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兄妹の段ボールのように分厚い絆
「段ボールはかくれんぼで最強だ」
あのとき自信満々で私に言った兄ちゃんの顔が、今でも脳に焼き付いて離れない。
兄ちゃんはかくれんぼするとき、必ず段ボールに隠れていた。段ボールがないときは、持参して段ボールを持って来るときだってあった。
けど、すぐに見つかってしまう。そりゃそうだ。
「兄ちゃん、どうして段ボールに隠れるの?」
「知らないのか? 我が妹よ」
駄菓子のココアシガレットをタバコみたいに加えてながら言う。
「フゥー。いいか? 段ボールってのは、伝説の傭兵が敵から隠れるために実際に使われてたんだぜ」
「でも兄ちゃん、すぐ見つかっているよ?」
「スゥ……フゥ。それはまだ未熟だからさ」
あとからママに聞いたら、ハマっているゲームの主人公に影響されていたとのことだった。
兄ちゃんは隠れるのは下手だったが、見つけるのはすごく上手だった。
「兄ちゃん、どうしてそんなすぐ見つけられるの?」
「それはな、我が妹よ」
またココアシガレット咥える。
「俺の第六感がそう叫ぶんや。俺だったらここに隠れる……てな」
なら自分もそこに隠れればいいやん。
と言うと、兄ちゃんは「俺は段ボールで世界を取りたいんや」と誇らしげに私に言った。
本当に何を考えているのだろうと、すごく思ったが私の第六感が、これ以上言ってはダメと叫んだので言わなかった。
兄ちゃんは、段ボールにのめり込んでいた。
年齢を重ねるごとに、隠れるための道具から、新しいものを生み出す素材として見るようになった。
「兄ちゃん、すごーい!」
「へへ、どうだかっこいいだろう!」
アニメにでてきた剣や銃。私の好きなキャラの武器を作ってくれたときはすごく感動した。
「見ろ! 我が妹よ! ロボだぞ!」
「兄ちゃん、もう中学生なんだから、もう段ボールはさ。他のことして遊ぼうよ」
興味はなかったが変形するロボットを作ったときは、さすがに驚いた。
「見ろ! 段ボールで小屋作ってみた」
「……はぁ。ねぇそんなのより、映画行こうよ」
兄ちゃんが高校生になっても段ボールでのものづくりを続けた。私はすでに呆れていたし、うんざりしていた。
けれど、代わりに周りが評価するようになっていった。
そして兄ちゃんは大学生。私は高校生になった。
「ねぇ、兄ちゃんは?」
「仕事よ。今度は海外から段ボールアートの依頼ですってよ」
兄ちゃんはどんどん有名になっていった。
パパもママも、まさかあの段ボール工作が仕事に結びつくとは思ってなかったので、思わぬ息子の成果に大変喜んでいた。
「ほら見て! テレビで紹介されてるわよ! パパに連絡しなきゃ」
けれど、私は全然うれしくなかった。
なんだか何年も兄ちゃんと話してないような、そんな感覚にも駆られる。
「兄ちゃん。今日は帰ってきてほしかったなぁ」
兄ちゃんがテレビに出る日は、メールが多くなる。
お兄さんすごいね。
お兄さんってお金持ち?
お兄さんを紹介してよ。
お兄さんって彼女いるの?
毎回同じ内容に、私はもううんざりだった。
「兄ちゃん。いいね。楽しそうで」
私は兄ちゃんの部屋にはいる。
そこは兄ちゃんが作った段ボールアートの山だ。
「あ、これ。第一作の剣だ」
これでチャンバラやってすぐ折れたっけ。
あ、これ。確かこのあたりから、変形するロボットとか剣を作り始めたんだっけ。
それにしてもまぁ、飽きずにここまで作ったもんだ。
「あ、これまだ残ってたんだ」
部屋の隅っこに、ただの箱型の段ボールが置かれていた。
それは兄ちゃんがかくれんぼでよく使っていたやつだった。
兄ちゃん曰く、かくれんぼ最強の段ボール。
「……よいしょっと」
私は段ボールに入ってみた。意外とすっぽり入った。
こんな風に隠れてたんだ。私、なんだかで初めて入ったかも。
それにしても。
「なんか落ち着く」
私のまぶたは自然とふさがってしまい、そのまま眠ってしまった。
「みーつけた。なーにしてんだ、我が妹よ」
「ん、んー? 兄ちゃん?」
まぶた越しからの光と、聞き覚えのある声で私は目を覚ました。
「こんなところで寝るなんて、中々器用なやつだよ」
「あれ……兄ちゃん、仕事は?」
「キャンセルしてきた」
「え、どうして?」
「だって今日お前の誕生日じゃん」
そう言って兄ちゃんは、懐からココアシガレットを口に加え、タバコみたいに扱う。
部屋の外からママの呼ぶ声が聞こえてくる。
「ねぇ兄ちゃん、よく私を見つけたね」
「それはな、我が妹よ。俺の第六感が叫ぶんだ。俺だったらここに隠れる……てな」
「段ボールはかくれんぼで最強だから?」
「おう! よくわかってるじゃん。さすが我が妹だ」
兄ちゃんは嬉しそうに笑った。
「ねぇねぇ、兄ちゃん。誕生日プレゼント。何くれるの?」
「段ボールで作った変形するペンダント。超軽量化に成功した最高傑作だ」
「うわぁ、いらねぇ」
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