由不豆々

文字書きの練習中 SSを中心に少しずつ 言葉の波が広がっていけ

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最近の記事

BLACKJISAYKUMONOE -fated of nemesis-

自己増幅を繰り返したその体内は、鉄屑や固まりかけの砂鉄が歪に絡まり合う異様な光景に満たされていた。 どこに隙間があるのか時折吹く冷たい風が、静寂を嫌うように砂鉄を撒き散らす。 巨大な体躯を冷やすためだろうか、冷却装置の稼働する機械音がこの場の不気味さを際立たせる。 いくつもの眷属や砂鉄の波を躱して、まだら牛は迷いなく歩を進める。 その瞳の虚ろな色は影を潜め、この先に待つ真実を映し出すために光を宿している。 眷属たちは遠巻きに彼に視線を寄越すが動く気配はない。 ただ時折吹く風に

    • ヒャッキヤコウ

      淡い月が空に浮かぶ。 家々の明かりから聞こえる「鬼は外、福は内」の無邪気な声。 ちかちかと消えかけの街灯が照らす薄暗い道。 その闇の端から湧き上がる形のない靄。 はきとしない形たちはまるで踊るように光を避けて暗闇の道をひらりひらりと渡り歩く。 闇が深くなるほど、無形の靄は形を持つ。 鳥の頭や盥の頭、一ツ目三ツ目、さらには掌に目があるもの、薬缶に足の生えてとたとたと走り回るもの。 見れば見るほど尋常ならざるものたちが、薄闇の中を行列をなして練り歩く。 各々壊れた鐘や割れた笛、穴

      • エバ

        鏡写しの私とあなた どちらが本物? どちらがあの人にとって大切な存在? 私たちは同じはずなのに、ひとつになれないの? 私が手を伸ばせばあなたも手を伸ばす 鏡越しに合わせられたお互いの掌 何の温もりも感じなくて、虚しくて目を閉じる ぐるりと世界が回れば、あなたの世界の私はあなたの反対 何度もぐるぐる回り続ければ、私もあなたもわからなくなる どんなに世界が反転したって、私たちは混じり合えない 鏡の向こうで互いに手を伸ばし合って、温度の感じない手を合わせるだけ あの人に愛してほしい

        • 両片思い

          それは心象風景。 大きな道を挟んで向こう側があなた、こっち側が私。 道はただの道で、大きな亀裂が入っているわけでもないし爆弾が仕掛けられているわけでもない。 でも、この道は渡れないと知っている。あなたも、私も。 どうしてなんて、そんなのこれが私たちの作った世界だからに決まってるじゃない。 ここから一歩でも踏み出せば、夜が押し寄せて私たちを闇の中に連れて行く。 それが怖いわけではないけれど、私はいつもここからあなたの横顔を見ている。 テラスには飽和した海風が吹いて息苦しい。 あ

        BLACKJISAYKUMONOE -fated of nemesis-

          終焉と始まり

          伽藍堂の部屋の中で、君はベッドの上でつまらなそうに窓の外を見つめる。 四角い窓から見える景色だけが、君の世界のすべて。 窓の外は灰色。色とりどりの傘が道を行き交う。 部屋の中はひどく静かで、時を告げる針の音だけがカチカチと響き渡る。 見ているだけでは何も変わらないよ。 外の景色はいつも同じ。 灰色と、目が潰れそうになるほどの傘の色の群れ。 知ってるよ。 街外れの廃墟の向こうには、海が広がっているんでしょ。 でも危ないから、あそこには近づいちゃいけないって言われてるんだ。 君

          終焉と始まり

          煙突と花

          まるでこの世の終わりのようだ。 色とりどりの傘の死骸が、無造作にうち捨てられている。 ここは傘の墓場。 色のない世界で、ここだけはたくさんの色に溢れている。 最後の時を待つ死んだ傘たちは、こんなに色に溢れているはずなのにどこかくすんで見える。 傘の死骸の奥で、ごうごうと炎が燃える。 大きな炉での前で、機械作業のように傘を投げる老人がいる。 「あんたがカミナーダかい」 男の問いに老人は緩慢な動きで振り返る。 その顔は煤で汚れ、深い皺の刻まれた顔は疲れというよりどこか悲哀を感じさ

          煙突と花

          後の祭り

          雫がぽつりと落ちた 冷たい感覚 体はだるいし重い だらりとベッドからこぼれ落ちた手から何かが零れた 何だろうと確かめたくても、首を動かすのさえ面倒くさい ぼうと見つめた視線の先には揺れるシャワールームのシルエット 安っぽいオレンジの明かりの中で君が踊る夢を見る おかしいな、ここはどこだっけ 頭の奥の方に靄がかかったように思考が霧散する まぁいいか、面倒くさいことは考えたくない シャワーの音が止んで、視界の端に君の裸体が映る 綺麗だな、なんて 自嘲ってこんなに重かったっけ ひた

          後の祭り

          「また明日」

          朝焼けの中歩き出す。 後ろには焼け残ったような空。 夜は明ける、いつだってそう。 どんなに飲み明かしたって言葉が足りなくて、それでも腹に溜まった泥みたいな感情を吐き出すことを理解してくれるあいつらがいるだけでまた先に進んでいける。 酒を飲んで火照った体を冷ますように夜明けの風が肌の上を滑っていく。 空いた腹の中に思い切り息を吸い込む。 生まれたての空気が体中を巡る。 大人の言う身勝手な事情とか、自分がうまくいかないのは周りのせいだと喚いてるやつとか、このままじゃダメだなんて言

          「また明日」

          Lightbringer

          「綺麗!」 君はまるで子供のように水槽に張り付いて、泳ぎ回る魚たちに釘付けになる。 薄暗い照明、まばらな人の気配、水に満たされた不思議な重圧感、弾む君の心音。 君の体がまるで透けてしまっているかのように、嬉しげに心臓をどきどきさせているのがわかる。 こんな田舎の、寂れた水族館で、君はまるで開園したての遊園地にでも来たかのようにはしゃいでいる。 さっきもきらきら光る魚の群れを見て、初めて見たかのような感動のしようでそこからしばらく動かなかった。 君の目に見えている景色と、俺に見

          Lightbringer

          Bite me. × BOOGEY VOXX

          覗き込んだ目はそらされる。 まっすぐに見つめても、あなたはいつもあたしの向こう側ばかり見ている。 どうして? あなたはいつだってボクはキミの側にはいられないと、嘘にもならない嘘を吐く。 世界の終わりのように夜が更けて、遠く世界をおぼろげにしていく。 あなたは無意味な週末だったって言うかもしれないけど、あたしたちにとっては変わらない日々。 夜が明ければ朝が来て、またあたしたちを飲み込むように終末が始まる。 どんなに触れてもあなたの体温は上がらなくて、怯えるあたしを慰めるように優

          Bite me. × BOOGEY VOXX

          Bite me.(bite back remix)

          カチャカチャとグラスのぶつかる音、人々のざわめき、秘め事のような囁き声。 君は隣にいるのに、どこか上の空。 他人の目なんて気にしないで強引にキスをする。 君は不機嫌そうにこっちを見て、でも何も言わずにまたケータイをいじったりしている。 「もう帰りたかったりする?」 「そうかも」 なんて、わざとなのか、いや君はいつだって何も知らない。 ちらりと覗いた画面にはあいつの名前。 喉元まで出た言葉を飲み込む。「なんで?」なんて聞いたって君はまた友達だからなんて言うんだろう。 グラスに残

          Bite me.(bite back remix)

          Bite me.

          扉を開ける音。 間接照明が照らす薄暗い部屋にあなたの匂いが混ざる。 けだるげな仕草で振り返って、あなたの知らない顔で迎え入れる。 立ち上がって側に寄ってそっと体に触れると、あなたの体が一瞬こわばる。 潤んだ瞳で見上げれば、あなたは気まずげに視線をそらす。 「ねぇ、ずっと待ってたの。あたしは、いつまで待てば良いの?あたしのこと、まだ子供だと思ってたんでしょ?」 触れていた手をゆっくりと這わせ、煽るようにあなたの体を堪能する。 その間もあなたは目をそらして、言葉を探している。 頬

          花空

          店先の花に水をやる 雨に濡れて心なしか寂しげに見える 花に寂しげなどあるのだろうか 胸に抱えた水差しをぎゅっと握りしめる 『この花は何色だっけ?』 いつからかそんなことも考えなくなって、今目の前にある花のカタチをしたそれをぼうと見つめる 誰も彼も傘を差して濡れた道を歩く 目の前の花には色はないのに、そこら中に回る傘は満開に色を散りばめる 心の中にぽっかり穴が空いたような、それはいつからだっけとか 考えても頭に靄がかかったようにして、何も考えられなくなる 水差しを抱いて店内に戻

          四角い空

          四角に切り取られた景色 見える景色はいつも同じ 灰色の空、色のない雨、無機物のような草木、枯れたアネモネ ここから見える景色だけが僕の世界のすべて 雨の降る音だけが耳障りに響く ひどくつまらない 行き交う人はみな傘を差してうつむき加減で歩く 色とりどりの傘 灰色の世界で目が潰れそうになるくらいのグラデーションの群れ 誰も立ち止まらず機械的に雨空の下を歩く 自分の傘の色も知らないで こんなにつまらないのに、どうしてその世界をいつも覗いているんだろう こんなにひどく嫌な気持ちにな

          四角い空

          ー幕間ー

          入り口でカランコロンと古びた鐘が鳴り来客を告げる 入ってきた男はずぶ濡れで、茶色の外套は雨に濡れてグレーに見える 客はみな彼を一瞥してまた自分の酒を飲み始める 薄暗い室内に、ざわざわと人の気配が満ちている 男はまっすぐにカウンターに向かい、濡れた外套もそのままにどっかりと中程の椅子に座る 「ギムレット」 男が告げるとバーテンは静かに振り返り、ジンの瓶を取ると流れるようにメジャーカップを操る ざわめきの中にシェイカーを振る音が響く 完成したカクテルには、ライムが綺麗に添えられて

          ー幕間ー

          儚い空(クライソラ)

          なんて綺麗な夢なんだろう 色とりどりの花は咲き、楽しげに鳥がさえずる 果てしない草原、風に揺れるアネモネ、木々の揺らめき 雨上がりの清々しい空気が肌を包む 道端の水たまりが空を映す 洗い立てのような白い雲が青空に浮かぶ そっと水たまりに触れると空は幾重にも重なってぼやける それでも見上げれば空はそこにあって、美しい青が広がっている 世界の果てから風が吹き、草花に残された雨の雫がきらきらと光る なんて綺麗な夢 どうしてこれが夢だとわかるのだろう こんな美しい景色は、とうの昔に消

          儚い空(クライソラ)