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後の祭り

雫がぽつりと落ちた
冷たい感覚
体はだるいし重い
だらりとベッドからこぼれ落ちた手から何かが零れた
何だろうと確かめたくても、首を動かすのさえ面倒くさい
ぼうと見つめた視線の先には揺れるシャワールームのシルエット
安っぽいオレンジの明かりの中で君が踊る夢を見る
おかしいな、ここはどこだっけ
頭の奥の方に靄がかかったように思考が霧散する
まぁいいか、面倒くさいことは考えたくない
シャワーの音が止んで、視界の端に君の裸体が映る
綺麗だな、なんて
自嘲ってこんなに重かったっけ
ひたひたと近づく君の足音
ちゃんと体拭きなよなんて言葉も、張り付いた喉からは出てこない
雫がぽつりと落ちた
生温かいシャワーの名残
君の裸は視界から消えて、でもぽつりぽつりと落ちる雫が君の存在を教える
体がどんどん冷えてくる
ああそういえば、ボクも裸だった
落ちた雫からどんどん奪い取られていく体温
ぎしりと音を立てて君の重さの分だけベッドが沈む
背中をなぞる君の舌の感触
ああ、見えないとこんなにゾクゾクするんだ
恍惚に溺れそうになって目を閉じる
瞼の裏に映ったのは、皿の割れる瞬間
そういえば、君が割ったんだった
体がどんどん重くなる
恍惚と諦めと、微かな記憶
そうだ、君がボクを○〇したんだった
手のひらから落ちる赤い雫
どんどん冷たくなる体
君は動けないボクを愛撫する
ボクの体は綺麗?
ボクを愛してる?
ザラザラした舌の感触
脳みそが痺れるような甘美な絶望
まぁいいか
勢いよく体を返される
焦点を失った瞳に映る君の顔
見えない
ああ、君に触れたい
なんて、今さら思う
気付いた時には遅かったなんて、まるで出来損ないのラブストーリーだね
ボクは笑った
嘲笑った
ボクを
君を

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