先生と僕(6)「タイムスリップ先生」
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雪が降り積もったグラウンドを見ると、子供の頃を思い出す。
まだ足跡のない雪のグラウンドに、友人とどちらが多く足跡をつけられるか競った。雪は膝まで積もっていたので足を取られ何度も転んだ。雪だらけになって走り回った僕達。あの時は何も怖くなかった。例え迷子になっても、足跡を辿って見つけられたから。
今日の体育の授業は、雪の積もったグラウンドでサッカーをすることになった。通常のサッカーよりも、雪上は足を取られて動きづらい。しかし、子供の頃、雪の上で駆け回っていた感覚を思い出し、僕らは次第に笑顔になり、夢中でボールを追いかけた。
ゴール近くにいた僕にボールが回ってくる。周囲に相手チームはいない。今なら行けるかもしれない。僕はゴールに向かって思いっきりボールを蹴った。
「うおう!」
ボールを止めたのはキーパーではない。
スーツ姿で髪型はオールバック。虹色のサングラスをかけた男だった。彼がボールを両手で受け止めたのである。
男はボールを両手で抱きしめながら
「私は十年後の未来からやって来た体育教師、八重樫悟だ!」
と叫んだ。
「え、悟?」
僕が小学生の頃、仲の良かった友人と同じ名前だ。雪の降り積もった公園で一緒に駆け回っていたっけ。小学校卒業と同時に遠くの街へ引っ越してしまったのだが。
「さぁ!どんどん来い!」
男はボールを放り投げる。それを受け取った僕は、もう一度、ボールを蹴った。
「うおう!」
男は顔面でボールを受け止めた。衝撃で虹色のサングラスが空高く舞う。そして、男の姿は消えてしまった。
僕は、消えた男が残して行った虹色のサングラスを拾った。一瞬見えた男の顔は、友人とよく似ていた気がする。
「そのサングラスどうしたの?」
教室にサングラスを持ち帰った僕に、椿ちゃんが訊ねた。
「落とし物なんだ」
もし、悟に会うことがあったら、このサングラスを渡そうか。今の時代では、恥ずかしいデザインだけど、十年後には流行るかもしれない。
「ちょっと触ってみていい?」
現代にはそぐわないサングラスに椿ちゃんが興味を持ったらしい。
「いいよ」
僕はサングラスを差し出す。受け取ろうとした椿ちゃんの指が僕の指に触れた。椿ちゃんの指先は冷たい。そして、ネイルを塗っていないのに、爪が輝いて見えた。虹色のサングラスが椿ちゃんの爪先に光を集めていたからだ。僕は思わず、椿ちゃんの指に触れてしまう。
「ごめんね、あまりにもきれいだったから」
To be continued.
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