椎田幸希

あああ

椎田幸希

あああ

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うるさすぎる静寂に

最終列車が行ってしまった。 朝には列車が動き出し僕を迎えに来るだろうがこの駅は孤独でしかも寒かった。 体の奥底から凍えるようでそして一度冷えてしまえばもう元に戻ることはない。 悪い寒さだ。 暗くどろどろとした寒さ。 そんな夜を過ごさなければならない。 途方もなく長い夜になることは経験上分かっていた。 駅舎に置かれた時計は乾いた音を響かせている。 それ以外の音はない。 僕が試しに控えめに普段なら聞こえるか聞こえないかわからない位の大きさで壁をこつんと叩いてみた

    • どこかの一人にすぎない、今も、これからも、

      世間一般に大人と呼ばれる人たちはどうやって生きているのか。 僕はひたすらに考えた。 こんな気持ちは生まれたその瞬間に捨てているのかそれとも生きていく過程でもっと大きな漠然とした気持ちとかで覆い隠してしまったのかそれともそれとも。僕にはわからない。 今この瞬間でも僕の想い人は僕の知らない人と楽しく話してるかもしれないしなにか美味しいものでも食べているかもしれない。 隣の家の人は眠りにつけず布団の中で焦っているかもしれない。 僕の友人も夜更かしをして映画を観ているかもしれない。

      • 結末に救いはあるのか

        深夜は嫌いだ。憂鬱な気持ちが無限に込み上げてくる。 どんな事を考えていたって侵食してくる。 そうしたら僕は外にでて煙草を吸う。 気持ちを落ち着けるために。 事態が改善するわけではない。 その一瞬の安らぎに僕は依存している。 この瞬間さえなければ僕は煙草なんて吸わないだろう。 ある友人からは中毒者と言われるがそういう意味では中毒ではある。 煙草と過ごす五分程の時間は無限の時間の流れに取り残されている感覚に陥るが昼間に比べれば何てことはない。 日が登ってから落ちるまでの時間僕は憂

        • 行く先は未定

          僕たちは煙草を吸い終わると車に飛び乗りエンジンをかけ走り出した。 車を停めていた駅前ではサラリーマンや学生が帰路についていた。 うつむき加減で歩く人や友達とおしゃべりをしながら歩く人。 そんな駅前を金の無い僕らは安いレンタカーで離れていく。 時間は午後七時。 冬の寒さと乾いた空気で月がよく見える日だった。 友人の一人が突然にドライブに行こうと誘ってきたのが午後五時。 それから何人かに声をかけ僕を含め四人が集まった。 平日の夜によくもまぁ集まれたものだ。 僕としては誰も集まらな

        うるさすぎる静寂に

          明日もそのまた明日も宇宙で一番孤独

          僕はひたすらに考える。この命が尽きることを。深夜の急行列車に乗れば僕を終わりに導いてくれると思った。僕の残りの命はもっと有意義に使える人に譲りたいとも。けれど僕の命がその時までという運命なのであれば運命なんてクソくらえだ。声を大にして天に向かって言ってやろうクソくらえと。けれどそんな勇気もない。何もできやしない。独り部屋の片隅で思うだけだ。デジタル時計の明かりが暗闇にぼうっと溶け込む深夜では時間の流れでさえもぼんやりとしてしまう。宇宙で一番すごい科学者を連れてきてこの時間の流

          明日もそのまた明日も宇宙で一番孤独

          月が溶けきる前に

          星が綺麗な夜僕は一人車に乗り込み少し離れた海まで走った。走っている最中僕は車内の暗い空気を入れ替える為に窓を開けた。 窓の隙間からはすぐに手先の感覚がなくなってしまう程の冷たい風が流れ込んできた。 僕はすぐに窓を閉めたくなったが周りに車もおらず心地よい空気だったからしばらく閉めずに走った。信号待ちの間で煙草に火をつけ 冷たい空気と共に深く深く煙を吸い込む。 風が入ってくるせいで煙草はすぐに灰に変わってしまった。対向車線を流れるトラックやタクシーはきっと人が集まる場所へと向かっ

          月が溶けきる前に

          長い長い夜に始まった冬の終わり

          その次の日は年末の深夜にしては珍しく寒さがなく過ごしやすかった。風は吹いていたがどこか暖かさを含んでいた。 そんな夜に僕は感傷的になり独り公園のベンチに腰を掛け煙草を吸っていた。新しい道が決まってこれから軌道に乗ってくるはずだった。心が軽くなりやっと本当の自分自身と向き合うことができると考えていた。けれど僕の中にいる彼らは最後の足掻きを見せていた。あの日あの夜に彼らを解放したはずなのに。僕はお気に入りの音楽を聴きながら都会の公園のベンチから見える小さい夜空を見上げた。雲が邪魔

          長い長い夜に始まった冬の終わり

          二人だけの小さな小さな世界。

          07:00に鳴るスマートフォンのアラーム。 電子音が二人を眠りからこの世界へと呼び戻す。 寝ぼけたままベッドから冷たく冷えたフローリングへと足をおろす彼女。あくびをしながらそんな彼女を見つめる僕は五分程ぐうたらと布団に潜り込む。 彼女と僕のお気に入りの曲が入ったアルバムがリビングにあるプレーヤーから流れる。僕は半開きの目を擦り寝室のカーテンを開けて十二月のカラリと乾いた朝日を浴びる。 コーヒーと 彼女の優しい声。 足を貫く冬を感じながらリビングへと向かう。 二人には少し大きす

          二人だけの小さな小さな世界。

          報せの夜

          僕が23歳になってから3ヶ月が経ったとき好きな子が結婚した。共通の友人から連絡をもらったとき僕はベランダで煙草を吸っていた。午後10時の出来事だった。 その日は春の終わりにしては少し肌寒く風も流れていた。 僕は友人に一言おめでとうと伝えてくれと返事をしイヤホンを耳に押し当てお気に入りのミックスリストを再生させるとジャケットを羽織り家を飛び出る。下階からのエレベーターを待つ時間はとにかく長く感じた。ぬるりとした機械音がホールを支配しその中をゆっくりと時間がまわる。エレベーターに

          報せの夜

          春と秋だけが味方

          ベランダにでて一息つく。 八月、真夏の深夜。 その暑さで雲も溶け出していて空には数え切れない程の星と一つの月だけがこの暑さから逃れることが出来ていた。 無数の蝉や鈴虫がだけが八月の短い真夏の深夜に生きる。 開けたままの窓から流れ出るエアコンの冷たく乾いた空気。 彼はまた真夏の空気に変わりどこか遠くへ運ばれていく。 僕だけがここでいつまでも一歩を踏み出せずに漂っている。 つけたままの音楽プレイヤーからアルバムの四曲目が流れる。 真夏の深夜でも真冬の深夜でも僕は変わらず煙草の煙を

          春と秋だけが味方

          暗がりには蓋を

          最近ふとした瞬間に井戸の奥底にいることがある。 自ら降りる時は底の淀んだ空気やらは僕の周りを漂っているだけだ。 しかし今は違う。 彼らはどろどろとしていて僕に纏わりついてくる。 どれだけもがいたって離れない。 感情を無にしたところで解放なんてなかった。 ただじっと身体を丸くして座っていることしかできない。 彼らが僕の身体から少しずつ離れていくのを待っているしか。 時間の流れがひたすらにゆっくりに感じる。 誰の手助けを受けれないこの空間で僕は僕が消えてしまうのを待ってしまう。

          暗がりには蓋を

          煙と悩みと風とで

          五月にしては寒い日だった 僕はトレーナーの上にジャケットを羽織り いつも通りジーンズの後ろポケットに煙草とジッポーを 左ポケットには鍵を入れて近所の弁当屋へ出掛けた。 夜八時、空は昨日からの雨の影響で未だに雲が広がってた。  僕は煙草に火をつけ胸一杯に煙を吸った。 冷たく澄んだ空気とジッポーのオイルと煙草のおかげで気持ちが落ち着いてくる。 弁当屋まで僕は軽く歌を口ずさみながら歩いた。 なにも考えたくはなかったしそれにジャケットを羽織ってきたにもかかわらず寒さを感じずにはいられ

          煙と悩みと風とで

          自然で気障でそれでいて懐かしい

          深夜suchmosとking gnuがステレオをジャックした車内彼女と二人初めての深夜ドライブに彼女の期待は膨らみ 緊張でハンドルを握る手に力が入る 他愛もない会話と沈黙が交互に車内を包む 赤信号の度に照らされる彼女の横顔 その度に見惚れてしまう そうやっていくつもの赤信号を過ぎて行き やがて目的地の海にに着く 彼女と砂浜をゆっくり確実に一歩ずつ進みながら 波打ち際まで来る 目の前に広がる海は満月の光を反射して なにかしら魔力を孕んだいつもの黒い海よりも 神秘的でそんな誰にも

          自然で気障でそれでいて懐かしい

          独りの内側

          独りの時間が増えるにつれ僕はあの時の深い暗闇を取り戻しつつあった。それは非常に問題のあることだった。 できれば蓋をして僕が生きているうちは外に湧き出てほしくはなかった。どんな感情も全てネガティブになってしまう。 そうやって生きてきた時僕の目の前には常に死がひろがっていた。少しでも足を踏み外せば彼らが僕を飲み込む。時間を掛けてそこから離れたのにまたその淵が見えてきた。 きっと今度は足を踏み外さなくとも彼らは僕を飲み込むだろう。明らかに心が重かった。僕の心は誰かに鷲掴みにされ引っ

          独りの内側

          夜の先に

          この日最後のバス。 乗客は仕事に疲れたサラリーマン、遊びから帰る学生、 なにをしていたか老人、そして僕と同じく夜行バスに乗るべく ターミナルへと向かう若者が点々と座っていた。 バスが信号で止まる度に小刻みに鳴るエンジン音と嫌な空気に包まれてしまう。そんな中で鳴る小銭に両替する乾いた音はどこかひっそりとした悲しみを帯びていた。

          何処が、中心なの?

          今日は何人の人が夜空を見上げて星を数えただろうか。 もしかしたら僕だけなのかもしれない。だけど 星を数えたところで一つ増えてるとか減ってるとかなんて 気付かないだろう。 星は動いている。いや、正確には地球がまわっているからだ。 でも誰かそんなことを毎日気にする人はよっぽど勉強熱心な人か僕みたいにタバコを吸いながら時間が進むのを忘れた人 だけだろう。

          何処が、中心なの?