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Bite me.(bite back remix)

カチャカチャとグラスのぶつかる音、人々のざわめき、秘め事のような囁き声。
君は隣にいるのに、どこか上の空。
他人の目なんて気にしないで強引にキスをする。
君は不機嫌そうにこっちを見て、でも何も言わずにまたケータイをいじったりしている。
「もう帰りたかったりする?」
「そうかも」
なんて、わざとなのか、いや君はいつだって何も知らない。
ちらりと覗いた画面にはあいつの名前。
喉元まで出た言葉を飲み込む。「なんで?」なんて聞いたって君はまた友達だからなんて言うんだろう。
グラスに残った液体を一気に流し込んで、君の手を引いて店を出る。

四角く切り取られた窓から見える街の灯りが遠くでちかちかと明滅している。
暗闇の中、二人分の吐息と体温が重なり合う。
『愛してる』なんて言葉が漏れるたび、君を激しく求める。
白く薄い肌。暗闇にぼうと浮かび上がる首筋。
知らないと思ってる?それともわざと?その首筋の痕。
枕元の照明に手を伸ばす。
オレンジの明かりに浮かび上がる君の肌。
眩しくて君は目を細める。
「全部見せてて」
一瞬息をのんで、そして君は手を伸ばす。
首の後ろに回された腕。まるで求めるように絡み合う体。
このまま溶けて交われたら良いのに。
それでも朝はやって来る。

朝日を浴びて君は腕の中。
安堵と愛しさがこみ上げていても、君のケータイは鳴る。
まるでスローモーションのように君は腕の中から抜け出して、ケータイを手に取る。
苛立ちまぎれに君を引き寄せても君はその手をすり抜けていく。
何もなかったかのように身支度すると、君は振り返りもしないままドアの方に。
「とっとと失せて」と心の中で叫んでもすぐに溢れ出す君への愛とあの心臓の熱い音。
一人残された部屋で飲む苦すぎるコーヒー。
君に言えない言葉ばかりこぼれ落ちる。
さっきまで君がいた場所がキラリと光る。落ちていた朝顔のピアス。
君の名残。
こんな小さな印でさえ、君の言葉を証明することができるだろうか。
君は気付いただろうか。
首筋に重ねるように付けた痕。
君は誰のもの。
ピアスに口づける。
もういない君の温もりを思い出して。

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