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エバ

鏡写しの私とあなた
どちらが本物?
どちらがあの人にとって大切な存在?
私たちは同じはずなのに、ひとつになれないの?
私が手を伸ばせばあなたも手を伸ばす
鏡越しに合わせられたお互いの掌
何の温もりも感じなくて、虚しくて目を閉じる
ぐるりと世界が回れば、あなたの世界の私はあなたの反対
何度もぐるぐる回り続ければ、私もあなたもわからなくなる
どんなに世界が反転したって、私たちは混じり合えない
鏡の向こうで互いに手を伸ばし合って、温度の感じない手を合わせるだけ
あの人に愛してほしいのに、愛されてるのはどちらかもわからない
掌からひやりとした感覚が伝わる
指先からどんどん体温が奪われていく
これはあなたに?それとも私自身に?
いつか私もあなたもわからなくなったら、この冷たい感覚は誰のものになるの?
目を開けて、鏡の向こうの私を見る
あなたは目を閉じたまま顔をうつむける
『あなたは誰?』
ゆっくりと鏡の向こうの私が顔を上げて目を開く
「あなたは誰?」
飛び上がるように手を引く
その手は鏡の向こうの私に捕まれて、引き戻される
顔を引きつらせた私と嗤うあなた
それとも反対?
もう鏡はそこにはない
映し出される景色は反転しているのに、その向こうに映る姿はもう違う
「私はあなた、あなたは私?違うよね。
あなたはあなた。ほら、こんなに手が冷たい」
指先から凍り付くように、感覚がなくなっていく
痺れは指先から腕へ、肩から心臓へ
「私たちはひとつになんかなれない」
「夢の続きは夢で見ましょう」
これは誰の言葉?
世界がぐるぐる回る
私たちの繋がれた手の、冷たいのは誰の手?
頬を流れるひやりとした感覚
「誰かの大切になりたかっただけ。愛されたかっただけ。
それだけなのに」
「可哀想な人。夢でしか泣けないなんて」
「愛されたかったんだ」
「誰も愛せないくせに」
真っ赤で真っ黒な世界がぐるぐる回る
嗤うあなたと泣く私
世界は混ざり合って混沌に吐き気がする
「もう飽きちゃったね」
鏡が割れて、私はひとり立ち尽くす
真っ暗な部屋で、足下に散らばるガラスの破片がキラリと光る
欠片の中で、私が笑った気がした


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