赤井 一悟
僕の冒険は朝が早い。仲間はまだ寝てる。 まだ日が上らないうちに起きて、重いまぶたを持ち上げると同時に体を起こして、装備を整える。 おっと、ちゃんと顔も洗って髪をとかすのも忘れてないよ。その辺は当たり前さ。出ないと目が重いままだからね。 装備を整えたらいざ出陣。 夏は涼しくていいけど、冬はやっぱり寒くて手が悴んで、武器がうまく握れなくなるからちょっと大変。 え? こんな朝早く何してるかって? あはは……恥ずかしい話なんだけど。 秘密の特訓……ってやつかな。僕はパ
「ねぇ、アンディ。敵はどのくらい?」 「四千くらいじゃね」 「……明らかにその十倍はいそうだけど」 するとアンディは「そうか?」と言って豪快に笑った。いつも耳障りなその笑いも、この状況下では、不思議と安心感を感じさせてくれる。 「しっかし。今日も増援なしか。辛いが信頼されることは嬉しい限りだな」 「けど今日で私たちも終わりね」 流石にこの人数を二人で守るのは無理がある。一気に攻められたら終わりだ。 私はもう諦めていた。 「そうだな。終わったら朝まで飲もう」 「は? あん
妹が飼ってる犬を三日ほど預かる事になった。犬好きな自分としてはこのお願いは嬉しい。そして何より妹の頼みは更に嬉しい。 兄の私は楽しみにしていた。のだが……。 「ごめーん、お兄ちゃん。三日ほどよろしくね」 「え、ちょっとまって」 「ちゃんと躾けてるから大丈夫だから。あと、ご飯は生肉をあげてね。サーロインかシャトーブリアンだとめっちゃ懐くから」 「お、俺の知ってる犬とちが……」 「ふふ、お兄ちゃんも初めて見るでしょ。この子きっと頭二つあるからケロベロスよ! うふふ。まさか現
これからがやばい。ついに来たラスボス戦。 前作の発売から八年。発売を待ちわびて、ついに手に入れた「ドラゴンファンタジーⅢ」。 没頭しつづけて、五日間。寝る間も惜しんでやる価値はある。 やはりRPGはいい。このゲームの世界に入り込める感覚は、RPGならではないかなってね。いや、もう俺は主人公で世界の平和を守る勇者だ。 「さぁ、かかって来るがいい」 ラスボスの熱いセリフが心躍る。 さぁ、戦闘が開始だ。 ふふ、自然とコントローラーに力が入るぜ。 まずは味方全員にバフを
1話 気になるアイツ あたし、姉ヶ崎聖子が気になったアイツは、根暗で、髪がボサボサで、分厚いメガネをして、授業以外ではずっと漫画かゲームばかりしている。 いわゆる、オタクってやつだ。 オタクの田中太郎。なんとも古風、いや時代遅れな名前だろうか。いや、まぁあたしも人のコト言えないかもしれない……けど太郎よりまし! もし彼の体型がまんまるだったら、オタクの上に「キモ」がついていたことだろう。 「キモ太郎……また読んでるよ」 訂正。体型は関係なかった。すでに
「段ボールはかくれんぼで最強だ」 あのとき自信満々で私に言った兄ちゃんの顔が、今でも脳に焼き付いて離れない。 兄ちゃんはかくれんぼするとき、必ず段ボールに隠れていた。段ボールがないときは、持参して段ボールを持って来るときだってあった。 けど、すぐに見つかってしまう。そりゃそうだ。 「兄ちゃん、どうして段ボールに隠れるの?」 「知らないのか? 我が妹よ」 駄菓子のココアシガレットをタバコみたいに加えてながら言う。 「フゥー。いいか? 段ボールってのは、伝説の傭兵が敵から
ラーメン屋を開業するため、仕入れた鍋を磨いていたら魔人が現れた。 しかも、ラーメンの魔人ではなく、カレーの魔人。 「かっかっかっカレー。わたしはカレー魔人。あなたが私のご主人様ですかれー?」 笑い方と語尾が……。 「かっかっかっカレー。さて。ご主人様。あなた様の願いを三つ叶えてあげますカレー」 「え、マジで!」 「マジカレーです。あなた様が食べいカレーをなんでも言ってください。何時間も並ばなきゃ食べられないカレーもすぐに食べらるカレー。例えば……」 「え、ちょっと待って
何にも思いつかない。やりたいことも見つからない。 せっかく早く起きたのに、いざ何か始めようにも、手がとまる。思考がぐるぐると回ってしまう。 「おいおい、何やってんだ。昨日の夜、俺に向かって宣言しただろう。明日から僕は変わるんだぁ! てよ」 「うるせーな。時計のくせに」 地元のフリーマーケットで手に入れた置き時計。家に着いた途端に、喋り出したこの時計は、魔法の時計だと言いはる。最初は気味が悪いと思ったが、なんだかんだで、三年の付き合いになる。もうなれた。 「ったくよ。なら
ドーナツ屋ができた。ある有名なデザイナーがデザインしたドーナツが販売されるということで世間が注目し、瞬く間に大人気となった。 ……そして世間はすぐに飽きてしまった。 一時は全国で八十万店舗、世界百カ国に店舗があったのに、日本に一店舗だけとなってしまったドーナツ屋。残りの一店舗はひっそりと隠れるように営業している。 そこに一人のお客さんが来店した。 「……いらっしゃい」 「あらあら、相変わらず元気がないわねぇ。いつもの貰えるかしら」 お客さんにそう言われ、無言で袋にド
寒い冬の朝。時間潰しに入ったパン屋で、ココアを注文した。朝は珈琲と決まっている。カフェインと珈琲の香りで朝の憂鬱な気持ちを奮い立たせる。けど、今日は目に入ったホットココアの名前に惹かれて注文した。 「今日はココアなんですね」 顔見知りになった店員さんのスマイルに少しドキッとした。 席について一口すする。 口の中に甘いチョコが広がった。肩の筋肉がほぐされて下に下がっていく。 ――ああ、脱力。 「甘い」に身体が歓喜している。 「甘い」に脳が幸せをたくさん出している。 「
女番長に体育館裏に呼び出された。 女番長なんて、そんな時代遅れな物が進学校で有名なこの学校にいるとは驚きだし、その女番長に群がってる連中の数にも驚きだ。男女合わせて一クラス分いるだろうか。 そもそも彼女が女番長ということも驚きだ。学年首位の天堂院竜子さん。委員長の間違いじゃないか? 「田中太郎」 ドスの効いた声で女番長は僕の名を口にする。すごい迫力で、無意識に猫背がピンとまっすぐになる。彼女の美貌とのギャップがすごい。 「おい、返事は?」 「ひゃ、ひゃい!」 緊張のあま
「お兄さん! どうだい、酒の肴に! 新鮮だよ」 「……いや。あの。この人なんすか?」 「何だ、お兄さん。人魚を見るの初めてかい? 珍しい鮭の人魚だ」 魚屋の親父はさも常識のように話すので、苦笑いしか出せない。いつから魚屋は人魚を売るようになったんだ? 「あら、いいわねぇ。息子に買っていこうかしら」 「え、買うの?」 見知らぬ隣のおばちゃんが人魚に向かって、買うとかいうもんだから思わずを声をかけてしまった。 「あら、ごめんなさい。あなたが買う予定だったのね。残念だわ〜」 「
懐かしい友人の岡田栄子ちゃんからメールが来たとわかったときは嬉しかった。 ……が、メールの件名をみた途端にその嬉しさは消え去り、見たくもないものへと変わってしまった。 件名『神山花織様へ 十九期卒 Gクリエイティブ専門学校同期会開催の案内』。 この手の連絡はいつか来るとは思っていた。 「卒業から十年か。そうだよね。そりゃ来るよね」 私は夢であるゲームクリエイターになるべく専門学校に進学し、勉学に励んだ。 卒業生の情報くらい掴んでほしい。なんてものを送ってくるんだま
富士をみた。 「いや、あれはタラナキ山だ」 鷹をみた。 「いや、あれは隼だね」 茄子をみた。 「いや、あれはズッキーニ」 ……おい、なんで似たようなやつばっかなんだ。夢なんだから本物見せろよ。 「本物こそ現実で見ましょう。本物はいいものですよ」 僕は目を覚ます。
「そういえば、アレ……どこ行ったんだ」 ふと今年を走馬灯のように振り返っていると、ふとアレのことを思い出した。 色々あった嫌なことも楽しいことをそっちのけで、アレの行方が気になって仕方がなくなる。 アレとは、会社で使っていた『電卓』のことだ。キャノンのそこそこいいやつで気にっていた。 仕事柄あまり計算とかしないが、電卓は風水的に金運が上がるというから、買って机に置いておいたのだ。そう、たしかにおいたのだ。 「……いつからなくなった?」 ダメだ思い出せない。というより
西野亮廣さんのエッセイ本「ゴミ人間 日本中から笑われた夢がある」を読ませていただきました。 夢を持っている人は是非読んだほうがいい。 えんとつ町のプペルの映画を観て涙した人は是非読んだほうがいい。 ■学んだこと実践すること3つ 1、「お金」「広告」「集客」を学ぶ 2、環境を変えること、行動すること 3、お客さんに届けるまでが作業である 1、「お金」「広告」「集客」を学ぶ ホントに最後の方に「お金」「広告」「集客」を学べと出てくる。 絵本「えんとつ町のプペル」がヒ