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四角い空

四角に切り取られた景色
見える景色はいつも同じ
灰色の空、色のない雨、無機物のような草木、枯れたアネモネ
ここから見える景色だけが僕の世界のすべて
雨の降る音だけが耳障りに響く
ひどくつまらない
行き交う人はみな傘を差してうつむき加減で歩く
色とりどりの傘
灰色の世界で目が潰れそうになるくらいのグラデーションの群れ
誰も立ち止まらず機械的に雨空の下を歩く
自分の傘の色も知らないで
こんなにつまらないのに、どうしてその世界をいつも覗いているんだろう
こんなにひどく嫌な気持ちになるのに
灰色の世界はいつだって冷たくて無機質で無慈悲で無感情だ
触れたものはみな冷たく、体温さえも奪っていく
奪われた体温は、心の中も覆っていく
切り取られた世界を見つめる心も、何も宿してはいない
いつもの景色に、異質なものが映る
彼は傘も差さずに、まっすぐに前を見つめて歩いて行く
まるで雨など降っていないかのように
まさかそんなことはあるはずもなく、誰もか彼を避けて歩く
しかし傘を差さずに歩く彼は、異質なはずなのにどこか胸の奥がざわめくのを感じさせた
四角い小さな景色では、彼の姿は一瞬しか映らなかったのだが、その一瞬のざわめきが、胸を突いて離れなかった
指先が痺れて、四角い世界に手を伸ばす
届かない
知っているのに
伸ばした手は虚しく空を掻き、鼻の奥にツンと熱いものがこみ上げてくる
こんな狭い世界で、虚しく過ぎる時間の中で、傘を差さずに歩く彼が、羨ましいと思ってしまった
なんて、夢のような
胸の奥が激しくざわつき、彼のようになれたらと願い歯を食いしばる
こんな感情知らない
冷たく覆われた心が激しく揺れる
こんな感情知らない
冷えた体が一気に発熱する
叶わない願いを求めて激しく揺れる
四角に切り取られた世界の外へ
外へ
この体が動くならば
どうか……

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