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「0組の机にポエム書いてるの私です。」第1話

[あらすじ]
目立たないようにひっそりと高校生活を送っている中原 央の唯一の楽しみは、「0組」の机に自作の詩を書くことだった。学年の全生徒が授業や部活で使用する教室を、生徒たちは「0組」と呼んでいる。央の詩は、「読み人知らずのポエム」として次第に学年中の噂になっていった。しかし、ひょんなことから、あざとかわいい系イケメン・浅海 悠日に、ポエムの作者が央だとバレてしまう。 秘密を知った悠日は央に興味を持つようになり、央も悠日の明るさに徐々に心を許していく。けれど、央は過去の失恋を忘れられないでいて――……。恋と青春、将来の進路。 央と悠日のキラキラ青春ストーリーをお届けします。



『あの日、恋を失って』
「好き」だと告げてしまったからなのでしょう?
二度と会えなくなったのは
もし「好き」だと言わなかったら
あなたはまだそこにいて
今も一緒にいられたのかもしれないのに

 浅海 悠日あさみ はるひは、0ゼロ組で目にした読み人知らずの詩をふと思い出していた。窓から差しこむ夕陽が、校内をオレンジ色に染めている。がらんとした廊下には、忘れ物を取りに戻ってきた悠日の姿しか見えなかった。

 本来なら今頃、男子バレーボール部のチームメイトと、近くのショッピングモールで鯛焼きでも買い食いしているところなのに。自分を置いて先に帰ってしまった彼らに唇を尖らせた。

 でも、明日、英語の小テストがあると気づかせてくれたのは、チームメイトでありクラスメイトの木村 誓司きむら せいじだ。部室でユニフォームから制服に着替えている最中にその話題が出なかったら、小テストの存在なんてすっかり忘れていたことだろう。明日の小テストはきっと悲惨な結果に終わっていた。現在かろうじて上位クラスに留まっているが、点数次第では下位クラスに落とされかねない。クラスが落ちるのは絶対にごめんだ。そう、絶対に。

 汗ふきシートや制汗剤で、可能な限り身体を清潔にしたつもりだけれど、どうにもまだベタベタする。右手でワイシャツの襟を掴んでバタバタと風を送った。梅雨も明けて、いよいよ本格的な夏が始まろうとしていた。

 2年3組――悠日のクラス――に人影はなかった。窓の向こうの大きな夕陽が、チカッと目に映って眩しい。夕暮れの教室は日中の活気ある風景と違ってどこか寂しげで、なんとも言えないエモーショナルな雰囲気を醸し出していた。ズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、パシャッと一枚写真に収める。うん、なかなかエモい写真が撮れた。

 教室のド真ん中にある自分の机から、A5サイズの本を取り出す。悠日の忘れ物、英語の教科書だ。お弁当とユニフォームしか入っていないスカスカのスクールバッグに、ポイッとそれを投げ入れる。教科書はすべて置き勉。それが悠日のスタイルだ。

 教室を出る。2組、1組と通り過ぎていく。1組のとなりの空き教室――通称「0組」――に差しかかったとき、足が止まった。窓際、前から2列目の机。強烈な光を放つ夕陽をバックに、女子生徒が立ったまま机の上を消しゴムでゴシゴシとこすっていた。2.0の悠日の視力は、消しゴムがMONO消しゴムであることさえも認識していた。

 一見すると異様な光景だが、悠日にはピンときた。あそこに書いてあるのは、学年中で噂が広まっている“ポエム”に違いない。それを、あの子が消している? そんなの絶対にダメだ。あのポエムは、悠日自身も、そして悠日の友達も、何より学年中が密かに楽しみにしているというのに!

「おい! 何やってんだよ! 勝手に消すな!!」

 ドスドスと荒々しく足音を立てて、0組に入る。彼女は一瞬ビクっと身体を震わせたが、悠日のほうに顔を向けることはなかった。消しゴムを持つ右腕を、よりすばやく動かし始める。

「やめろって!」

 悠日は彼女の二の腕を掴んで引っ張り上げた。ようやく、彼女が顔を上げる。艶やかなセミロングの黒髪が、反動でサラッと揺れた。目の上で真っ直ぐ切り揃えられた前髪。楕円系の縁なし眼鏡。大きな黒い瞳は、射貫くような視線で悠日をにらんでいた。

 あれ、彼女は――……。

「……中原なかはら?」

 悠日のクラスメイト、中原 なかばだった。




「0組の机にポエムが書いてあるの、知ってる?」

 最初にこの話題を切り出したのは、木村だった。数週間前、ちょうど梅雨が始まったばかりの頃だ。

 悠日と木村は、教室移動やグループ分け、お昼ご飯などを大体ともにしている。部活を通して仲を深めた二人は、2年生で同じクラスになると自然と一緒に過ごすようになった。

 その日も、4時間目の英語の授業を終え、悠日の席に集まって昼食を摂っていた。木村が剃ったばかりの坊主頭を撫でながら、「そういえば」と話し始める。タコさんウィンナーを食べようとした悠日の手が止まった。

「は?」
「知ってる。俺も何回か座ったことあるよ」

 悠日の「は?」をかき消すように、正面に座っている横山 玲よこやま れいが、購買の焼きそばパンを片手に同意した。横山も所謂「いつめん」というやつである。サッカー部に所属している横山は、1年生のときに悠日と同じクラスだった。2年生に進級してからは、悠日と横山に木村を加え、クラスで小さなグループを形成している。

「さっきの授業でたまたまポエムの席に座れたんだけど、結構沁みるよなー」
「わかる。等身大っていうの? 恋のポエムとか共感する」
「そうそう。うちの学年でちょっと流行ってるらしいよ」
「マジ? 感想とか書いてあるもんな」
「いやいやちょっと、何の話?」

 木村と横山だけでどんどん会話が進んでいきそうだったので、悠日は慌てて二人を制した。話の腰を折る悠日に、彼らは眉をひそめる。

「だから、0組のポエムの話!」
「何? 0組のポエムって」
「0組の机にさー、ポエムが書いてあんの! 見たことない?」

 悠日は目線を上げ、虚空に「0組」を思い浮かべた。

 悠日の通う都立桂冠けいかん高校には、「0組」という教室が存在してる。悠日の入学するもっと前、桂冠高校は一学年9クラスの編成だったらしい。現在は少子化の影響か、一学年8クラスの編成となっている。使われなくなったホームルーム教室は、職員室から最も遠い、校舎の南側にある教室。「1組のとなりに位置しているから」という安易な理由で、「0組」と呼称されるようになった。

 0組の使用用途は多種多様だ。たとえば、習熟度別・少人数制で展開している英語の授業では、成績上位の生徒が0組に移動して授業を受けている。部活動では主に演劇部が使用しており、机を舞台のセットに見立てて練習をしているそうだ。人数が多くて、部室に入り切らない野球部やサッカー部の生徒が、男子更衣室として使用することもある。文化祭では、各学年の1組に0組の使用権限が与えらている。昨年、悠日と横山は1組だったので、2つの教室を使用した巨大迷路を実施した。0組は、生徒や教師にとって便利な「なんでも教室」として、目覚ましい変貌を遂げているのである。

 現在、悠日が0組を訪れるのは、上位クラスで受けている英語の授業だけだ。男子バレーボール部は人数がそれほど多くないので、着替えは部室で行っている。まさに、4時間目の英語の授業は0組で受講した。

 先ほどの授業を脳内でリプレイする。小柄でやせ形の老婆(英語の先生)が教室に入ってくる。号令。教科書とノートを机の上に広げる。滔々と教科書を読み上げる先生の声。黒板にチョークを打つ音。だんだんと重たくなる瞼……。

 机にポエムが書いてある? そんなの……。

「見たことない」

 悠日の回想には、ポエムの「ポ」の字も登場しなかった。

「うわあ、もったいない」

 木村と横山は、「かわいそうに」と言わんばかりに口を手で覆った。「机に文字が書いてあるなんて思わないじゃん」と、ぶーたれて反論する。座った席にポエムが書いてあるかどうか、普通ならチェックするはずがない。書いてあったとしても、それをじっくり見て気に留めておくなんてありえないだろう。

「それで、そのポエムが? 流行ってるって?」

 ようやく話についていける段階になったので、会話を戻した。タコさんウィンナーを口に運ぶ。机に書かれた単なるポエムが学年中で流行っているなんて、にわかには信じがたい。ただの落書きと同じじゃないか。

「そうそう。0組のポエム見たさに、英語の成績上げようとするヤツもいるんだってよ。女子からの情報だけど、『0組でポエムの書かれた席に座った人は恋愛成就する!』とか言われてるらしいし」

 木村は、教室のうしろで机を寄せ合ってお弁当を食べている女子たちに目をやった。上位クラスで授業を受けている生徒が何人かいる。

 0組で授業を受けるときに気がかりなのが、机のコンディションだ。0組は学年の全生徒が使用する。教室の机や椅子は誰の物でもない。自分の物ではないからこそ、汚く使う者もいる。机の中にコンビニのお菓子や飲みかけのペットボトルが入れっぱなし―ー……ということが、しょっちゅうあるのだ。

 演劇部が机を動かしているせいなのか、0組の机はいつも入れ替わっている。前回座ったときと同じ机に当たることは滅多にない。ゴミが入っている机に当たったときは最悪だ。悠日も何回か食べかけのパンが入っている席に当たり、一時間イヤな気持ちで授業を受けたことがある。

『0組でポエムの書かれた席に座った人は恋愛成就する!』という浅はかな迷信が生まれたのは、机のランダム性が理由なのかもしれない。

「それってオリジナルのポエムなの? マイナーなアーティストの歌詞が書いてあっただけなんじゃん?」

 一度もポエムを見たことがないからか、それとも、自分だけが知らなかったことからの僻みなのか、悠日はつい疑ってかかってしまう。それほどまでに話題性のあるポエムを、ただの高校生が書けるとも思えない。ヒット曲ではないが、その人のみぞ知る好きなアーティストの歌詞、という可能性もあるのではないか。

「俺もそう思ってググってみたんだけど、特にヒットしなかったんだよなあ。歌詞っぽい感じではないかも。モノローグみたいっていうか……」

 盛り上がりやすい木村に対して、冷静な横山。そこまで調べているなんてさすがだ。サッカー部の次期キャプテン候補と噂されるだけはある。悠日は、「ふーん」とたまご味のふりかけをのせた白米を口に入れた。ひとつ、大事なことを聞き忘れた。

「で? そのポエム、誰が書いてんの?」

 口をもぐもぐさせながら尋ねる。卵焼きを箸で掴もうとした木村の手が、そして、焼きそばパンを再び頬張ろうとした横山の動きが、止まった。

「……知らない」
「し、知らない?!」



 悠日が0組でポエムの書いてある席に座れたのは、それから数日後のことだった。あの日のことを今も鮮明に覚えている。

 2時間目の英語の授業、木村と横山とふざけ合いながら0組に入る。悠日の席は、窓側2列目の前から4番目。0組には、古びた木目上の机と比較的新しいスタイリッシュな白い机の2種類がある。今日の悠日の座席は白い机だった。机に教科書とノートを置く。ふと、その横に何かが記されているのが目に入った。ハッとする。

 これが噂の!

 前のめりになって、顔を机に近づけた。

『あの日、恋を失って』
「好き」だと告げてしまったからなのでしょう?
二度と会えなくなったのは
もし「好き」だと言わなかったら
あなたはまだそこにいて
今も一緒にいられたのかもしれないのに

 クセのない美しい筆跡。その一行一行にそっと触れてみたくなった。でも、シャープペンシルで薄く書かれたそれは、指でなぞったらこすれて読めなくなってしまうかもしれない。すぐに消えてしまいそうな繊細さも、「いい」と思った。

 国語は得意じゃないし、小説でさえ読まないのだから、詩なんて「わかる」はずがない。けれど、その読み人知らずのポエムは、ようやく巡り会えた特別なものとしてじんわりと悠日の心に響いた。

 ポエムの傍らには、他の人の筆跡で複数の感想が記されている。

「エモエモのエモ」
「GOOD!」
「とてもステキです♡」

 木村たちの言っていた通りだ。すごい。SNS全盛期、流行の発信地・東京にある高校の、とある教室の机の片隅で、こんなアナログなやりとりが行われているなんて、一体どこの誰が想像するだろう。このポエムが桂冠生の間で話題になる理由が、少しわかったような気がした。



「最近、0組のポエム見かけなくない?」

 初めて0組のポエムを目撃した日から、数週間後のことだった。休み時間、うしろの席に座っている女子たちの話し声が、悠日の耳に飛びこんできた。グルンと勢いよく振り返る。

「俺も! 俺もそう思ってた!」
「うわ! びっくりした!」
「なに~? 悠日も0組のポエムのファンなの?」

 突然口を挟んできた悠日に驚きつつも、彼女たちは快く会話に入れてくれた。悠日自身も「なかなかポエムの席に当たらないな」と感じていたところだったのだ。授業の度に連続して座れていたこともあったのに。ここ最近、全然ポエムの席に巡り会えていない。机がシャッフルされる以上、ポエムが書かれている机に座れるかどうかは運次第なのだけれど。

ようちゃんたちもそう思う? 単純に、俺が座れてないだけなのかなと思ってた」

「うん。部活のみんなにも聞いてみたんだけど、『あんまり座れてない』って言ってたんだよね。座れてる子もいるにはいるみたいなんだけど」

「でも、明らかに数は減ってる。一時期はバンバン“新作”も出てたじゃん。もう書くのやめちゃったのかな。ポエム、楽しみにしてたのに」

 楽しみにしていたのは、悠日も同じだった。憂鬱な英語の授業が、ポエムのおかげで「ワクワクするもの」に変わっていた。0組に入ってから自分の席に座り、まず机にポエムが書かれていないか確認する。書いてあればテンションが上がるし、書いてなければがっかりする。0組でしか読めないこのポエムのために、英語の勉強に力を入れるようにもなっていた。

 ある程度の日が経てば、シャープペンシルで書かれたポエムは薄れて消えてしまう。もしかしたら、0組の机にはもう一つもポエムが残っていないのかもしれない。本当に、作者は書くのをやめてしまったんだろうか。感想だってもらえているのに、もったいない。もう二度とあのポエムを読むことができないのかもしれないと思うと、途端に寂しい気持ちがした。悠日は、ポエムとして綴られた繊細で真っ直ぐな声に、いつの間にか魅了されるようになっていた。

 陽ちゃんたちの会話は、最近できたらしい彼女の恋人の話に移り変わっていた。「0組のポエムの迷信を信じて告白した」のだそうだ。彼女の話に相槌を打ちつつも、悠日の頭はポエムのことでいっぱいだった。

 それとも、ポエムの人気を妬んだ誰かがこっそり消しているとか? だとしたら物騒だし、同じ学年にそんな思想を持つ人がいるなんてショックだ。作者だって、せっかく書いたポエムを勝手に消されたら傷つくだろう。もしそんなことをしている人がいるのならば、俺が懲こらしめてやりたい――……。

 そう考えていた矢先だった。
 放課後、ポエムを消している犯人を見つけてしまった。




 0組で、悠日と央は対峙していた。燃えるような強い西日が二人を照らし、濃くはっきりとした黒い影を床に落としている。

 忘れ物を取りに来た帰りに、まさか0組のポエムを抹消している犯人と遭遇するなんて。彼女の二の腕を掴む悠日の手には、怒りで力がこもっていた。みんなの楽しみを奪ったコイツを逃がすわけにはいかない。しかし、その犯人がクラスメイトの中原 央だったとは。予想していなかった展開に、少なからず戸惑う気持ちもあった。

「……何?」

 央は悠日から視線をそらすことなく、不機嫌そうに尋ねた。現行犯で捕まえたのに、物怖じしない彼女の姿勢に悠日は目を見張る。

 2年生に進級して同じクラスになってから、一度も彼女と会話をしたことがなかった。聞こえが悪いかもしれないが「スクールカースト」が違う。悠日はクラスでも目立つ「中心グループ」に入っているが、その中に当然央はいない。彼女がクラスで誰と親しくしているのかも、よく知らなかった。たしか、吹奏楽部の谷口たにぐちと一緒にいることが多かったっけ。記憶の糸をたぐり寄せる。悠日の偏見だけれど、文化系の生徒は大人しい印象があったから、央から強い視線を向けられたことに狼狽うろたえてしまった。

「な、何って……。お前だったんだな、ポエム消してたの」
「……それが?」
「それがって……」

 毅然とした態度を取り続ける央に、悠日のほうが動揺する。いや、俺は犯人を捕まえたんだ。勝手にポエムを消しているなんて許せない。どこの誰が書いているのかも知らないけれど、作者もこの事実を知ったら相当心を痛めるだろう。俺がしていることは100%正しいに決まっている。

「ダメだろ、人が書いてるもん勝手に消したら」
「あのねえ、机に落書きしてるほうが悪いと思わない? 親切に消してあげてるんだから、感謝されるべきでしょ」

 初めてちゃんと央の声を聞いた。ツンとした濁りのない美しい発声に、聞き惚れそうになる。いやいや、俺は正義の味方として、彼女を懲らしめなければならないのだ。小さく首を横に振り、意識を戻す。

 しかし、言い返そうにも、彼女の言い分のほうが正しかった。先生も「机に落書きするな!」としょっちゅう注意しているじゃないか。落書きなんだから消されて然るべきだ。己の「正義」が急に揺らぎ始める。

「で、でも、お前だって知ってるだろ? このポエム、みんなが楽しみにしてるんだよ」

 情に訴えかける作戦に出る。彼女の強い視線がようやく弱まった。何かに迷ったように、目が泳ぐ。考えを改めてくれるのだろうか。ホッとして、彼女の腕を掴む力がゆるんだ。

「……それでも、消さないとダメなの!」

 その瞬間、央は悠日の手を振り払った。再び机に向かって消しゴムを押しつけようとする。悠日は「やめろよ!」と即座に央の肩を掴んだ。彼女は再度それを振り払おうと抵抗するが、男子生徒の力に敵うはずがない。

 悠日は背後の窓にドンッと央を押しつけた。もう逃がさない。ここで「二度と消さない」と誓うまで、絶対に離さないからな。改めて、悠日の手にぎゅっと力がこもった。

「ちょっと、離して……!」
「イヤだ! もう二度とやらないって言うまで離さない!!」

 悠日はキッと央をにらみつけた。初めて至近距離で央の顔を見る。透き通るような白い肌。苺のように赤い小さな唇。眼鏡からはみ出しそうな大きな瞳。バレーボールと同じくらい、小さくて丸い頭。……お人形さんみたい。彼女がこんなにかわいらしい顔立ちをしているなんて知らなかった。

 央は眉間に皺を寄せて目をそらした。けれど、再び意を決したように、鋭い視線を悠日に向ける。そして、叫んだ。

「これ書いたの私なの! 本人が消してるんだから、何も問題ないでしょ!?」

 え。

 虚を突かれて、力が抜けた。央はその隙を見逃さなかった。ドンっと、悠日の胸を目一杯の力で突き飛ばす。事態に頭が追いつかなくて、構えられない。悠日は押された勢いで机にぶつかってよろけ、ドシッと床に尻餅をついてしまった。衝撃に顔を歪める。

 央は一瞬まずそうな表情を浮かべたものの、逃げるように教室から去っていった。悠日は「待てよ!」と声を張るが、立ち上がることができない。混乱している。何がなんだか、ワケがわからなかった。

「中原がポエムの作者……?」

 座りこんだ悠日の頭上から、ギラギラと強い光を放つ夕陽が、嘲笑うかのように降り注いでいた。


(つづく)

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