アルセーヌ・ルパン『813』-真犯人とルパンの精神性がクローズアップされる最終回!怪盗としてではなく1人の男性としての心情に注目-
今回の記事で、「813」は最終回となります。
ルブラン氏の作品の中でも、「虎の牙」と争う程の長編推理小説なので、「813」の記事は、必然的に長くなってしまいました・・・。
でも、今回も行ってみたい場所がいくつか出てくる(しかもフランスではない!)ので、将来、聖地巡礼出来ればいいなぁと思っています。
では、早速皆さんにシェアしていきたいと思います!
ルパンは手下に、パリの刑務所にいる死刑囚(レオン・マシエのこと)の近況を知らせるように言う。
そして、ルパンは自分の部屋に何者かが忍び込んだ形跡を発見。
偽の電報を打って、犯人を今夜おびき寄せることに。
ルパンはその夜、眠らずに自分の部屋で身を潜める。
暗闇で誰かが部屋に入ってきて、短剣を振りかざそうとしたとき、ルパンがとびかかり、闘いとなる。
ルパンは相手の顔を見ようと、懐中電灯をつけると、相手はケッセルバッハ夫人だった!
ルパンは相手の顔を見ても、すぐには理解できなかった。
夫人こそがこの一連の真犯人だったのだ!
ルパンは狂人一家に生まれた夫人にも狂人の血が流れており、それが彼女を犯罪に向かわせたのだと悟る。
(この解釈がすごいと思いません?この時代は、血筋とか血統とか特別視されていたのかなと思います。)
彼女は日常生活では普通の人と変わらないが、何かの拍子に敵にまわった人物に対しては猛然と短剣を振りかざすのだ。
(ケッセルバッハ夫人は、それこそ二重人格の度合いが重篤だったのかと、思わずにはいられませんね。二重人格なんて言葉では表せないほどの、人格の変わりようですから。)
夫が探していたピエール(ベルデンツ大公)を自分も探し出し、彼と結婚して大公妃となり、自分の両親が追放されたベルデンツ公国へ帰ろうとしていたのだ。
ドロレスはパリのパレス・ホテルに、兄のアルテンハイム男爵とこっそり泊まっていたのだ。
そして縛られている夫をみて、短剣で刺す。
それから何人もの殺人を犯した。
ルパンは彼女と戦っているときに首を絞めていたことを思い出し、彼女の名前を叫んだが返事はなかった。
彼女は死んでいた。
ルパンは彼女が正気のときは、かなり苦しんだだろうと考えた。
彼はコーヒーに毒を盛られた夜、彼女は自分を殺そうと思えば殺せたのにそうしなかったことを考えた。
死んだ夫人の服を探ると、シュタインウェイクの手紙が出てきた。
それにはケッセルバッハを殺したのは、彼の妻だということが書かれていた。
ケッセルバッハは彼女の本名(ドロレス)で呼んだことはなく、レティシアと呼んでいた。
そして彼女への贈り物にはすべてL.M.の頭文字を入れていた。
パレス・ホテルに落ちていた犯人のものと思われるシガレット・ケースも彼女のものだった。
彼女はタバコを吸うようになっていたのだ。
そしてルパンはある1枚の写真をみて、あることを思い出し、急ぎパリへ向かう。
それはマシエの写真で、彼の処刑が明日に迫っていることを思い出したからだ。
(ケッセルバッハ夫人が犯人じゃないか!?と思いながら読み進めていた人は、どのくらいいるでしょうか?
犯人は男性だと思い込んでいたら、この事件の真犯人はわかりません。
でも多くの読者は、夫人の鏡のくだりで、彼女のことを怪しいと睨むようになったのでは!?)
ケッセルバッハ夫人は何らかの関りがあったマシエを、万が一の時のために、犯人にしたてあげていたのだ。
良心にかけてもマシエを死なせてはならない!とルパンは車を猛スピードで飛ばす。
車はパリのボーボー広場にある内務省へ着く。
しかし、時既に遅くマルライヒは処刑されていた。
ルパンは打ちのめされ、肘掛椅子に倒れこむ。
(ルパンは怪盗だけど、悪い人間ではない・・・と子供の頃から思っていた。
無実の人間を救おうと必死にパリまで車を飛ばす。
人間的な心がないと、無実の人間が死んでしまったとき、打ちのめされたりしないはず・・・。
ケッセルバッハ夫人が死んだときも、同じように悲しんでいた。
ルパンの人間性がよくでている場面だと思います。)
ルパンはしばらく打ちのめされていたが、マシエも狂人だったのでは?と考え始め、マシエ自身も何も抗議しなかったから仕方がないと、早くも未来に向けて考え始める。
そして、計画通り、ピエールとジュヌビエーブを結婚させ、彼女を大公妃にしようと決める。
そして自分がその公国の実権を握り、ヨーロッパを支配するのだ!
しかし、城に戻ったルパンはまたもや信じられない光景を目にする。
ピエールが首をつって死んでいたのだ。
ケッセルバッハ夫人に続き、大公にするつもりだったピエールが死んでしまい・・・
ルパンはピエールの死体を見て、自分の頭も狂いそうになる。
夫人を愛していた彼は彼女が死んだことを知り、自分も首を吊ったのだった。
ルパンは1時間後、ようやく状況を考えられるようになり、もう一度夫人とピエールの服を探ってみる。
すると彼女のポケットから、またもや秘密文書が出てくる。
実はルパンが取り返したと思っていた文書はニセモノで、こちらが本物だったのだ。
ルパンは自分が愛した女性たちはみな死んでしまうことを考え、自分も死のうと思う。
そして遺書を書き、この城の別荘に火をつける。
ある日、エルヌモン夫人(ルパンの乳母のビクトワール)のところへルパンがやってくる。
ビクトワールは、新聞にルパンの死亡記事が掲載されていたので、驚く。
そしてジュヌビエーブと話がしたいとと言うが、ビクトワールはあなたが死んだと思っていると話す。
ルパンは彼女と一緒に生活がしたいと思っていた。
しかし、ジュヌビエーブの姿を遠くに見たとき、ルパンは彼女に話しかけることが出来なかった。
そしてやはり死んだことにしておいてくれと言う。
ジュヌビエーブは、ルパンの娘だったのだ。
(ルパンはこのとき、乳母ビクトワールの前で、ボロボロ泣きます・・・。この場面は何度読んでも切ない・・・。
本当は娘のジュヌビエーブと一緒に生活がしたかったけど、泣く泣く自分から身を引いたルパン。
このようなルパン自身の心情の脆い部分が表現されている作品は、他にはないのではないかと思います。それだけに、ルパンが人前(と言っても乳母のビクトワールですが)で、泣く姿を見せるのは、恐らくこの「813」だけなんじゃないかと思っています。)
それから日が経ち、イタリアのカプリ島を訪れているドイツ皇帝の前にルパンが現れ、真犯人はケッセルバッハ夫人だったことを打ち明け、そして本物の秘密文書を皇帝に渡す。
(カプリ島といえば、青の洞窟で有名なところですね。
因みにティベリウスの絶壁も実在します。
以下のリンクから、詳細をみることが出来ます。
ドイツ皇帝から、自分の臣下にならないかと言われるが、私はフランス人だからと言って断る。
ルパンは、いつか皇帝自ら自分に握手させてみせると誓っていたが、その誓いをここで果たす。
そしてティベリウスの絶壁からルパンの体は宙を舞った。
『813』の物語はこれでおしまいです。
いかがでしたか?
私は小学生の頃に、作者ルブランの最高傑作の長編と聞いて読んだときはあまりなんとも思わなかったのですが、大人になってから再読してみると面白くて面白くて・・・。
「813」の見どころは、もちろん真犯人は一体誰なのか⁉ということもありますが、アルテンハイム男爵と戦う時のルパンの「男気」や「自信」を見ることもできれば、ジュヌビエーブに会う勇気がなく、さめざめと泣くルパンも見ることが出来て、ルパンの色んな側面や心情を読者も垣間見ることが出来ることではないでしょうか。
今迄お読みいただき、ありがとうございました。
次回からは、書きたくて書きたくてしょうがなかった「ベルサイユのばら」を取り上げようかなと思っています。
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