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これからラスボスを倒しに行きます

 これからがやばい。ついに来たラスボス戦。
 前作の発売から八年。発売を待ちわびて、ついに手に入れた「ドラゴンファンタジーⅢ」。
 没頭しつづけて、五日間。寝る間も惜しんでやる価値はある。
 やはりRPGはいい。このゲームの世界に入り込める感覚は、RPGならではないかなってね。いや、もう俺は主人公で世界の平和を守る勇者だ。
「さぁ、かかって来るがいい」
 ラスボスの熱いセリフが心躍る。
 さぁ、戦闘が開始だ。
 ふふ、自然とコントローラーに力が入るぜ。 まずは味方全員にバフをかけて、それから。「はっ?」
 突然画面が真っ暗になった。コントローラーをいくら入力しても反応がなく、一分経ったが真っ暗のまま。
「え、なにこれ。イベント? え、まさかバグ? バグったのか!」
 待ってくれ、セーブしてない。4時間ぶっ通しでやって、セーブせずに行っちゃったよ!
「お願い……」
 画面から音声が聞こえた。これ……ヒロインのローラの声だ。
 なんだ。やっぱイベントだった? よかったわ。戦闘開始直前にこんなイベントを用意しているとは。やるじゃないか。フヒ。
「お願い、この世界を……救って」
「おっけおっけ! 救う救う! ラスボス倒しちゃうよ!」
「ありがとう。どうが、お願いします。勇者様」
 画面が明るくなる。いや、光出す。電球のように光出す。
 いや、まって眩しくて開けてられない。
「いや、ホントどういうイベント!」
 突然の光は段々と収まっていき、ようやく目が開けられるようになった。
「……知ら、ない、天井?」
 さっきまでソファーに座ってゲームしていたのに、なんで寝てんだ。というかここどこだ。自分の部屋じゃない。
「あら、シルク。起きてたのね。もうあなたも十六歳だものね」
 混乱していると、ガチャっとドアが開けられた。
 知らない女性が部屋に入ってきて、俺に優しく話かける。
 あ、まって。この人どこかで……。
「さぁ支度をして。今日はあなたの大事な日よ。あなたが勇者として、世界に旅立記念すべき日」
 待ってくれ、そのセリフには覚えがあるぞ。主に五日前に!
 混乱している頭がだんだんと整理されてくる。まった。そうだ夢だこれ。ちょっと頬をつねれば夢から覚めて……。
「……戻らねぇ」
「何を馬鹿なことをしているの? 王様が待っているんだからね。お母さん、張り切ってご飯つくったから。下で待っているわね」
「ちょ、え。まっ」
 間違いない。これってまんま五日前に夢中でやり始めた「ドラゴンファンタジーⅢ」の冒頭のシーンだ。異世界転生をしてしまったのか。しかも、大好きな「ドラゴンファンタジーⅢ」の世界に。ということは、これから王様にあって子供のお小遣い程度の金を渡されて、仲間を集めて、ヒロインのローラと出会って、魔王軍四天王と熾烈な戦いをして、魔王を倒したと思ったら、黒幕がいて大騒ぎして……つまり非現実なオタク大好きな異世界ライフを過ごせるということか!
 最高じゃないか! そして最後はローラといろいろしてしまうんですね!
「あ、俺の元身体ってどうなってんだ?」
 ……まいっか!
 今の俺に頭の中にはローラとのいちゃいちゃしかなかったのだった。

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