とりあえず朝飯作って見た

 何にも思いつかない。やりたいことも見つからない。
 せっかく早く起きたのに、いざ何か始めようにも、手がとまる。思考がぐるぐると回ってしまう。
「おいおい、何やってんだ。昨日の夜、俺に向かって宣言しただろう。明日から僕は変わるんだぁ! てよ」
「うるせーな。時計のくせに」
 地元のフリーマーケットで手に入れた置き時計。家に着いた途端に、喋り出したこの時計は、魔法の時計だと言いはる。最初は気味が悪いと思ったが、なんだかんだで、三年の付き合いになる。もうなれた。
「ったくよ。なら試しに普段食べない朝飯でも作ったらどうだ。せっかくお袋さんが新米を送ってくれたんだ。炊いて食えよ」
 いちいち命令口調なのはムカつくが、確かにこいつの言われた通りにするか。
「米炊くの久しぶりだなぁ」
 IHの圧力炊飯器は買って以来、片手数えるくらいしか使っていない。
 毎日炊いて、自炊するんだと生き込んで買ったのだが。
「まさしく無駄だな」
「心読んでくるなよ」
 研いだ米を炊飯器にセットする。早く食いたいから早炊きにした。
「美味しく炊けますように」
 次は、味噌汁だ。これも全然消費されていない。
「賞味期限は……あ、まだ全然いける」
「具は豆腐がいいな」
「何でお前の好みに合わせんだよ」
 この冷蔵庫に豆腐なんて大層なものはない。
「げ、もやしの味噌汁かよ。しけてんなぁ」
「俺が食うんだよ!」
 いちいち突っ込んでくる喋る時計の相手をしているうちに味噌汁はすぐにできた。
「うん。悪くない」
 
 米が炊き上がる。
 できも悪くない。
「おかゆになってねぇか?」
「なってねぇよ」
 そこまで下手にはなっていない。
 米をつぎ、味噌汁をついでテーブルへ乗せる。
「たく、ご飯と味噌汁だけかよ」
「……いただきます」
 うるさい時計を無視して、箸をすすめる。
「うん。うまいな」
「かっかっかっか。いいなぁ。俺も食いたいなぁ」
「食えるように作ったやつに改造してもらえよ」
「ああ、そうするよ。手と口をつけてもらおう。そんで寿司を食うんだ」
「いや、俺の朝飯食わないんかい」
 喋る時計をくだらない会話を進めながら、箸をすすめとあっという間に食べ終わる。
「ごちそうさま」
「へへ、んで相棒。次は何すんだい?」
「そうだな。散歩でもいくかな」
「いいね。俺も連れてってくれよ」
「仕方なねぇなぁ」
 喋る時計との散歩か。
 なかなか想像するとシュールだなと、笑えてくるな。
 今日は何だか充実しそうな予感がした。
 

 

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