伝ってくれてありがとう」
 僕は純也君に礼を言う。
「二人でやった方が効率いいだろ」
 ぶっきらぼうに答える純也君の髪には、小さなガラスの破片がのっていた。まるで雪の結晶のように輝いている。僕は思わず、彼の髪に触れてしまう。
「ごめんね、あまりにもきれいだったから」

To be continued.

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