アルセーヌ・ルパン『水晶の栓』その5-変幻自在の変装に脱帽!スリルとサスペンスの怒涛の展開から緊迫の場面へ!-
みなさん、こんにちは!
今回ご紹介するストーリーは、『水晶の栓』で、私が一番好きな章です!
拙著もあわせてご覧いただけると、パリの街がより理解しやすくなるかと思います。
この章の始まりは、ルパンが「どんな変装道具を持っているか、そしてその変装がいかに素晴らしいか」が、”珍しく”詳しく述べられています。
ルパンと言えば、「変装の名人」ですが、その変装をどのように行っているのか⁉までは、ストーリー上では語られていません。
なので、この章の冒頭は、とっても貴重なんです!
それが、この冒頭部分↓
「ルパンの車には書斎代わりになるよう、本や紙、インクやペンが備わっているだけでなく、役者の楽屋さながらに化粧道具から様々な衣装、傘、ステッキ、ネッカチーフ、鼻眼鏡といった小道具を入れた箱がいくつもある。おかげでルパンは移動の最中にも頭のてっぺんからつま先まですっかり変身することができた。」
車で移動中に、すっかり別人になっているルパン、すごくないですか⁉
そして、ルパンはフロックコートにシルクハットをかぶった小太りの紳士に変装し、ドーブレックの家へ行き、クラリス(ルパンの部下で、断頭台行きになるかもしれないジルベールの母)の代理として来たと告げる。
応対したビクトワールもルパンだと気づかず・・・。
(ここでもルパンの変装の秀逸さがわかりますね)
クラリスが服毒自殺を図ったと伝えると、ドーブレックは驚く。
しかし、ドーブレックは眼鏡の上に黒眼鏡を二重にかけており、本当に驚いたのかどうかルパンは判断が出来なかった。
顔の表情が読み取れないのは大変だとルパンは思う。
なんで医者をよこしたのか不思議だとドーブレックが言うと、ルパンはクラリスが自殺を図った際にうわごとで「ドーブレックのせいよ・・・息子を返してってあの人(ドーブレック)に言って・・・。さもないと今夜死ぬわ・・・」と言ったと答える。
ドーブレックは「ちょっと失礼」と言って電話をかける。
なんとかけた先が警察局長(つまりプラヴィル)で、ここにアルセーヌ・ルパンが来たから警察官を数名よこしてくれと電話で話す。
これにはルパンもびっくり!
しかも、屋敷にもぐりこませていたビクトワールや、シャトーブリアン通りとバルザック通りが交わる角のアパルトマンにミシェル・ボーモンという偽名で隠れ家を所有していることなどを警察にしゃべったので、ルパンは怒りを出さないようにするのに必死だった。
これはルパンにとって耐え難い屈辱だった。
ルパンはぐっと堪えて、一言も発さず、召使のアシルに電話する。
(ここでわめきちらしたりしなかったルパン、さすがですね。ドーブレックから侮辱されても、”あくまで冷静に、完璧な自制心と自分がとった行動計画の明快さを示すような無駄のない動作で”、召使いに電話するんです。)
その電話の内容が、またルパンらしいというか・・私、この場面のルパンのセリフがめっちゃかっこよくて好きなんです。
それが、その電話の内容↓
「わたしだ、親分だ。よく聞くんだぞ、アシル。アパートを出るんだ。そう、いますぐにだ。数分後に警察が行くぞ。いや、心配はいらん。時間はたっぷりある。おまえのスーツケースはいつも用意が出来ているだろうな?よし、上出来だ。私の寝室へ行って、マントルピースに向かって立つんだ。左手で大理石に彫ったバラ模様のまんなかを、右手でマントルピースの上を押してみるんだ。そこに引き出しのようなものが出てきて、その中に小さい箱が2つ入っている。その箱の1つには重要書類、もう1つには札と宝石が入っている。両方とも、スーツケースのポケットに入れるんだ。そしたらスーツケースを持って、急いでビクトル・ユゴー通りとモンテスパン通りの角まで行くんだ。そこにビクトワールが乗った車が停まっている。私もあとから行くから。なに?私の服?骨董品?みんなほうっておけ。さあ、大急ぎでやるんだ。」
ルパンは電話を切った後、「さあ、今度はお前に、わたしの話を聞いてもらおうか」と切り出し、単刀直入に子供を返せと言う。
ドーブレックが拒否すると、アンギャンで盗んだ絵画や骨董品を返すと言う。
ヌイイのシャルル・ラフィット通り95番地の倉庫に全て置いておくと・・。
そして、もう一人の息子、ジルベールも助けてやれとルパンが言うと、ドーブレックはクラリスがここに来て懇願しろと烈火のごとく怒る。
恋焦がれて無茶なことはするな、自分のことだけ考えろ、さもないと27人のリストを奪うとドーブレックに宣言。
ドーブレックは、プラヴィルらの警察関係者やクラリスも奪えなかったリストをお前が奪えるのか!?と冷ややかな口調で言うが、ルパンは、「俺はアルセーヌ・ルパンだから」絶対に奪ってみせると宣言。
しかし、ドーブレックはルパンをさらに怒らせることを言う。
ジルベールの裁判が早く進むように司法当局に圧力をかけてやったと、そしてそれはクラリスを自分の妻にしたいがためにやったことだった・・・(息子-すなわちジルベール-が死刑になる可能性もあるため)。
ルパンはポケットに手を入れ、ドーブレックもピストルが入っているポケットに手をやったが、ルパンはポケットから飴をだしてドーブレックに渡す。
相手がポカンとして、あっけにとられている間に、ルパンは部屋からさっと出て行った。
(この時、ルパンがドーブレックに渡した飴が、「ジェローデルのドロップさ。」と言っているので、「pastilles Géraudel」のことなのかな?と思います。
フランスで昔からあるのど飴?のようなものかな・・・と。
今もフランスで売られているか不明なので、今度フランスに行った時にリサーチしてみます。)
その夜、約束通り、倉庫にある盗品と息子ジャックを交換し、クラリスとジャックはブルターニュで静養することに。
そうこうしているうちに、ジルベールとボシュレーの裁判が始まり、ジルベールは人を殺していないと裁判で証言する。
そして親分はアルセーヌ・ルパンで法廷に向かって「ボス、助けてください!!」と叫ぶ。
その時、「怖がるんじゃない!ボスがついている」という声が、どこからか聞こえてきた。
ルパンは、ジルベールを救ってやれない自分のふがいなさや、ジルベールの哀れな姿をみて、涙をこらえるのに必死だった。
それから、新しい隠れ家(クリシー広場の一角)に戻ると、部屋にはクラリスがいた。
そんな時、手下からドーブレックが誘拐されたという情報が入り、ルパンは呆然とする・・。
続く。
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