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オタクに恋したギャル子ちゃん 1話

 1話 気になるアイツ

 あたし、姉ヶ崎聖子が気になったアイツは、根暗で、髪がボサボサで、分厚いメガネをして、授業以外ではずっと漫画かゲームばかりしている。

 いわゆる、オタクってやつだ。

 オタクの田中太郎。なんとも古風、いや時代遅れな名前だろうか。いや、まぁあたしも人のコト言えないかもしれない……けど太郎よりまし!

 もし彼の体型がまんまるだったら、オタクの上に「キモ」がついていたことだろう。

「キモ太郎……また読んでるよ」

 訂正。体型は関係なかった。すでにあたしの周りで言われていた。しかもあだ名がつけられている。

 それはそうだろう。

 周囲など気にもせず、如何にも「オタク」を象徴するような美少女イラストの描かれた漫画を、カバーもせずに読んでいるのだ。

 女子が多いこの学校ではなおのことキモがられる。

 去年、私が入学した年なのだけど、女子校から共学に変わった。よくある少子高齢化による、定員割れの対処方法の一環らしい。

 共学に変わったこの学校に、田中正太郎は入学していた。

「キモいオタクが、女子目当てで入学した」

 そんな噂がすぐに広まった。女子の噂は早く、入学して一週間も過ぎないうちに、田中太郎は女子から毛嫌いされた。

 ここで同じく入学した他の男子たちと混ざれば、肩身の狭い男子生徒の一員で済んだのだが。なんと田中太郎は、男子からも距離を取られてしまった。

 もちろん最初からではなく、他の男子生徒は田中正太郎を仲間へと誘った。

 休み時間のとき。

「田中くん! ゲーム好きなんだね。俺も好きなんだ。今度一緒にやろうよ!」

「……いや。いい」

 お昼のとき。

「田中くん。一緒にご飯たべよう!」

「……いい」

 下校のとき。

「田中くん。これらみんなでカラオケに」

「……さよなら」

 いやいや、感じ悪すぎでしょ。

 そんな田中太郎の態度に嫌気が指した男子も、それを見ていた女子もさらに、毛嫌いするようになったのだ。

「……」

 けれど、田中太郎は特に気にすることなく、一年生を過ごして二年生へと進学し、そして変わらず授業以外では漫画かゲームをずっとやっているのだった。

「ホントマジで、教室であんなの読んでほしくないんだけど」

「まぁ。無害だし。いんじゃない」

「いやいや。あれ、絶対家で色々やっているって。聖子、あたしらオカズにされてっから」

「ちょ、変なこと言うのやめなよ。聞こえるよ。そうじゃないかもしれないじゃん」

「え、なになに? 聖子ぉ、キモ太郎のことかばうじゃん。もしかしてぇ、あういうのがタイプぅ?」

「ちょっと。怒るよ」

「冗談だって冗談。そんなことないってわかってるから言うんじゃん。よ! 読モで清掃系ギャル子ちゃん代表の聖子ちゃん」

「いやいや。代表とかじゃないから」

 あたしは呆れたようにため息交じりで言った。

 まったく、ホントにもう。

 ――ちょっと内心ドキッとしてしまったじゃないか。

 ええ、そうです。最初に言ったけど、あたしはアイツのこと、田中太郎のことが気になっております。

 正直いうと、好きに近いです。

 みんなは知らない。

 みんなキモ太郎とか言っているけれど、その分厚いメガネの奥は、キリッとした凛々しい瞳をしていて、ボサボサの髪を少しでもかき分けたら、韓流イケメン顔負けの美形の素顔があることを。

 偶然だった。

 あたしは、彼が水道で顔洗っていたところ目撃した。なんで顔を洗っていたのかは、わからない。けどそのおかげで、私は彼の素顔を知ることができた。

 胸が鳴った。トキメイたと言っていい。

 オタク用語に「ギャップ萌え」というのがあるのを知った。多分、それだ。

 それからあたしはアイツの、太郎くんのことが気になっている。もし可能ならデートがしたい。そして恋人同士になりたい。

 一人で悩む日が続いたが、友達に相談するわけにはいかなかった。

 恥ずかしいからではない。オタクな容姿は、恋人同士になったときに、いくらでも改善できる。

 一番の問題は、太郎くんの素顔を他の女子たちに知られてしまうことだった。

 それは絶対ダメ。

 美形であることを知ったら、あたしのように手のひら返しをしてくる女子は絶対にいる。

 もちろん、負ける気はしない。これでも読モで、しかも大手芸能事務所からスカウトが来るくらいあたしはかわいい。

 あたしは太郎くんの秘密を独占したい。

「それにしても……今どき分厚いメガネはないよねぇ。せめて、メガネ変えればいいのに」

「いや、それはダメでしょ」

「え、なんで?」

 しまった。

「い、いや。ほら、メガネ変えてキモい顔がさらされるのは、もっと目に毒かなって」

「ああ、それはありえるね」

「でしょ?」

 あ、あぶなかった。

 太郎くんの素顔がバレてないのは、あの分厚いメガネのおかげなんだ。変えられてしまったら、素顔がバレてしまう。

 これは、悠長なことをしている暇はないかもしれない。

 太郎くんと恋人同士になることを想定して、今は絶賛オタクの勉強中。それが終わった後に、積極的に太郎くんにアタックする予定だったのだけれど。

「……もう行動しないと行けないかもしれない」

「ん? 聖子、なんかいった?」

「んーん。何も」

 作戦変更。

 オタクの勉強は太郎くんにアタックと同時並行で行う。

 あたしは、決意を固めた。



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