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Lightbringer

「綺麗!」
君はまるで子供のように水槽に張り付いて、泳ぎ回る魚たちに釘付けになる。
薄暗い照明、まばらな人の気配、水に満たされた不思議な重圧感、弾む君の心音。
君の体がまるで透けてしまっているかのように、嬉しげに心臓をどきどきさせているのがわかる。
こんな田舎の、寂れた水族館で、君はまるで開園したての遊園地にでも来たかのようにはしゃいでいる。
さっきもきらきら光る魚の群れを見て、初めて見たかのような感動のしようでそこからしばらく動かなかった。
君の目に見えている景色と、俺に見えている景色は違うんだろうか。
そう思えるほど、君は見るものすべてに楽しそうに、音がするほど心臓を弾ませる。
『深海の生き物』
解説に目を向けて、なぜここが他より薄暗いか理解する。
深海なんてどんな世界だろう。ここよりもっと暗くて、光もなくて、何も見えないんじゃないだろうか。
水槽に張り付いた君を見る。
君はきっと、深海に行こうが君自身が光を発して、すぐに見つけてしまうな。
現に今も、君はこの薄闇の中で、ぼんやりと光を放っているように見える。
その弾んだ心音がランプの明滅のように君を輝かせているのかい?
海の底で君を見つけても、君は今みたいに笑って目を輝かせて俺を見るだろう。
君はそっちの世界の人だけど、俺はこっち側の人で、同じ景色を見ているはずなのに君の世界は輝いてる。
でも俺の見ている君も輝いているから、もしかしたら海の底なら、君と同じ景色を見られるんじゃないかと、突拍子もないことを考えてしまう。
視線に気付いたのか、君が振り返る。
君の瞳は今そこにある深海を映したように深く蒼く、あぁやっぱり君は見ている景色が違うんだと妙に納得してしまった。
「綺麗だね」
君が笑う。
君の心臓の音につられて、俺の心臓もどきどきと跳ね回る。
ああ、もしかしたら、今なら俺も少しくらいなら光を発しているかもしれない。
君の隣に立って、深い深い深海に潜っていく。
君に見えている世界を俺にも見せてよ。
分厚い水槽の向こう、手を繋いで君が見ている世界に潜っていく。
二人分の光なら、暗闇も怖くない。

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