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儚い空(クライソラ)

なんて綺麗な夢なんだろう
色とりどりの花は咲き、楽しげに鳥がさえずる
果てしない草原、風に揺れるアネモネ、木々の揺らめき
雨上がりの清々しい空気が肌を包む
道端の水たまりが空を映す
洗い立てのような白い雲が青空に浮かぶ
そっと水たまりに触れると空は幾重にも重なってぼやける
それでも見上げれば空はそこにあって、美しい青が広がっている
世界の果てから風が吹き、草花に残された雨の雫がきらきらと光る
なんて綺麗な夢
どうしてこれが夢だとわかるのだろう
こんな美しい景色は、とうの昔に消えてしまったはずだからだ
いつの夢だろう
遠い昔、私がまだ言葉も知らぬ頃の鮮やかな世界の夢
夢は憧れの鏡映し
もう諦めてしまったことだと思っていたのに、こんなに綺麗な世界に胸が熱く締め付けられる
まだ覚えていたんだ
記憶は時間と共に擦り切れていって、日常は灰色の世界で音すらおぼろだ
こんな夢を見るなんて、私の時間の終わりが近いのだろうか
絶望とも歓喜ともつかない複雑な感情が胸の辺りでモヤモヤと絡み合う
手を伸ばせば美しい世界に溶けていけそうな気さえする
それでもこれが夢なのだと、頭の奥でもう一人の私が言う
生命の息吹に溢れる緑や青や赤や白、オレンジに紫
このたくさんの色が、もう手に触れられないところに行ってしまったのだと、もう一人の私は知っている
夢の中で、生きられたらいいのに
この美しい世界で、このまま踊り続けられたらいいのに
そう願うほど、この綺麗な世界はおぼろげに、少しずつ遠ざかっていく
嗚呼、夢から覚める
意識は深い深い海の底へ引きずり込まれていく
目を開ければそこにあるのは、色のない天井
無機質な灰色の世界
ああ、戻ってきてしまった
夢は、憧れは
儚く泡となって消えた

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