見出し画像

ファンがいるドーナツ屋

 ドーナツ屋ができた。ある有名なデザイナーがデザインしたドーナツが販売されるということで世間が注目し、瞬く間に大人気となった。
 ……そして世間はすぐに飽きてしまった。
 一時は全国で八十万店舗、世界百カ国に店舗があったのに、日本に一店舗だけとなってしまったドーナツ屋。残りの一店舗はひっそりと隠れるように営業している。
 そこに一人のお客さんが来店した。
「……いらっしゃい」
「あらあら、相変わらず元気がないわねぇ。いつもの貰えるかしら」
 お客さんにそう言われ、無言で袋にドーナツを袋に包んでいく。
「千円です」
「はいよ。いつもありがとね。おや? これは何だい?」
「……新作。サービス」
 店員は視線を外し、お客さんは笑みを浮かべた。
「また変な形だねぇ。でもありがたくいただいていくよ」
「また……ご来店を」
 ドーナツ屋は明日もひっそりと営業します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?