行く先は未定

僕たちは煙草を吸い終わると車に飛び乗りエンジンをかけ走り出した。
車を停めていた駅前ではサラリーマンや学生が帰路についていた。
うつむき加減で歩く人や友達とおしゃべりをしながら歩く人。
そんな駅前を金の無い僕らは安いレンタカーで離れていく。
時間は午後七時。
冬の寒さと乾いた空気で月がよく見える日だった。
友人の一人が突然にドライブに行こうと誘ってきたのが午後五時。
それから何人かに声をかけ僕を含め四人が集まった。
平日の夜によくもまぁ集まれたものだ。
僕としては誰も集まらないと踏んでいたのだが都合よく全員夜が空いていたらしい。
行く先も決めていないドライブだ。
運転席に発案者が座りその後ろに僕が座った。
いつもであれば助手席が僕の席だったが今日は後ろの席でのんびりしたいと思ったのだ。
僕は運転が大好きだが今日は運転の番が回ってきそうになったら酒を飲んだとでも言おうと思っている。
とにかくゆっくり行く先も決めないドライブを楽しみたいのだ。
だから最初彼が誘ってきたときは喜びで煙草の煙を肺いっぱいに詰め込みそして吐き出してからすこし間を空けて行こうと返事をした。
普段ならそんな誘いはしてこないやつだったが気まぐれに付き合うのも悪くないしこうやって友人たちと直接あって他愛もない会話をして時間を忘れるのも好きだ。
適当なコンビニエンスストアに車を停めて各々好みの飲み物をかって車に寄りかかったりしゃがんだりして煙草を吸う。
寒い寒いと言いながら腕をさすったりポケットに手を突っ込みながらだったり。
僕は熱いコーヒーとクリーム色のパッケージのピースを吸う。
僕らはだいぶ都会から離れていたので月やら星がよく見えた。
駅前で見た月とこのコンビニエンスストアの月はきっと違うなと思った。
慣れない土地で友人たちと安いおんぼろなレンタカーでくだらない会話で好きな煙草を吸って寒さに体を震わせながらこれも青春であろうと思う。
僕らは二十三歳になったが許されるのであればこれを青春と呼びたい。
そんなことを今目の前にいる友人たちに言ってしまうと車内で笑いのネタにされるのが分かりきっているから僕は顔をあげ月に向かってそんな考えを煙草の煙に乗せて吐き出した。
そして僕たちはまた車に飛び乗り走り出した。
次停まる場所の月はきっと駅前ともコンビニエンスストアともまた違うものだろう。
それとも同じかもしれない。
けれどそれでいい長い夜が始まったばかりの僕にとっては残りの煙草の方が気になってしまう。

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